第79話 ■幻■■定
「グウォォォォォ!!」
鼓膜が引きちぎられるような鳴き声を上げた怪物の左腕には、レイが斬ったはずの観覧車が膨張した肉でつなぎ留められていた観覧車があった。
観覧車が高速で回転し、レールガンの光の弾丸を受け止める。
「キュィィィィン!!!! ドゴーーン!!!」
観覧車は火花を散らし、弾丸を受け流した。光の弾丸は軌道を変えられ地面に打ち込まれた。巨大な爆発を起こし、爆風も伴ったが怪物がダメージを受けた様子はない。
「スキルもない人間であれをどうしろと……」
セイとアリスの戦い方はスキルに依存しており、アリスは[夜虚]の帰属スキルがあるとはいえ、あそこまで巨大な敵には決定打に欠けていた。
「もし本当に……運命神様が我々の邪魔をするというのなら……
いや、運命神様がセイクリッドだというのならば……私はここで! 今! 神を超えてみせる!」
フランの血肉の膨張によって弾き飛ばされたレイは、再び刀を持って走り出した。セイは今出せる限りの声で叫んだ。
「やめろ!! 無茶だ!」
しかしレイは止まらない。
「無茶な事は分かっている。たしかに今私は冷静ではない。しかし……!」
アリスが叫ぶ。
「やめてください!! まだ他に方法があるはずです!」
しかしレイは止まらない。
「方法? そんなものがあればとっくに試している。スキルがない今の状況で最も強いのは私だ」
もう一度セイが叫ぶ。
「今最も強いのはお前だ! だからこそ、今お前を失うわけにはいかない! こんな土壇場で神を超えられるなら、俺はとっくに三傑を倒している!!」
しかし、レイは止まらなかった。
「っ! [界眼]……9.5%!!!」
その瞬間、レイの体中から血が噴き出た。その血は赤く輝いている。魔力を帯びているのだ。そして噴き出した血を置き去りにしてレイは突き進む。
当然、怪物はレイを止めようとタワーを振り落とす。直径5mはある巨大なタワーがレイに向けて落とされた。
「はあああ!! [断裂]!」
レイは刀を高く掲げ、タワーを切り裂いていった。血を、噴きだしながら。
「グォォォォォ!!!!!」
「来るな!!」と言わんばかりの叫び声が響く。しかしレイは進み、怪物の胸元に向かって高く飛び上がった。
「[断裂]!!」
レイの刀が光を放ち、怪物の胸元を切り裂いた。そして現れたのは、赤い血の涙を流し、狂ったように笑ったサラットだった。
「貴様あああ!」
レイはサラットに刀を突き刺そうとした。
その時、
「ドスッ……」
「グフッ……」
鋭い槍のように変形した肉が、レイの腹を貫いた。[界眼]の魔力濃度を限界を超えて運用したため、噴きだした血に加え、腹を貫かれたことによる出血で、レイは瀕死の状態に陥っていた。その時、レイの耳に、システムのような声が聞こえた。
『仮身体が瀕死状態です。本体へ■幻■■定の供給を要請します。
承認されませんでした。再度要請します。
承認されました。
……エラー発生。傍■ノ■■によって供給が遮断されました。
完全な供給が完了していません。
■幻■■定の現在の使用可能時間は2秒です。取得しますか?』
レイは死に際に聞こえた声に耳を傾けたが、その意味は分からなかった。しかし、一つは明確だった。
「この力を使わなければ……私は、死ぬ! 2秒でも1秒でもいい! それを使わせろぉぉ!!」
レイは心の中で手を伸ばした。先に見えた、一つの光にむかって。
『■幻■■定を発動可能になりました。残り2秒』
「ヒュン……」
その瞬間、レイの目の前の血肉の塊が消え去り、[赤涙の悲劇]で形を維持していた怪物も崩壊していく。そしてサラットも……
「ジジッ……ジジジッ」
「な……なによこれ! ちょっと! ちょっ……」
それが本来存在しなかったかのように、存在そのものがエラーだったかのように消え去った。
『■定完了。■象の存■を■■にしま■た。■幻■■定を失いました』
そしてレイは気を失い、その場から落ちていった。セイが急いで駆けつけ受け止める。するとセイはある事に気付いた。
「さっきまでレイ……血を大量に噴きだしてたよな……? レイの身体、傷どころか出血痕すらないぞ……一体何だったんだ……あの力は」
するとアリスも駆け寄ってきた。
「セイ様……どうやらスキルもシステムも復旧したようです」
それを聞くと、空は段々本来の星空に戻っていく。セイはシステムに尋ねた。
「今のレイが発揮した力は何だ」
『検索中……エラー発生。権限がありま……あ……あ、あ蛯崎ヲウ繝手」∝ョ壹↓繧医j讓ゥ髯舌′蜃咲オ舌&繧後※縺?∪縺』
「な、何だ?!」
システムが発した解読不明の言葉の意味を、その後知る者はいなかった。
その後二時間ほどで神話会の調査員がやってきた。その頃、神話会本部会長室では……
「報告いたします。今回の遊楽次元での被害額は120兆クラム。犠牲者は異端審問官、8人、ストラシア0人、
一般人……13万4000人……です……」
報告した者も、テヌドットも、その数字が大きすぎる事に絶望の感情があった。しかしそれと同時に、ストラシアが協力したにも関わらずここまでの大量の犠牲者が出てしまった事に対して、改めてリベルの凶悪さを実感することとなった。
「……セイの事だ。おそらく状況が緊迫していると分かった時にストラシアメンバーを船の中に戻したのだろう。しかし……精鋭ぞろいの異端審問官さえ死ぬほどの脅威だったとは……
最近は第4次元の魔王の動向も怪しい。異名持ちは減りつつあるが、脅威は減らないな……我々も本気で動かねばならん
「しかし、セイには礼を言わねばな……ここの天井の仇をとってくれて……」
すると報告しに来た者が口を開けた。
「それが……報告によると【悲哀】を倒したのは、ルサリナ教会の異端審問官であるレイ・カルカソンヌだそうです。死に際に、誰も見たことがない謎の力を発揮し対象を一瞬で消し去ったそうです。しかも本人の傷も全て癒えていたそうです」
「なに?……しかし、そのレイの等級は……
レベル3EXだぞ?」




