第三章 煙まみれの音楽
昔々、1991年の日本で音楽ゲーム、「リズミックリリック」が発売されました。ゲームは大ヒットし、世界的に有名になりました。
そして現代、一人の男がリズミックリリックの英語版のカセットを手に入れました。
しかし、そのゲームは、どこかおかしい。進める内にノイズが入り始め、存在しないはずのステージにたどり着きました。男はそのステージを攻略しようとしますが、力及ばずゲームオーバー。その瞬間に意識を失ってしまいました。
「PLAY WITH ME(私と遊んで)」
男の知り合いが駆け付けた時、ゲーム画面には、それだけが表示されていました。
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「…って話がさ!ネットに出回ってるんだよ!」
同じクラスでドッジボールが大好きな寅ヶ屋 威は、翔烏と結兎に熱弁した。
「あのね寅ヶ屋君!ネットの話って、嘘ばっかりなのよ!信用ならないわ!」
結兎は諭す様な口調で返した。
「いやそれがさ…ここだけの話、あるんだよ。そのカセット、俺ん家に。」
威は口に手を添え、小声で二人に言った。そんな都合の良い話が果たしてあるだろうか?
「なんでそうだって言い切れるの?」
翔烏は威に問い詰めた。
「俺の親父がさ、隠してるの見たんだよ。しかも、英語が書いてあるカセットをさ!親父、龍巫と似た様な仕事してるし、絶対そうだって!」
威は信じきっていたが、翔烏と結兎は冷たい視線を向けた。
「な、なんだよ!そんな目するんなら、今日俺ん家来いよ!親父はその時間いないからさ!証明してやるよ!」
翔烏と結兎は目を見合わせたが、特に予定も無いので行ってみる事にした。
「あの、そもそもリズミックリリックって、どんなゲームなの?」
午後、威の家に入った時結兎が言った。
「えー!お前知らないのかよ!」
威がカセットを持ち出し、テレビをつけながら言った。テレビからは「素晴らしい世界マイルド、日曜朝8時放送!」と番宣が流れていた。ケイトは翔烏の袖を引っ張っている。
「音楽に合わせてボタンを押すゲームだよ!リズってキャラを操作するんだ!そんでもっていろんな奴らとリズムバトルをする!」
威がカセットを指さす、そこには前髪で両目が隠れたオレンジ色のおかっぱ頭に黄色い8分音符の髪飾りを身に付け、マイクを持ち、笑顔を浮かべた少女と、「Rhythmic Lyric」とタイトルが描かれていた。
「り、りずむばとる…?翔烏ちゃん知ってる?」
「知ってるよ、やったことあるし。」
「え!マジかよ!どこまで行った!?」
「裏ボスも倒したよ。」
威はますます目を見開いた。結兎はよく分かっていない様だったが…。
「じゃあこのゲーム、お前やってみてくれよ。」
「え!?なんで私が!?」
「実はさー、やったことないんだよこのゲーム。親父が日本語版やってるの横から見たことあるだけでさー。」
「翔烏!危険!危険!」
ケイトの方を向き、尻尾が光っている事に、漸く気付いた。…カセットを指している…!
「翔烏ちゃん、これって…!」
「…うん。」
「え?どういう事?」
翔烏は深呼吸をし、ゲーム機にカセットを差しながら二人にこう伝えた。
「何かあったら、すぐに逃げて、おばあに連絡して。」
「うん!」
「親父にも連絡する!…多分こっぴどく怒鳴られるけど…。」
翔烏は神妙な面持ちで、ゲーム機の電源を入れた。
BGMと共に、タイトルが表示された。…ここまでは普通だ。
「問題はこの後…だね。」
結兎は不安そうに言った。
その後、何事もなくステージを攻略していったが、ステージ2に差し掛かった段階でノイズが走り始め……何故か、いつもなら左側の対戦相手の方を向いているリズが、正面を向いていた。対戦相手の姿は、無い。
その時、にっこりと笑ったリズの口が開き、赤い瞳が姿を表し……。
「PLAY WITH ME(私と遊んで)」
リズムバトルが、始まった。
「寅ヶ屋君早く!呼ばないと!」
「いや待て…こいつ、全然ミスしない。いけるかもしれないぞ…。」
「何言ってるのこの子!あたしおばあちゃん呼んでくるからね!」
翔烏はゲーム画面から目を離さない。コントローラーさばきは、実に正確なものだった。
そして………。
「GAME CLEAR!」
やった、勝った。所々ミスもしたが。
その瞬間、カセットから黒い煙が吹き出した。禍煙だ。
「変身!」
翔烏は逃げようとする禍煙に向かって、ありったけの力を込めた。
「電光石火!!」
「続いてのニュースです、原因不明の昏睡状態になっていた男の意識が、回復しました。」
「良かったな翔烏!助かったみたいだ!」
達也が朝ごはんを食べながら言った。
「うん!」
あの後、昴が駆け付けた頃には全てが終わっており、威は宣言通りお父さんにこっぴどく怒鳴られたらしい…。よっぽど厳しい堅物なのだろう。威のお父さんは。
そして、たまには昔のゲームで遊ぶのも良いかなと、翔烏は思った。