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第85話 初代勇者の敗北

 先に行動を起こしたのはカイルとサント。カイルの勇者スキルで強化された剣撃と、サントの質量をのせた大剣がラリバルトに襲い掛かる。


 しかしラリバルトはその両方を[麗塵剣]で薙ぎ払った。2人が押し返された隙を埋めるように、ノルーセが[火炎球]で支援した。ラリバルトはそれをすべて最小限の動きで避け、カイル達に迫った。


 「はああ!!」

 咄嗟にエイレンがカイルを守るようにラリバルトの前に立ちふさがり、大きな盾を構えた。しかし、[麗塵剣]によって簡単に吹き飛ばされてしまった。


 ただ、エイレンが稼いだ約一秒、それはカイルが体勢を立て直すには十分な時間だった。

 「[永星の勇者]!!」

 再び勇者スキルを発動しラリバルトに突っ込んだ。[麗塵剣]はエイレンを吹き飛ばした状態のままで、カイルの攻撃を防げる位置にはなかった。ラリバルトは咄嗟に、二つ目の[麗塵剣]を発動し、同時にカイルの剣の間合いから離れるように後ろへ跳んだ。

 光に包まれた[魔を滅す者]がラリバルトの[麗塵剣]に触れた。その瞬間、[麗塵剣]に切り込みができた。刃が通ったのだ。


 (っ斬れる!!)

 カイルは一筋の希望を見た。


 しかしそれは、目の前に落ちてきた槍によって一瞬にして打ち消された。


 カイル、サント、ノルーセ、エイレン、四人の頭上に槍が凄まじい勢いで降ってきた。ラリバルトのスキルだった。

 「[天墜る千槍(あまつるちそう)]」

 カイルの目の前に落ちた槍を発端として、空を埋めるほどの槍が生成され、四人に降り注いだ。


 「うわっ!!」

 「ちょちょ!」

 「あぶねぇ!!」

 「なっ……!」


 四人に命中しそうな槍は、ギリギリで寸止めされた。が、四人の腰は地面に触れていた。

 「俺に[麗塵剣]以外を使わせたことは褒めてやる。だが足りん。

 この程度で魔王に挑もうなど二度と思わない事だな」


 こうして、精鋭揃いの勇者パーティはあっけなく、1人の勇者に敗北した。それは勇者パーティが弱いのではなく、ラリバルトが強すぎた事が最も大きな要因ではあったのだが。


 カイルが悔しがり、涙を流しそうになっていると、ラリバルトは思い出したかのようにカイルに尋ねた。

 「お前の勇者スキル、EX神話級とか言ってたな。スキル名は何だ」

 (こいつが戦闘中に叫んだスキル名……もし俺の聞き間違いじゃねぇなら……)

 カイルはきょとんとしながら答えた。

 「[永星の勇者]、ですけど……」


 するとラリバルトはそそくさとテントに向かい、一冊の本を持ってきた。一生懸命にページをめくった。

 「あ、あの……?」

 あるページを開き、少し考えたラリバルトは突然、

 「お前を鍛えてやる」

 と言い放った。諦めかけていたカイル達は唖然とした。

 「えっ……いいんですか?」


 しかしその目つきは本物だった。とても嘘をついているようには見えない。それ以降、カイルは基礎身体能力向上の為、体力と筋力トレーニングをラリバルトの指導の下行い、エイレン達は、スキルの有効的な使い方や魔力運用のコツを教えてもらった。

 厳しくも大きな達成感の連続の日々は、早くも半年近く続いた。


 ある夜、カイルはラリバルトに何故突然教え子になる事を許したのか尋ねた。するとラリバルトは無言で一冊の本を持ってきた。それは、カイル達を教え子になることを許した時にテントから持ってきた本だった。

 「……これは、ワンバルム城……魔王城から盗んだ物だ」

 カイルはその本を見て驚いた。このボロボロの一冊の本が、あの頑固なラリバルトの考えを変えたのだ。そして、この本が昔は魔王城にあったことに。

 「魔王城?!」

 ラリバルトは呆れながらも説明を続けた。

 「そりゃあ俺も元々は勇者として奴に挑んだ身だ。一時は意気込んで仲間と共に魔王城に攻め入った。だが結果は……お前も知っているだろう」


 カイルは少し言いずらそうにしていた。

 「初代勇者パーティは魔王との戦闘で全滅……」

 「間違いではない。補足情報だけ入れるとするならば、初代勇者パーティは第2次勇者パーティと合同で魔王に挑んだ……

 しかし結果はヂーナミアでも知れ渡っている通り。思い出すだけでも反吐が出る。


 だがあれは戦闘などではない。ただの虐殺だった。まともに立っていられたのは、2代目勇者のユーライだけだった」


 カイルは言葉を失った。初代勇者は魔王にに敗北し、勇者パーティは全滅した事だけはヂーナミアでも話題になったが、まさか最強と謳われる勇者がそんなにも圧倒的な差で敗北していたとは思わなかったからだ。

 「あーー!!! たっく! 思い出すだけで気分がわりぃ!

 一回しか話さねぇから聞いとけよ!

 あいつは魔王なんかじゃねえ。れっきとした死神だ!

 俺は一度だけどんな「死」でも無効化するスキルを持っていた。いかにも奥の手だ。だが俺はそれを、奴と対峙して数秒で使う事になった。当たり前だが、それを持たないパーティメンバーは全員死んだ。


 あの一瞬で全員死んだっつう事から考えれば、奴は、自身に敵対心を持つ者を即座に殺すスキルを持ってやがる。多分なんかの制限はあるっぽいがな。

 どうやら二代目以降の勇者スキルには、その即死攻撃を無効化する機能があるらしいが、仲間にそれは共有されない。意味は分かるな? だから俺は、お前の仲間に「足手纏い」つったんだ!」


 カイルは絶句した。エイレン達は死に物狂いで鍛えている。しかし今、その無意味さを知ってしまったのだ。

 「そん……な……」

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