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第94話 千刀流の伝説

 「やっと見つけた。セイ・アインシトル。アインシトル家からここまで強い奴が現れるとはな。

 邪魔者は消した。やっと話ができる」


 この少年が用があるのはセイだったようなので、カイルに先に戻って状況を報告するように伝えた。

 セイはカイルを送り出し、振り返った。そこには鋭い目つきの少年が立っている。しかしそれが纏うオーラは、とてもその見た目とは不釣り合いな物だった。


 「俺はラレム。簡単に言えばニ万年前からきた、遥か過去の人間だ」

 二万年前というのは、主要次元連盟ができる前であり、神域戦争すら始まっていない時代で、セイにとっては信じられない事だった。

 「は? 誰がそんな事を信じるとー」

 しかし、セイの言葉を遮ってラレムが発した言葉は、その信頼を勝ち取るには十分なものだった。


 「【()()】を殺すため、あの三人を目覚めさせるため、オブロウに頼まれ、現在(ここ)で目覚めた」

 セイは、超機密情報である【記憶】がその口から発せられ、動揺を隠せなかった。

 「それってどういう……あの三人って……」


 「だがお前達は、次元をかけた大きな戦の途中らしいな。過去の人間である俺には、これに干渉するつもりはない。

 だから、これが終わるまでは待とう。詳しい話はそれからでいい。戦が終われば、ベルクリア郊外、()()()()に来い」


 「いや、どういうこー」

 セイが気になる事を聞く前に、ラレムは大鎌を振り上げ、ノイズが入った空間の裂け目に入っていった。

 「な、何だったんだ……」



 その頃、神話会とヂーナミア軍、異端審問官(インクイジター)は、ゲノス領に到着していた。

 「うわっ! キモッ!」

 ユナの悲鳴が響き渡る。今皆が戦っているのは魔蟲族。蜘蛛型やムカデ型、ダンゴムシ型、更にはカブトムシ型のような少し大きめのものもいる。知能は低いが数が多いのだ。それが、コーナスがヂーナミア軍をゲノス領に向かわせた理由でもある。


 軍と異端審問官(インクイジター)は剣で蟲を切り裂いていき、紫の血しぶきが上がる。一方神話会は、広範囲攻撃の他に有効な戦闘方法を模索していた。

 「この蟲……すくなくとも数十万はいる……!

 そうだな……」

 テヌドットは一般兵では対応できないような大きめの蟲を斬り続けた。その時、テヌドットの頭に浮かんだのは、虫を火で炙って遊んでいた子供を注意した時の光景だった。

 「……! レヌベータ! 君の炎、蟲を効率的に倒せていないか?!」

 テヌドットは戦いながらレヌベータに尋ねる。

 「あ?! まぁこの中では一番倒した数は多いが!」

 「それならよかった! もしよかったらできるだけ広範囲を燃やしてくれ! 最高出力でぶちかませ!!!!」

 レヌベータは拳をぶつけ、気合を入れる。

 「オレに……命令してんじゃねぇぇぇええええええ!!!!!!!!!!」

 「ドゴオオオオオオン!!」

 鼓膜が破れそうなほどの轟音が空間を揺らす。数多の蟲は灰になり、また数多の蟲は熱風によりその形が崩れ解けていった。


 新たなクレーターには、マグマのような溶けた岩石が揺れていた。

 「ハァ、ハァ……」

 レヌベータが息を切らせた時、後方のヂーナミア軍から叫び声が聞こえた。テヌドットが振り返った。すると軍の兵がテヌドットの元に走ってきた。

 「しゅ、襲撃です! 後方から魔王軍が攻めてきました!」


 「後ろからの襲撃だと!?」

 すると軍の先頭を歩いていたレイが、後方へ走った。

 「……前方のゲノス領は任せた」


 レイを送り出したテヌドットを見た軍の兵はテヌドットに尋ねた。

 「襲撃してきたのは、少なくとも五万以上の軍勢でした。1人を向かわせただけで大丈夫なのですか?」

 テヌドットは再び前を向き、迫りくる蟲を睨んだ。

 「心配はいらない。少なくともレイは、対複数戦ならこの中の誰より向いている」


 レイが後方に到着すると、軍は襲撃で戦力がかなりそぎ落とされ、魔王軍に押されていた。レイは刀を抜く。

 レイのスキル等級は、レベル3EXと、神話級には背伸びしても届かない。しかし幻影録には1つ、レイを最強の異端審問官(インクイジター)へと押し上げた、ある特徴がある。それは、

 同時に召喚する幻影の数に上限がない点だ。


 「[界眼]、2.25%」


 後方を襲撃したのは、精鋭揃いの魔王軍の八万の軍勢だったが、レイはその兵一体一体に一つの幻影を召喚した。兵が反応するより早く、その全ての幻影は同時に動きだし、魔王軍を一体一体切り殺し、刺し殺し、絞め殺した。


 レイは、その人間離れした集中力、空間把握能力、動体視力を生かし、決して等級が高いわけではないスキルで、たった一人で八万の軍勢を全滅させたのだった。


 ヂーナミア軍も精鋭である。すぐに状況を立て直し、神話会の蟲討伐の協力にまわった。

 「ヂーナミア王に栄光を!」

 軍の士気も上がり、連合軍全体に勢いがついてきたその時、周囲に轟くような声が響いた。

 「我が子らを……焼いて愉しむ愚か者共は……貴様らか!!」


 「その言い草……ゾルトリッチか!?」

 レヌベータがその声に耳を傾ける。

 「まぁいい! 今からそっち行くからな! お前の子供と同じ場所に送ってやるよ!」

 そう言ってレヌベータは蟲の群れに突っ込んだ。が、流石にテヌドットがそれを止めた。

 「やめろ! 無策で大軍に突っ込むつもりか! ゾルトリッチがどこにいるかも分からないというのに!」


 するとレヌベータは不思議そうな表情をして答えた。

 「ゾルトリッチの居場所? そんなん分かり切ってるだろ」


 あの戦いの中で、最も乱雑な戦い方をするレヌベータが、誰も気づかなかった事に気付いた事に、木田はとても驚いていた。

 「なに?!」

 「蟲のほとんどあの洞窟から出てきてる。蟲を我が子らって呼ぶってことはその世話をしなきゃなんねえ。なら同じ場所にいるってことぐらい思いつくだろ。

 少なくとも、あの近くにはいるだろうしな」


 テヌドットも動揺を隠せなかったが、それに乗る事にした。

 「神話会総員! 突撃! 目標はあの洞窟だ!」

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