第74話 調査という名目の娯楽
「何か隠しているな……」
船へ戻り、三人は会議室で話し合っていた。
「言動や態度に怪しい点などはなかったと思ったのですが……」
ミカが不安そうに尋ねるが、セイはすぐに説明した。
「あの男、俺が護衛に席を外していただきたいって言った時、快く了承しただろ? しかし、[詳細鑑定]ではあの男、戦闘系のスキルをほとんど持っていなかった。あり得るか?
神話級三人が目の前にいる状況で、護衛に席を外させるなんて。俺達を信用しているのなら良いが……それとも……」
「私達を試していた?」
アリスの推測はどうやらセイと同じようだった。
「ああ。その可能性はある。なにせ突然現れたEX神話級が神話会の協力を得て、押し入り調査を始めるんだからな。
そりゃあ警戒もするか……」
「ところで、これからどうするんですか?」
戦艦ストラシアが動いていることに気付いたミカはセイに尋ねた。
「ああ。今は[夢の星]に向かっている」
フェルノートリゾートの星は、受付の星ゲネトスとスタッフ用の関係者以外立ち入り禁止の星以外は、星の名前が簡単なものになっている。[夢の星]はフェルノートリゾートで最も大きな公開星で、最も多くのアトラクションが存在しており、人が密集する星だ。
「もしこの次元でリベルが何か行動を起こすなら避けては通れない場所だ。それと……」
セイはニヤついて続ける。
「調査の名目でアトラクション、乗れるらしいぞ」
ミカも気が付いてニヤつきだした。
「つまり……そういうことですね?」
「調査しながらならある程度、この星を楽しむ事を許可する!」
周りで聞いていたメンバーは大歓声を上げた。
アリスは笑顔ながらも何か考えがあるのかとセイを見ていた。
「見えてきたぞー!」
数日後、戦艦ストラシアは[夢の星]に到着した。予想通り、そこは多くの人で溢れかえっており、そもそもまともな調査が難しいほどだった。
船を降りてみると、より人が溢れかえっているように見えた。
「運営側も協力はすると言ったが、あれはこの人混みを何とかする事までは含まれていないだろう」
「なんだ。元からまともに調査はできなかったんですね!
制服さえあればどこにいるかは分かりますし、行きましょうか!」
「えっ!? ちょっ、ちょっと!?」
ミカはアリスの手を引っ張って意気揚々と走り去っていった。セイが振り返ると、ローナは
「わたくしは船に残って非常時に備えますわ。何かあればご連絡を」
「分かった。じゃあ任せるよ」
そう言ってセイも飛び降りるように船を降りた。
「入口でマップを何枚か取ってきてよかった……」
フェルノートリゾートは一つ一つの星は小さいとはいえ宇宙の広範囲に広がっているため、その規模は相当なものである。
なのでマップはかなり重宝されるのだ。セイはその後、魔力探知と目視での監視を行いながら[夢の星]を歩き回った。
「案外楽だったな……
何故かは分からないが、星はかなり小さいのに重力もほかの次元と変わりなく、酸素もあり呼吸できる。遊園地として営業するなら当たり前の事ではあるが、このような環境はかなり珍しいはずだ。
その証明に、他の次元は星の大きさ、衛星、恒星、物理法則など、生命の誕生に必要な条件なのか様々な所で似ている。もちろん地球もだ」
すると突然セイは後ろから話しかけられた。
「そうですね! 後半のゲストさんの考えは同感です! 良い所に目を付けましたね!」
「うわっ!?」
セイが驚き振り返る。
(オレが……気付かなかった?)
するとスタッフ?はハイテンションのまま自己紹介を始めた。
「初めましてゲストさん! 私はーー」
「もういいサラット」
セイはすぐに[詳細鑑定]で調べたところ、そのスタッフがサラットである事に気づいたのだった。
するとスタッフ?は首を傾げる。
「サラット? それは誰の事でしょう?」
(ここは人が多すぎる。戦うにしてもここでは犠牲と混乱を招いてしまう……このまま演技を続けてくれるなら、人が少ない所まで歩くか……)
その頃、ストラシアのメンバーの内、6割は船を降りていた。普段より人の少ない船内で、ローナはある人物と通話していた。
「これ以上わたくし達を疑うのはやめていただきたいですわね。
わたくし達ストラシアの目的はリベルの壊滅ですわ」
その携帯から聞こえるのは、凛々しい女の声だった。
「それは知っている。私が訊いているのはもう一つの目的、個人の正義の執行だ。
私はそれが、主要次元にどんな影響を与えるのか。それを知りたいだけに過ぎない。もしそれがルサリナを侵す存在になるならば……
私は容赦なく、EX神話級を切り裂く」
ローナはため息をついて説明を続ける。
「たしかにストラシアの目的には[個人が求める正義の執行]が含まれていますわ。しかしそれは、他人に害をなし、犠牲を生む事を禁じた事を前提としていますわ。あなた方[異端審問官]にはそれを理解していただきたいですわ」
携帯の向こうの女は不機嫌そうだった。
「フン。私はまだ、お前達を信用していない」
セイは怪しいスタッフと共に、アトラクションも人気もない場所に来ていた。
「どうして私をこんな場所に連れてきたんですか?」
スタッフの笑顔には、明らかな憎悪など負の感情が含まれているようにセイは感じた。
「ここならもういいだろう」




