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第76話 人質

 「一番足が速い?」

 ミカとローナの視線は一瞬でアリスに向けられた。

 「私……みたい?」




 数分後、アリスはレイを抱えてフェルノートリゾートを駆けまわっていた。

 「まさか私が初対面の人の足になるなんて……」


 時間は数分前、アリスが一番足が速いと決めた時だった。

 「貴様、アリスといったな。どれくらいの速さで走れる?」

 アリスはよく分からないまま答えた。

 「えっと……[龍神化]を使えば一キロを五秒ちょっと、です」


 レイは少し悩んだ後、アリスに提案した。

 「あまり変わらないか……まあいい。残りの爆弾の処理、私も協力しよう。そしてアリス、私の足になれ」


 「え?」


 その後レイの指示は、回収できなかった爆弾がある場所、そして爆弾がある可能性が高い場所を巡って、できる限り早く走る事だった。

 「爆弾を近くに見つけたら私がスキルで斬る。爆弾の構造は把握しているから、暴発でもしない限り、爆発はしない」

 ローナは驚き、尋ねる。

 「そんな事可能なのですの?! いくら最強の異端審問官(インクイジター)とはいえそんな早業……」


 レイは刀を担ぎ笑みを浮かべた。

 「私が何と呼ばれているか忘れたのか?」

 ローナは思い出したかのようにため息をついた。しかしアリスとミカはそれを知らない。

 「あなたには二つ名が?」


 「ああ。聞いた事はないか? [千刀流]という二つ名を」


 しかしアリスとミカはぽかんとしている。

 「「聞いた事、ないですね」」

 レイはすぐに後ろを向いた。

 「ゴッ……ゴホン! まぁ、ルサリナ教の異端審問官(インクイジター)は表立って活動している組織ではないし、その中で最強であっても知らなくて無理はない……

 ま、まあとにかく! 私なら素早い爆弾の処理が可能だ。民間組織は行動に移すこともできないのか?」


 アリスは立ち上がった。

 「行けますよ」



 その結果、アリスはレイを抱えて、全速力で星を駆けまわった。レイは刀に手を置き、スキルを発動していた。

 「[幻影録(レギストロ)]」


 アリスが一瞬見えたのは、刀を凄まじい速さで振る、白黒のレイの影だった。

 「あれが、幻影なのかな……?」




 そうして皆が爆弾の処理に尽力している頃、セイは2人の異名持ち相手に引けをとらない戦闘をしていた。サラットが張り巡らせた糸を斬り避け、フランの魔法攻撃を避けていく。しかしなかなか反撃には出れないでいた。

 (こいつら……倒しはしなくても、俺に攻撃をさせないよう動いている……!)


 サラットは糸を剣のように振るう。その威力は実剣にも劣らないものだった。かつその動きはしなやかで読みにくい。しかしセイはそれを正確に読み取り、糸を華麗に全てよけていた。

 「こんなもんか? ばあさん」

 セイは余裕を見せ、サラットを煽った。その効果はセイの想像を超えるものだった。

 「その言葉の意味、分かって言ってるんでしょうね!!!」


 サラットの攻撃はより遅く、大ぶりなものになった。しかしその威力は……

 「ドォォン!!」

 一撃でアスファルトで舗装された地面がひび割れ、数メートルの穴が開いた。

 「これはこれは……」

 何かのスキルならまだしも、通常の攻撃でこれほどの威力になる事は神話級の人間でもなかなかいないほどだ。

 「ただこれで……より避けやすくなったな!」


 すこし距離をおいてセイとサラットの攻防を見ていたフランは、不思議に感じていた。

 「なんであのお兄ちゃん、サラットに全力で攻撃を仕掛けないんだろう? [赤血の鳥籠]だっけ……?

 あれを使えばすぐに決着はつくはずなのに……」


 その理由は、すぐに分かることになる。フランが攻撃を繰り出そうと魔法スキルを発動させた瞬間だった。

 「処理完了しました!」


 アリスの必死な声が周囲に響いた。

 「!?」

 その瞬間、サラットとフランはすぐに体勢を整えた。なぜなら、セイの猛攻が始まると悟ったからだ。

 「そうさ、俺は爆弾が全て処理されるまで全力は出さず、時間を稼ぐことに集中していた。目の前の爆弾の起爆は阻止したとはいえ、まだ起爆の方法は残っているかもしれないからな。

 [赤血の鳥籠]は発動してから攻撃が始まるまで時差がある。数秒だがな。その数秒でも爆弾を爆発させることは難しくないだろう?」


 「そして今、最も大きな脅威である星中の爆弾が処理された。今より俺は、攻撃に……」


 しかしセイの読みは甘かった。サラットが不気味な笑みを浮かべる。フランは笑顔でため息をついた。

 「ま~た始まったよ……これじゃあフランよりも、サラットの方が【愉悦】じゃぁん……


 ま、いいけど! [感情の女神]!」


 その瞬間だった。悪寒を感じるような魔力の波動が、夢の星に広がった。そしてストラシアや異端審問官(インクイジター)などの強者を除くすべての人間が、()()()()()()()

 「[赤涙の悲劇(トレーネペスト)]」


 「今ここより、全ての一般人はわたしの人質となった! アハハハハ!!」



 戦況は一瞬にしてリベル側に傾いた。その後セイはアリス、レイと合流した。

 「あんたは……?」

 セイは見たことのない女性に尋ねる。

 「私はレイ。異端審問官(インクイジター)がこの次元に来ていると、ネーレックから聞いたらしいな。それが私だ」

 レイは少し高圧的に自己紹介した。

 「だが私の事を呑気に訊いている場合ではないぞ。貴様、あれを倒せるのか?」

 レイは刀でサラットの方向を指さした。サラットは[感情の女神]のバフを受けた後、星全体を覆う規模の[赤涙の悲劇(トレーネペスト)]を発動させた。直後、周囲の赤い涙を流した一般客がサラットを覆い、セイは一時撤退を余儀なくされたのだった。

 そしてサラットは、赤い涙を流した人間を集め巨大な塊を形成、サラットはその中に閉じこもったのである。

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