第78話 狂人、または愉悦者
アリスがフランに凄まじい勢いで迫っている時、レイは正面から走ってフランに迫っていた。その目は赤く光っている。
「[界眼]……0.9%」
レイは、とてもスキルのない人間とは思えない剣技で飛んでくる全ての物体を切り伏せた。三人はスキルを失ったにもかかわらず変わらない状況にフランは焦りが滲み出ていた。
「こ、こないで!!!」
フランは大きく手を振りかざし、より大きな物を浮かべた。同時に、[不可逆的正夢世界]で生み出した巨大ロボットが右手に持つタワー、それを振りかざした。
レイは走りながら障害物を切り裂いた。
「[断裂]……」
巨大な建物をまるで豆腐を斬るように真っ二つにし、ロボが振りかざすタワーを避けた。
「ドォォォォォン!!」
タワーが地面にぶつかり砂埃が舞う中、レイはタワーに乗りフランの元へ走った。
「2人とも! 今だ!!!
私、レイ・カルカソンヌは異端審問官の名のもと、ルサリナに変わり神罰を執行する!!」
同時にセイとアリスも跳び出す。
「[神滅]!!!!」
「止水乱舞[上の段:炎華抜刀]!!!」
フランは全魔力を使うかのように手を振るう。
「まわれぇぇ!!!!」
「ギュイィィィンンンン!!」
するとロボの左手にある観覧車が高速で回転しだした。そしてそれをフランの周りで振るい、三人を薙ぎ払う。
「「くっ……!」」
しかしレイだけはなんとか踏みとどまった。
「もう一度、[断裂]!!」
レイは凄まじい速さで刀を振り落とした。その瞬間、観覧車はバラバラに斬られ、もはやフランを守るものは何もなくなった。そしてレイは止まらずにフランに突撃した。
「はああああ!!!!」
するとフランの頭上から触手のような血肉が数本伸びてきてフランを包み込む球体を形成した。レイの刃はそれによって防がれてしまった。しかしフランが救われたわけではなかった。
「グッ……! う……キャアアァァァァ!!!!」
レイが斬った血肉の球体の隙間から見えたフランは、激しくもがき、赤い血の涙を流していた。その瞬間、フランの脳内では過去の記憶が目まぐるしくうつりかわっていた。
フランは幼い頃から、[命を弄ぶこと]が好きだった。理由は、ただ面白いから。何も抵抗しない者、必死で命乞いする者、最後まで神に縋る者……その姿が滑稽だったからのか、それは本人もよくわかっていなかった。
とはいえ最初から人を殺してきたわけではない。子供の頃はダンゴムシやアリ、メダカなど少しやんちゃな男の子などがよくする遊びと変わらなかった。しかしフランのそれはとどまることを知らず、年老いたハムスター、隣の家の犬、さらには動物園のキリンやゾウまでもがそのターゲットとなった。その殺し方は様々で毒、首絞め、刺殺、さらには水へ顔を押し込んで窒息させることも……
いつしかフランの行動はヒートアップし、その後はあっさりと人間を手に掛けた。その感覚がたまらなく面白かったのか、半年の間に一つの町の住人が殺されることもざらだった。
しかしフランを止める者はいない。親さえも。
フランの親は、[フランの幸せが自身の幸せ]という、親としてはお手本のような考えだが、それが行きすぎてしまっていたのだ。
そしてスキルを授かる儀式の時、フランは【愉悦】となった。神がフランを祝福しなかったのである。本来ならば例えどんなに凶悪な殺人犯であっても、年齢が適当ならスキルは与えられる。しかしフランは、そうではなかったのだ。その時のフランの心情は単純だった。
「つまらない。せっかく面白い玩具が手に入ると思ったのに」
フランは迷うことなくその場にいた神官、儀式を待つ子供達、セキュリティ、全員を殺した。
「やっぱり、フランはこれがいいなぁ」
その時、殺人の感覚に飢えていたフランの目の前に現れたのは、細目細身のスーツの男だった。フランは迷うことなくナイフを突き刺そうとしたが、黒いローブの男の短剣によって簡単に防がれてしまった。
「君は、神を憎みますか?」
スーツの男の一つの問いかけに、フランは察した。
「やっと迎えが来た! そうだね! フランは玩具をくれなかった神さまを憎む~!」
黒いローブの男は不安そうにスーツの男を見た。
「大丈夫なのか?」
しかしスーツの男がフランに寄せる期待は大きかった。
「ええ。すくなくとも、ここまで殺人を楽しむ子はなかなかいません。彼女ならきっと、神殺しも楽しんでくれるでしょう」
フランは主要次元に生まれながらもスキルを授かれなかった数少ない人間。リベルに入る理由としてはそれで十分だったのだ。しかし、フランが死に際に感じた事は一つだった。
「やっぱり……真の【愉悦】はあなただよ……サラット……」
フランは、血肉に囲まれた中で高笑いしているサラットが一瞬だけおぼろげに見えた。
セイとアリスも合流したが、レイは次の行動を決めかねていた。そうしている内にフランの身体はボコボコと膨れ上がり、背後の巨大ロボットと融合していった。壊れ、崩壊しかけていたロボットは膨れ上がったフランの血肉でつなぎ留められ、もはやそれは巨大ロボットではなく……
アトラクションという鉄の鎧を身に纏った怪物となった。
「グウォォォォォ!!!」
その直後、怪物の視線の先に1つの光が見えた。見覚えのある光。
「エネルギー充填完了! [魔力強化型超電磁砲]、発射!!」




