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第82話 禁忌の魔法使い

 【禁忌の魔法使い】ハルミンはヂーナミアの辺境に住むと言われている。彼女はそう気難しい性格ではない。むしろ「優しい」に近い性格である。では辺境に住む理由は何故か。

 簡単なことである。【禁忌の魔法使い】という、一見恐ろしいスキル名で周囲の人々に恐怖心を与えないようにするためである。

 この話はヂーナミアでは有名で、ハルミンが住む辺境の場所もよく知られている。それはヂーナミアの南東にある森の奥深くである。


 カイル達はそこに向かって歩いて行った。途中強大な魔物に出会うこともなく、森に入り、川を越え、ちょっとした魔物を狩り、森の中の小さな家にたどり着いた。カイルは少し緊張しながらもドアをノックした。

 「すみませーん。誰かいますか?」

 「来客とは……久しぶりね」

 扉から出てきたのはやせ細った女だった。

 (一応厳しい性格ではないと聞いてるけど……大丈夫なんだろうね! カイル!)

 エイレンは緊張の眼差しでカイルを見つめる。

 「あの……あなたがあの【禁忌の魔法使い】ハルミンさん……ですか?」


 「ええ。そうよ。若い冒険者達……いえ、勇者さん達、私に何か用?」

 「その……初代勇者、ラリバルトの居場所を調べてもらえませんか?」


 カイルは勢いよく叫んだ。ハルミンもその勢いに驚き、一瞬固まった。その後少し考えてニヤついた。

 「そうね……私からのお願いを1つきいてもらえるなら。いいわよ」


 「おね……がい」


 カイル達はハルミンの家の中で詳細を聞くことにした。家の中には魔導書が数えきれないほど並べてあった。

 「すごい数の魔導書ですね……」

 同じ魔法系スキルをもつノルーセは、圧巻の光景に驚いていた。

 「でしょ? 今回の件のお願いも、魔導書に関する事なの」


 「魔導書に関係するお願い?」

 魔導書とは、使用する事で魔法系スキルを得る事ができる特殊な書物で、使用回数に制限はなく、物によってはかなり強力なスキルが書かれているため、商会の大金持ちや魔法に人生を捧げる人間、もしくはヂーナミア城の図書館がそのほとんどを占領している。

 「私も魔導書はかなり集めてるんだけどね……今、とっても欲しい魔導書があるんだ。入手しようと数か月調べてみたら、ヂーナミア城の図書館にある事が分かったんだ。

 そこで……」


 カイルとエイレン、ノルーセはそこで察した。

 「あー……なるほど」

 「そういうこと。でも難しいなら借りるだけでもいいの。あなた達なら平民は入る事すら許されない城の中の図書館に入るくらいの特権は持ってるでしょ?」


 カイル、エイレン、ノルーセは3人で集まって小さな声で相談し合った。

 「ねぇ……どうする? 実際悪い人って感じはしないけど……」

 「ちなみにカイル、図書館に入るくらいの特権ってあるの?」

 「あるよ。多分……」

 「とりあえず、何の魔法の魔導書か訊いてみよう。それで判断しても遅くはない」

 「そう……だね」


 サントは後ろで腕を組んで仁王立ちしている。話の内容がよく分からず、何も考えていない状態だ。カイルがハルミンに尋ねる。

 「一応……何の魔導書が欲しいのか訊いてもいいですか?」

 ハルミンは明るいまま答えた。

 「ああ。そうだったね忘れてたよ! 欲しいのは[魔力掌握]の魔導書。簡単に言えば、魔力制御力を大幅に上げるスキルね。実は少し前にテヌドットさんって人と手合わせをしたのだけれど、その時、魔力量は十分だったけど、自分には魔力制御力が足りていないって自覚したの。[禁忌の魔法使い]で全属性の適正があるとはいえ魔力制御力はどうにもならないからね。

 だから[魔力掌握]の魔導書が欲しいって事。どうかしら? 私は信頼を勝ち取れた?」


 エイレンは一瞬頭を抱えたが、ため息を吐いて了承した。

 「はぁ……わかりました。移動の関係もあるし一週間ほどかかりますが、いいですね?」

 ハルミンはこれまでにない笑顔を見せた。

 「ええ! ありがとう!」


 数日後、カイル達はヂーナミア城に来ていた。城内の図書館は入り口の近くにあるため、すぐに見つけることができた。

 「入場は……」

 警備兵はカイル達を見ると、すぐに大きな扉を開けた。

 「13代勇者パーティの方々ですね。ヂーナミア城内図書館へようこそ」


 「割と、簡単に入れるんだな」

 ノルーセはこそこそとカイル達に話した。魔導書のコーナーは奥の方だったが比較的わかりやすく、目的の[魔力掌握]の魔導書もすぐに見つけることができた。

 しかし同時にある張り紙を見つけた。それには、

 「現在、全魔導書の貸し出し規制中」

 と書かれていた。エイレンは司書と思われる女性に声をかけ尋ねた。

 「ちょっといいか? あの張り紙の魔導書の貸し出し規制中っていうのは?」

 「ああ。あれには理由がございまして。

 最近……というよりここ数年、魔獣など魔物の動きが活発になってきておりまして、魔王が行動を起こす可能性がかなり高くなっているんです。なので、重要な戦闘資源、情報である魔導書は原則貸し出しできない状況になっているのです」


 魔法次元に生息するほとんどの魔物は、隣接する魔王次元からやってきた生物なのである。また、現在も少しずつ次元を渡る魔物はおり、ヂーナミア周辺の魔物の数などで、魔王次元の動きをある程度把握することができるのである。

 そして司書は説明を続けた。

 「それにより、たとえ勇者様でも魔導書の貸し出しは難しく……」

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