第89話 吸血鬼の倒し方
「待て、わざわざ強力な戦力、と言うって事は私はそれに含まれているんだな?」
コーナスの表現に、レイは疑問を口にした。
「はい。また、これには神話会のヲウルト様も含まれていましたが……テヌドット様、ヲウルト様の等級は……」
セイは、なぜテヌドットがヲウルトを連れてきたのか分からなかった。
「限りなく神話級に近いEX伝説級だ」
コーナスはその言葉を疑う事なく話を進めた。
「なるほど……心強いですね。では続きを。
魔界に簡易拠点を築いた後、勇者パーティ、ストラシア、異端審問官、ヂーナミア軍で前線を押し進め、同時に、そこから一番近い四天月の領地、【藤の月】べリオン領を神話会の方々に攻めていただきます」
「分かった」
テヌドットは指示を聞くと、神話会の面々に準備を進めるよう伝えた。しかしセイの頭には疑問があった。
(四天月……?)
『マスターの記憶の中のもので言えば、「四天王」と同じ意味と考えていいでしょう』
「基本的に魔族は、魔王城に近くなればなるほど強くなります。魔王を攻めている間に、四天月から後ろを襲われると挟み撃ちされてしまう事になります。なので、ある程度前線を進めた後、魔王城の北西方向にある【紺の月】ゲノス領を神話会とヂーナミア軍で攻め込みます。神話会は二連戦となってしまいますが、【藤の月】討伐後、ヂーナミア軍と合流してからの侵攻となります。
そしてそれらと同時進行で、ストラシア、勇者パーティには【紅の月】ヴォルトデア領当主、ヴォルトデア・ドスタレトを討伐していただきます」
セイは聞き覚えのある名に驚いた。
「ヴォルトデア・ドスタレト!? あいつ神話会じゃなかったっけ?」
するとテヌドットが事情を説明した。
「ああ。セイの言う通り、あいつは元神話会メンバーであり、魔王軍四天月の一人だ。神話会加入時、あいつから加入の申請をしてきたんだ。当時は魔王の動きが活発ではなかった上に、誠意のあるように見えたから加入を許可したんだが……
フェルノートリゾートでの一件の直後、あいつが脱獄したという情報が入った。まぁ、魔王に動きがみられた時点でそんな気はしていたが……それも、神話会がこの戦いに全力で挑む理由の一つだ」
(なるほど……あんなやつの加入を許した責任を取るためでもある。と……)
セイは、テヌドット達の参戦理由に納得がいった。
「なら、そのドスタレトのスキルとか分かってんだよな?」
テヌドットは少し難しい表情をすると、こう答えた。
「それがな……私達でも全てのスキルを把握しているわけではないんだ。分かっているのは[不滅の吸血鬼]と[貫魂の刺獄]だけだな。他のスキルをもっているという話は聞いたことがない」
コーナスは、せめてその情報だけでもと思い、
「では、その二つのスキルについて伺っても?」
「ああ。もちろんだ。
[不滅の吸血鬼]は、二つの効果がある。[操血]と[血生]だ。
[操血]は、その名の通り、自身の血を操る能力だ。魔力を血に変換することもできる。ある程度なら性質も変えることができるから、[紅血の支配者]ともいえるな。
そして[血生]……これはかなり警戒すべきスキルだ。効果は単純、血が一滴でも残っていれば無限に蘇生、再生するというものだ。魔力も消費するらしいが、雀の涙程度だ。つまり、血を一滴も残さず消し去る必要がある」
「……凍らせた上で広範囲スキルで木端微塵に……これでは無理か?」
セイは、カイルと協力する戦い方を考えていた。
「凍らせる……悪い手段ではないが、表面だけでなく内側まで完全に凍らせることが前提になるな」
セイにとってそれは難しい事ではなかった。
「余裕だ。カイル、いけるな?」
「も、もちろん!」
安心したような表情のコーナスは話を続ける。
「では……残り四天月は【白の月】ですが……」
するとカイルは少しごもりながら手を挙げた。
「あっ、それは大丈夫! 多分……」
「大丈夫……とはどういうことですか?」
「それは……その……」
するとテヌドットも疑い気味に訊く。
「そういえば勇者殿のパーティメンバー、ノルーセといったか?
なぜ彼はすぐに魔族の動きに気付いたんだ? かなり距離も離れているし、フェミア山脈付近ならヂーナミア軍が見張っているはずだ。知らせが来るならヂーナミア軍の者だと思うが」
第5次元では携帯が使えないため、セイの念話を応用して、コーナスはフェミア山脈にいるヂーナミア軍に尋ねた。
「そちら、神話会の方が三人向かったと思いますが、魔族側に動きは?」
「ただいま交戦中! ただいま交戦中! 神話会の方は大きな戦力となっています!
魔族は洞窟からぞろぞろと攻めて来ていますが、ここで阻止しています!」
「報告は本当だったか……ならカイル、君たちは一体、誰と何をしている」
テヌドットは圧を掛け尋ねる。
「……」
俯いたカイルだったが、コーナスには心当たりがあった。
「初代勇者……ですか?」
「えっ」
「初代勇者?」
セイは、カイル以外の勇者、先代勇者について全くと言っていい程知らなかった。
「初代勇者ラリバルト……歴代勇者の中で群を抜いて強力な勇者です。カイルが信頼し頼るのも頷けます。ただし、プライドが異常に高く、性格に問題があるのであまり公の場では話題に上がる事はありません。ヂーナミアの民に、「歴代の勇者で最強は誰か」と尋ねると、ほとんどの人が返答に悩むと思います。
ですが、実力は本物。彼がカイルに協力しているというのなら、信頼はできます。どうなのですか?」
カイルは、コーナスの「信頼できる」という言葉を信じ、事実を口にした。




