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第80話 悪魔と悪魔と呼ばれた者

 サラットは何も見えない真っ暗な空間で目を開けた。彼女の頭の中には、白髪の女が自身を消し去ったという記憶が残っている。

 「どこ……ここ。あいつは……!」

 サラットが辺りを見渡していると、正面から聞きなじみのあるような声が聞こえた。


 「ここは、虚界(アンファクトワールド)……■定の力によって存在を嘘にされた者がたどり着く地……末路ではないけどね」

 振り返るとそこに立っていたのは、紛れもないレイだった。しかし服装も、纏う気配も違い、身体の一部がまるでゲームのエラーのようにズレていた。

 「お前は……!」


 サラットは[赤涙の悲劇(トレーネペスト)]を使おうとしたが、レイが赤い涙を流すことはなかった。それどころか直接触れることもできず、怒りに身を任せた右ストレートは空を舞う。

 「無駄よ……私の実体がないことも理由の一つだけど……主な理由は


 あなたが消えかけているからね」


 「えっ、何を……」

 サラットは自身の手を見ると、指先が半透明になってきていた。

 「な、なにこれ! 結局また消えるの?!」


 そうして叫んでいるサラットを、このレイは、憐れな虫を見る目で見下した。

 「ええ。そうよ。

 通常、ア■ンシ■■界の次元で死んだあらゆる者は、記憶を失い自我をリセットされ、魂だけが神域を通って別の次元、もしくは同じ次元に転生する……けど、■定の力で存在そのものを嘘にされたなら、それももう不可能……


 つまり、間もなく見ることになる走馬灯が、あなたがみる最後の思い出よ」


 「いやぁ!! いやだぁぁ!!!!」

 身体の力が抜けていき、声にならない声で助けを求める。しかしそれは、サラットを見下しているレイにしか届かない。


 いつの間にか、サラットは、故郷に立っていた。気持ちい風、親切な隣人、花のにおい、のどかな田園風景。

 「ああ……もう……こんなの見たくない……!」

 サラットは助けを求めるが、それでも口が動くことはなかった。しかしサラットは望んでおらずとも足を進めた。これは過去の追憶。今からでは何も変えられない物。


 少し前の地球と同じく、他の次元の存在を知らない次元、メネイス次元。そこで生まれ育ったサラットは、フランと同じく昔から命を弄ぶのが好きだった。しかし1つ、大きな違いがある。それは、親の考え方だった。


 サラットの親は、命を弄ぶサラットをよく叱っていた。しかしサラットは罪悪感を全く感じる事はなく、フランよりも幼い時点で殺人を行うようになった。すぐに捕まる事になる。しかしその後も数年間捕まっては殺人を繰り返していた。


 牢獄に入るようになってから、サラットはある夢を見るようになった。夢の中では、真っ黒の空間の中で一匹の悪魔が登場し、サラットに繰り返しこう囁いた。


 「悪魔になれ」


 サラットはその奇妙な言葉と、その威圧に圧倒され、悪魔にトラウマをもつようになった。

 しかし、いつしかサラットが悪魔と呼ばれるようになった。

 「違う……本当の悪魔は……」

 そんな生活に嫌気が差したのか、サラットはある決断を下す。それは、魔術を使う事だった。


 当時メネイス次元では魔術や魔法の類の使用が禁じられていた。一般人一人が大きな危険分子になりうるからである。しかしサラットはそれに反した。行ったのは、[悪魔召喚]。亜空間……別の言い方で言えば、別次元。そこから悪魔を召喚し契約するという物。

 サラットはそれを森の奥深くで行った。出てきたのは、ヴォルトデア・ドスタレトと名乗る悪魔。彼は吸血鬼(ヴァンパイア)で、サラットには好意的に接し、契約も順調に行われた。しかし、契約が完了した直後、魔力の動きが感じられ、悪魔召喚がバレてしまう。


 「ここは……手本を見せておきましょう」

 悪魔は自身の血を刃に変え、周囲の騎士団、宮廷魔法使いなどを一掃した。しかしサラットはうつむいて怯えていた。

 「私は……悪魔なんかじゃ……ないっ……!」

 しかし、まだ少し息があった者は、口をそろえてサラットを悪魔と呼んだ。ガクガク震えているサラットを見て、悪魔は呆れて契約を解除した。

 「はぁ……契約は解除しましょう。しかし私もクズではありません。まだ生きている者は始末しておいてから去るとしましょう」

 そう言って悪魔は周囲の生きている全てを殺して、召喚された魔法陣から帰って行った。


 しばらくサラットが呆けていると、美しい白髪の少女が心配そうに話しかけてきた。

 「お姉さん……大丈夫? 良かったら一緒に来る?」 

 セリスと名乗ったその少女は、サラットをリベルに招待し、[リベルシステム]を手に入れたのだった。


 追憶は終わったが、サラットの消滅が止まる事はない。

 「い、いやぁぁ……」 

 そして、現代の異名持ちで最も多くの人間を殺した【悲哀】は、誰にも気付かれる事なく消えていった。 



 力尽きていたレイに必死だったセイはその時気付かなかった。近くの、怪物から落ちた肉片。それがセイ達に迫ろうとしている事に。

 (あい……つら……! ゆ……許さない……! 絶対に……! こ、ころーー)

 「ブスッ!……」

 生き残っていた【愉悦】の肉片の一部、それにとどめを刺したのは、他でもない、【愉悦】と【一刀】を一人でボコボコにした黒い剣士だった。

 「あの子は……まだ詰めが甘いわね……」 




 その後セイ、アリス、レイはストラシアに戻り、フェルノートリアに向かった。

 「案外……警備は弱かったですね」

 フェルノートリアに着くと、ストラシアと分かりながらも警備が襲ってきたため、すべて倒したのである。アリスは警備を10人ほど相手したが、ほとんど片手で勝っていた。

 その後も警備は現れたが、等級も高くなくすぐになぎ倒されていく。5分もかからずにネーレックの部屋の前に到着した。セイの[未来万視]ですぐに位置は特定できた。


 「まさか夢の星から生還するとはな……ネーレック様も頭を抱えていらっしゃる。そんな迷惑客にはおかえり願おう。それができないというのなら……

 土に還っていただくしかないな!!」

 そこに現れたのはネーレックの傍にいた護衛だった。

 「[詳細鑑定]」

 『ラシル・グリファイル

 種族、人間

 出身、都市次元

 年齢、27

 適正属性、雷

 所有スキル、神話級[即式行動(クロノアクセル)]

 あらゆる動作の予備動作、本動作を省略し、行動の結果のみを現実に反映します』


 「どういう意味だ?」

 セイは説明を見てもあまり意味を理解できないでいた。その瞬間、ラシルがアリスの目の前に瞬間移動したかのように一瞬で距離を詰めた。それに加え、いつの間にかラシルの体勢は足を大きくあげ、蹴りを行った後の体勢になっていた。アリスは少し後ろに後退してギリギリで避けた。

 「どうせあなた方には私のスキルなどお見通しだろう。ならば出し惜しみはしない!」


 その瞬間、セイはボソッと呟く。

 「今は邪魔するな。[運命干渉]」

 ラシルが元からいなかったかのように、存在がバグだったかのように消えていった。

 「なっ! なにをーー」

 

 それを見たレイは少し驚いた。

 (これが……EX神話級の力……)


 3人は勢いよくドアを開けると、その先には腹を刺され既に死亡したネーレックがいた。

 「……リベルか」





 その頃、第1、都市次元。リーンカム上空で、月が2つに増える現象が目撃された。

 「遂にあの方の計画が本格的に動き出すのですね……ついに……ついに!!!

 何百年待ち続けたことか! この瞬間を楽しみにしておりました!!!」


 そして目撃情報によるとその2つ目の月はーー


 赤色だった。                                                                                                                                                       

[フェルノートリゾート編]終幕

次回 冠誅戦争編


「死と悪意を司りし死神の王、13の切望により破られる。しかし万象の支配者は闇に堕ち、共生の王は望みを抱いて溺れる。英雄は13の切望を実現せし永遠の星なり。

2柱が降臨せし時、かの戦が再び燃え盛る」


※次回の更新までかなりの時間がかかる予定です

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