第97話 創造者権限:極
多くの茶色の触手と千の槍が降り注ぎ、ユーライを襲う。それに対しユーライは[夢影の迅閃]と[極楽が示す静寂]を発動した。
[夢影の迅閃]は、いわば不可視の斬撃を飛ばす技。等級はエピック級にも届かないレベル3EXであるが、ユーライの素の戦闘力により威力が底上げされている。
[極楽が示す静寂]は……
ラリバルトが剣を振るおうとしたその瞬間、周囲は純白の静寂に包まれた。
(何が起きている……? これは……当時は持っていなかったスキル……それとも……)
すると目の前にユーライが姿を現し、一つの声が静寂を破った。
「極楽へ」
その瞬間、静寂で包まれた白い世界が、凄まじい轟音、爆発と共に崩壊した。ラリバルトは咄嗟に[麗塵剣]で身体を覆い、なんとか致命傷を免れた。しかしダメージを負ったのは事実だった。
「ハァ……ハァ……お前、こんなもん隠し持ってやがったのか……」
しかしユーライはほとんど消耗していないようだった。
「魔族になったにも関わらず、魔王様の祝福を受けないからそんな軟弱になるんだよ。ラリバルト」
慈悲のこもった冷たい目で、ユーライはラリバルトを見下した。しかしラリバルトは、笑みを浮かべた。そしてユーライには聞こえない程度の声でつぶやく。
「おせーんだよ馬鹿」
「なに?」
ユーライが何を言ったかラリバルトに訊こうとしたその瞬間、ユーライの視界が黒いマントで覆われた。そして反応する暇もなく、白い剣の輝きが目に入る。
「っ!」
ユーライは咄嗟に後ろへ跳んだが、足に深い傷ができていた。
「……プライドが高い君が、こんな手を使うなんて……驚いたね。君は……一体誰かな?」
ラリバルトを守るように構えたのは、幾度もセイ達を見守ってきた、黒の魔剣士だった。
「魔王軍四天月【白の月】、元【白王の勇者】ユーライさん……貴方に名乗る程の名は持ち合わせていないの。
でもこれなら……
自己紹介代わりになるかしら?」
そう言って右手で銃のジェスチャーをしてユーライに向けた。避けようとした時にはもう遅かった。ラリバルトが[麗塵剣]でユーライを抑えつけたのだ。しかも足に深手を負い、思うように動けない。
(まずい……! あの女……絶対バケモンみたいな力を持ってやがる!
くそっ! なぜだ! なぜ足が再生しない!?)
「[創造者権限:極]♪」
「ピュン……」
黒の魔剣士の指先から、一瞬、白い線が飛び出しユーライの腹部を貫通した。その時、ユーライにダメージはなかった。しかしその直後、
「ズドォォ――ン!!」
その白い線を中心に、直径一メートルほどの閃光が経路上の全てを吹き飛ばした。そこに残されたのは、腹に大きな穴が開いたユーライの身体だった。ラリバルトは歩み寄り、
「【永星の勇者】が、現れた。俺はそいつに、未来を託すことにした」
「……そう……か……
どちらに、せよ……魔王軍四天月【白の月】としての僕は……死んだ……
君が……未来を託すほどの、逸材を……見つけたのなら……僕も……それに、賭けて、みる……とするよ……」
そしてユーライは力尽き、完全に死んだ。
「ふふっ……ラリバルトさん、私が来るのを知っててわざとあの状況を作り出したでしょう?」
黒の魔剣士はラリバルトに尋ねる。
「ユーライと戦い始めた時にお前が来たのに気付いた。神と同じ気配がしたから頼ってみることにした」
「そう。でもまぁ、あの子達の役に立っているのなら、こういうのも悪くないわね」
ラリバルトはコミュニケーションに慣れていなかったのでとりあえず名を聞くことにした。
「……名前は何だ。もしこれからも協力関係になるのなら名を知るに越したことはない」
黒の魔剣士は少し考え、こう答えた。
「そうね……まぁ、アルカと呼んでくれたらいいわ」
「こっちだーーー!!!」
「敵は2人だ!! 殺せ!!!」
ラリバルトの襲撃に気付いた他の魔王軍が迫ってきていた。
「あらあら……早速、めんどくさい事になったわね」
すると急に無数の剣と槍が飛んできて、魔王軍の足を止めた。
「お二方! 大丈夫ですか?!」
崩壊した壁の瓦礫の向こうから、飛行する黄金の盾に乗った少年が来た。ヲウルトだった。
アルカはセイ達を長らく見守ってきた中で、ヲウルトを見たことがった。
「あなたは……ヲウルト、だったかしら。大丈夫よ。
少なくとも私たち二人なら、あなたより強いから」
「え? それはどういう……」
ヲウルトが疑問を口にする前に、アルカとラリバルトは動き出し、魔王軍を次々と斬っていった。アルカは目にもとまらぬスピードと滑らかな剣技で突き進み、ラリバルトは一撃一撃の圧倒的な威力で敵をなぎ倒していく。
「な、なんなんだこの2人……!」
ヲウルトが驚いて固まっている間に、2人はほとんどの敵を倒していた。そんな中、アルカの背後に一人の兵が迫っていた。ヲウルトは慌てて剣を射出しようと構えた。
兵の剣がアルカの首に迫ったその瞬間、アルカはその存在に気付き、粉々に切り刻んだ。
「……」
「これで最後だったみたいね。ヲウルトさん、あなた達の拠点に彼を連れて行ってくれないかしら?」
「アルカ、お前は来ないのか?」
「そうね……あの子達の前に現れるのは、この騒動が終わってからでも十分だもの」
そしていつの間にかアルカは姿を消していた。
「えっと……こちらへどうぞ……」
ヲウルトは状況を呑み込めないままラリバルトを拠点へ連れて行った。ラリバルトは見た目は魔族だったが、魔王軍を倒すのを見ていたため、味方ではある事を知っていた。が、何を話せばいいか分からず、拠点に到着するまで気まずい沈黙が続いた。




