第84話 初代勇者ラリバルト
「空間転移!? 魔界ではあるみたいだけど……」
エイレンが驚いていると、怒鳴りつけるような、高圧的な声が聞こえた。
「どうせ貴様達も俺に教えを乞いに来たとかほざくんだろ。めんどくせぇんだよ!!
しかも勇者とか言いやがるのに雑魚ばっか。今のに驚いてる程度の虫が魔王を倒す? 冗談もいい加減にしろ!!!」
いつの間にかカイルの目の前に立っていたのは……ボサボサの灰色の髪、ボロボロの破れた服、七色の宝石のような美しい瞳、そして額に小さな角を生やした男だった。
サントが男を少し見て大きな声で尋ねる。
「その口ぶりと俺達と一瞬で連れ去るほどの実力!
あんたが初代勇者、【虹の勇者】ラリバルトさんだな?! なぜ角が生えているかは分からんが、是非俺達にしゅぎょっ……!」
サントはその全てを喋る前に、遥か遠くの岩まで弾き飛ばされてしまった。二メートルほどある大剣を操る巨体が岩に叩きつけられ、土煙が立ち込めるのが見えた。遅れて「どぉぉぉん……」という音が聞こえてくる。
「サント!」
カイルは咄嗟にラリバルトに剣を抜いた。
「突然何を……!」
カイルはラリバルトを警戒したが、ラリバルトは全く気にしていない様子だった。すると明らかに怒りがこもった声を発した。
「確かに俺こそが……ラリバルトだ。しかし、俺の事を勇者と呼ぶな。
しかし、お前は仲間を傷つけられたことに立腹しているようだな。それとも何だ? 勇者ともあろう者が、魔族となったことに腹が立っているのか?
だがここまでして長生きしているのはお前達みたいな虫に修行をつけるためではない。どうせ鍛えた所で奴には勝てん」
「奴って魔王のことですか……」
「そうだ。それ以外に何がある」
ラリバルトはカイル達を突っぱね、背を向けて歩き出した。しかしカイルはそこでは諦めなかった。自身のスキル等級を明かすことで、自分の可能性を示そうとしたのだ。
(見た所この人は魔王の圧倒的な力に負け、何事もすぐ諦めるような状態になっている……僕が初のEX神話級だって知ればその可能性を信じてくれるはず……)
「待ってください! 魔王、倒して見せます! 僕は……EX神話級の勇者です!」
するとラリバルトの歩みが止まった。しかし振り返ることはなかった。
「そうか。ならお前だけで行ってこい。EX神話級なら俺がわざわざ鍛えなくても強いんじゃねぇのか?」
カイルはムッとしてラリバルトを止めた。
「等級は変わらないとはいえ、勇者スキルは個人の技量に大きく左右されることはあなたもわかってるはずです!
僕は等級が高くても、経験と技が圧倒的に足りていない! あなたに鍛えてもらえばそれらを大きく伸ばすことができると思って来たんです!」
必死の説得で、ラリバルトはようやく振り返った。そして、ある条件を提示した。
「俺にあの剣を抜かせてみろ。そしたらこれからもお前をしごいてやる」
ラリバルトの後ろを見ると、ボロ布と木の棒で作られたテントがあり、そこには鞘に納められた剣が立てかけてあった。
「!」
カイルは嬉しそうに反応した。が、ラリバルトの話はそれで終わらなかった。
「だが!
お前の腰が地面に触れたらお前の負けだ。一生俺の顔を見る事はないと思え」
カイルは自信に満ちた目で剣を抜いた。エイレンとノルーセは緊張した面持ちで2人の勇者の対峙を見守っていた。
カイルの目に映るのは、剣も鞘も持たない素手のラリバルト。彼はエイレンに合図を出した。
「……はじめ!!」
対決開始の合図が響いた。その瞬間、カイルは全力の攻撃をラリバルトに浴びせた。
「全力で行きますよ!! [栄光の流星]!!!!」
多数の流星とともに、魔力を纏った剣がラリバルトに襲い掛かった。ラリバルトは一歩も動かずに、手をかざしてスキルを発動させた。
「[麗塵剣]」
すると地面から粒子が大量に飛び出し、茶色のしなる塊のようなものを形成した。ラリバルトが腕を振り、麗塵剣がカイルの剣と流星を弾き飛ばした。同時にカイルの身体も。
押し倒されたカイルは立ち上がろうとしたが、腰が地面についていた。
「お前の負けだ」
カイルは負けたのだ。勇者スキルと[神滅:終末の夜]を防ぎ切った切り札のスキルを使用し全力で挑んだ結果、剣も持たず、勇者スキルも使わなかったラリバルトに一瞬で敗北したのだ。
その時、ラリバルトに飛ばされたサントが戻ってきた。
「勇者はパーティで魔王と戦うんだ。俺達も込みで試してもらわないと困るな!」
サントは大剣を振り回し意気揚々とラリバルトに、4人での試練を申し出た。ラリバルトはため息をつき、叫んだ。
「俺以外、歴代の勇者パーティは全員、生きて帰ってないだろ。だからお前らみたいなヂーナミアの連中は知らないんだろうが、魔王は強いなんてもんじゃない。
むしろ勇者はパーティを組んで戦うと敗北はより確実なものになる」
ラリバルトはエイレン達を指さした。
「お前らがどれだけ意気込んで、体を鍛えて、スキルの熟練度を上げたとしても、お前らが勇者の隣にいるだけで大きすぎる足手纏いになるんだよ!!」
ラリバルトは少し間をあけ、息を整えて呟いた。
「それでもというなら、かかってこい」
こうして、初代勇者ラリバルトvs第13代勇者パーティの戦闘が始まった。




