第77話 [界眼]
「ジジッ!! バキバキィィ!!」
空が赤く染まり、セイ達の真上の空が割れた。そこから現れたのは、1つの大きな目だった。
「裂け目から赤い目が……」
その時、サラットによる[赤涙の悲劇]よりも不快な波動が、次元中に広がった。すると、セイのリベルシステムを含め、周囲のストラシア、異端審問官のゴッドシステムがすべて同時に停止した。
『神聖力の波動を記録しました。神聖力での操作を優先します。これより本システムは魔力での操作を中止し、スリープモードに入ります。その間、スキル及びその応用能力の使用ができなくなります……』
その機械音声が次元中に広がり、全システムが機能を停止する。そしてセイのリベルシステムも……
『なっ!? まさか直接干渉してくるなんて……
マスター、私は今から神聖力での命令を優先する。その間はお別れになる……そしてスキルも使えなくなる……
お願い……どうか、
生きて』
そうしてセイのシステムも沈黙した。アリスとレイは、今の現象が、天の赤い目の影響という事はすぐに気付いた。が、セイにはもう一つ、気付いた事があった。
「あの目どこかで…………!?
あれは、ストラルスの目だ!」
その言葉に皆が驚いたのは言うまでもない。しかしその中で最も驚いていたのは、ルサリナに忠誠を誓った、レイだった。
ルサリナである運命神の今の行動は、レイには到底理解できなかった。
リベルのシステムを停止させるならともかく、自分たちのシステムを停止させたからである。そしてもう一つ。
サラットが形成する血肉の防壁は、今なお崩れてはいなかった。つまり、サラット達リベルのシステムは停止させなかったのである。
「な……なぜっ! 運命神様は……セイクリッドではないはずです!!
ルサリナであるあなた様は、我々に慈悲と恩恵を与えてくださるはずでは……!」
しかしストラルスの目は沈黙していた。まるで、
「貴様達は黙って死ね」とでも言いたげだった。
この時セイは迷った。
リベルは運命神ストラルスを崇拝している事、そして、リベルに力を与えたのは、他でもない運命神であるという事をレイに伝えるかどうかである。
(うまくいけばレイは力強い味方となる……が、もしレイの忠誠心が本物なら、俺達への信頼は地に落ちるだろう……)
「何してるの~? そんな所に突っ立って~」
フランは大笑いしながら手をかざした。
「[不可逆的正夢世界]」
そして、[夢の星]のアトラクション、建築物、赤い涙を流した人間などが浮き上がった。そしてそれらはサラットが作り上げた血肉の壁を覆うように集まっていった。そして形作られたのは……
「巨大な……ロボット?」
アリスはフランが作り上げたロボットに驚愕した。その大きさは、パッと見でも200mはあるだろう。
「[不可逆的正夢世界]は、フランが楽しそうだと思う事ならなんでも実現できるスキル!
じゃあ次はこれ! 避けれるのなら避けてみな~!」
ロボットの胸辺りに浮いているフランは、もう一度セイ達に手をかざす。するとセイ達の周囲の様々な物が浮かび上がった。小石から、数メートルはある建物までが浮かんだ。そしてセイ、アリス、レイの三人に向け発射された。
「レーー」
その瞬間、レイはセイの顔を見た。
「おそらくシステムとスキルなしで最も強いのは私だ。……下がっていろ」
セイの肩を引き、レイは刀の柄に手をかけた。
「[界眼]……2.45%」
レイの目が赤く光り、魔力のようなモヤがあふれ出した。
「はぁぁぁぁぁ……」
「はぁ!!」
セイやアリスも、スキルが使えないながらも武器を構えていた。しかしそれは無意味に終わる……
「キン! カキン! キン! キン!」
レイは360°あらゆる方向から迫りくる全ての飛翔物を斬り落とした。しかもそれをセイもアリスも、目で追う事も出来なかった。
これにはフランも予想外だったのか驚きを隠せていなかった。
「え、なにあれ?! スキルは使えないはずじゃ……?!」
「チャキン……」
刀を納めたレイはフランを睨む。
「[界眼]はスキルではない。あれは魔力を血液に混合させ、目と腕に集中させる技術だ。私が独自に開発した単なる「魔力操作の応用」だからスキルではない」
「なっ……あれが、魔力操作の応用だけで実現可能だと……!」
これにはセイも驚きを隠せなかった。するとレイは補足した。
「[界眼]は、血管に流れる魔力と血液のバランスが重要になる。基本的に魔力が濃いほど、動体視力と腕は強化される。だがその部位への反動が凄まじくなる。
だから私は濃度0.05%から8.25%の間を、状況に応じて変えている。これ以上上げると私の身体がもたないからな
だから……私にも限界はある」
どの時だった。
「ドォォォォン!!」
光の弾丸がセイ達の頭上を通りロボットに命中した。
「ギィィィ……」
悲鳴のような音を上げ、ロボットはバランスを崩した。フランはまたも驚き、心配するようにサラットの方を見たが、サラットと血肉の壁には命中していなかった。
「な、なにあれ! あれが【調停】のおっさんが言ってた[魔力強化型超電磁砲]?」
そのフランが驚き振り返った瞬間、レイは咄嗟に叫んだ。
「アリスはロボの右から! セイは左から! 私は中央から、【愉悦】を叩く!!」
「「了解!」」
セイとアリスは、スキルの使用で培った剣術を持っていた。2人は走りながら飛んでくる破片を斬る。
「こっちは準備できた!」
セイはいつでもフランを間合いに入れる準備ができ、大声で叫んだ。
「なになに?」
フランは周りを見渡す。
その時アリスは道を探していた。途中で道が崩れ落ちていたのである。しかも目の前からは数メートル級の建物が落ちてきていた。そこでアリスは何かに気付く。
「これは…… ん? まさか……」
アリスは[妖刀:夜虚]に目を向ける。
「止水乱舞[上の段:炎華抜刀]!!」
アリスは一瞬のうちに反対側に跳び、建物を放射線状に斬った。
「やっぱり、止水乱舞は刀に帰属してるから無効化されないんだ!
なら、止水乱舞[中の段:紫焔流]!」
[夜虚]の刀身の紫の焔がさらに燃え盛った。そしてアリスは流れるように障害物を切り伏せていった。




