第7話 支配
あれから、セイ達は科学館のほとんどを見学し終わった。
「本当にスキルを覆そうな物もあったな……科学も伊達じゃないんだな……」
セイが感心していると、リカットとファナスが歩いてきた。
「気に入っていただけたようで何よりです。まもなく襲撃予想の時間です、準備をお願いできますか?」
(そういえばあちらこちらに私服姿の警備隊がいるな……)
セイは[永氷の支配者]で氷の剣を生成する。
「おおっ…! これが……!」
科学館の2人が感心していると、
アリスとミカの準備もそれぞれできたようだった。
時間になった。
最初に異変を感じたのはミカだった。
「……!?」
「重力魔法が消されました!」
ミカは自身の重力を弱くしていたが、それが無くなった事にすぐ気づいたのだ。
しかしセイの剣は消えなかった。
(……スキル無効化無効スキルだ! なら…!)
「相手はスキルを無効化してくる! 今復旧する!」
セイはそう言って、[運命の支配者]を発動し、2人のスキル無効化を無効化した。同時に、索敵を行う。
「上だ!!」
すると、天窓には黒い影が無数に浮かんでいた。リベルで間違いない。
ミカは咄嗟に、リベルの重力を反転させ、より強い重力で元に戻し、地面に叩きつけた。すると、あまりの重力によりリベルは天井を突き破り室内へと落とされた。
「今だ! 捕らえろ! 怯むな!!」
警備隊の声が響き、一斉にリベルへ動き出す。
ミカは動けないよう、リベルを強力な重力で拘束した。その人数、4人。
(おかしい…! 少なすぎる! まさか、他の箇所に?!)
一方、科学館正門前には、一台の黒い車が停車した。
「ここかぁ! 新しい神話級も来てるみてぇだな!」
車から降りてきたのは、見るからにガラの悪そうな男だった。そして手下を数人連れていた。
警備隊は慌てて止める。
「危ないよ! ここはリベルの襲撃があるみたいだから今はやめておき……」
「ちょっと借りるぜ」
一方セイ達は、様々な場所から侵入してくるリベルと戦っていた。
「キリがない…! でも1人1人はそこまで強くない!」
すると、警備隊の1人が不審な行動を見せる。味方の警備隊を切り殺したのだ。
「なっ、何をしている?!」
するとその警備隊は、こちらを向き、不気味な笑みを見せた。
「お前かぁ……!」
すると突然、システムが反応した。
『マスターの身体への支配目的での干渉を確認し、遮断しました』
「なっ?! 支配?!」
『検索中……ヒットしました。リベル異名持ち序列8位、【支配】クラインです。対象の身体を支配する事ができます』
その時クラインは驚きを隠せなかった。
「嘘だろ……俺様が支配できないなんて…!」
すると、周囲の戦闘不能となり倒れたリベル、警備隊が立ち上がった。
「まさか……!」
クラインは周囲の人々を支配した。
アリスは深刻な表情をする。
「元は罪のない人間……! 斬れない……」
セイは考えた。
(相手を傷つけない戦い方……はっ! ミカの重力魔法だ!)
セイはいそいで叫ぶ。
「ミカ! 重力魔法で拘束しろ! そしたらほとんど傷つかないはずだ!」
しかしミカは既にそれをしていた。
「やってます……! ただ、数が多すぎます!」
周囲には100人近くの支配可能な身体があったため、クラインの兵力はかなり多かった。それに、たとえ数が大丈夫であっても、一か所に集まることは考えにくいため、重力魔法を十分に生かすことができていなかった。
(俺の殲滅系スキルは[赤血の鳥籠]だけ……! ただ威力が強すぎて使えない! アリスは物体の性質を無視して魂だけを斬る事ができるが、同時に大量に支配しているという事はおそらく意味がない! そして唯一の希望であるミカの重力魔法も十分に生かしきれない! あと使えるスキルがあるなら……!)
「[運命の支配者]!! ここ一帯の重力を、支配された人達が行動できなくなるくらい強力に!!」
すぐにミカは状況を把握する。
「[重力の魔術師]!!」
味方の重力を弱くすることで、セイの[運命の支配者]を活用した重力操作を相殺した。
クラインはすぐに悟った。「これらの支配体はもう使い物にならない」と。
そこにアリスが追撃を仕掛ける。本体ならそのまま斬る事ができる。しかしその瞬間、クラインの身体は消え去った。
アリスの剣は空を切る。
「なっ?!」
『クラインは多くの身体を支配しながら移動し、逃げたようです』
セイ達はすぐ追おうとした。しかし、
『現在、追跡するのは推奨しません』
「なんでだ?!」
『今追跡するとなれば、クライン対マスター達3人になるでしょう。その場合、マスター以外の2人の身体が支配される可能性が高いです。対策をするにはもう少しの時間が必要です』
「……仕方ないか」
セイ達は仕方なく諦めた。
その後、生き残った警備隊が応援と医療チームを呼んだ事で、この事件は一時解決となった。そしてレーザー銃で戦闘に参加していたリカットとファナス達はセイと合流した。
「無事でなによりです!」
セイも2人の無事を確認した。
「2人も……大きな怪我はないようだな」
1時間後、5人は再び奥の会議室へと集まっていた。
「今回の被害は……」
ファナスは報告書をめくった。
「約半数の展示品が破損もしくは紛失……か。まあ、あのような激しい戦闘があったにしては被害はマシな方だろう」
しかしセイは冷たい。
「報酬の件は忘れてないよな? クラインは取り逃がしたが、被害は最小限に抑えたぞ」
ファナスは慌てて答える。
「も、もちろんです! ただ、復興と展示品の開発者との話し合いがあるので、それ以降でも大丈夫と言ってくださればありがたいのですが……」
セイは少し考えた。
(まぁ、今すぐ必要な物はなかったしな)
「ああ。大丈夫だぞ」
「……! 感謝します!」
2人は深々と礼をした。
そうして、セイ達3人は家に帰り、またリベルの拠点潰しの日常に戻ったのだった。
スキル解説
EX伝説級レベル[支配]
生物の身体を無条件に乗っ取ることができる。
一度に大量の身体を操ることもできる。
生物であれば、微生物など小さな生物を乗っ取り逃亡することもできる。