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第71話 悲哀

 サラットが怪しげな笑みを浮かべる。

 「[赤涙の悲劇(トレーネペスト)]」


 「!?」

 セイは動揺せざるを得ない状況になった。視界が赤くぼやけてきたからだ。

 「セイ様?!」

 アリスは意識が朦朧としているセイを見て困惑したが、すぐにシステムが反応した。

 『疑似スキルによる精神及び身体への干渉を確認しました。[運命の支配者ディメンション・ドミネーター]を使用して無効化を行います』

 

 セイは自我を乗っ取られかけていたが、自我とは独立したシステムによるスキルの使用でこの状況を回避できたのである。

 「なるほどな……洗脳系スキルか……」


 セイは一瞬振り返り、アリスと目を合わせた。直後、サラットの首元めがけ[神葬]が振られる。


 「動かない方がいいよ」

 サラットは一切表情を崩すことなく立ち尽くしている。[神葬]は止められ、アリスも動きを封じられた。

 「[操糸術]ってやつか」

 いつの間にか周囲には糸が張り巡らされ、そこは少しでも動けば体がバラバラになる地獄のような場所になっていた。しかし、

 「[龍神化]、[創造者権限:虚]」


 アリスを封じる糸が消え去り、同時にアリスも消える。サラットの背後に現れると、既に[妖刀:夜虚]を振り、首を断ち切る寸前だった。しかし醜い槍がそれを防ぐ。


 サラットは無傷だが、槍は折れ、斬られた部分は粉々になっていた。

 「やっぱり即席のはダメね……」

 折れた槍の残骸を投げ捨てると、サラットはナイフがついた糸をさらに取り出す。



 物陰からセイ達とサラットの戦いを見守っているのは、【愉悦】フランだった。

 「やっぱりサラット笑ってる……あんたに【悲哀】は似合わない。本当に【愉悦】なのはフランじゃなくてあんただよ……

 サラット」


 その後滑走路エリアから出ていく青い蝶の群れに気付く者はいなかった。



 サラットはナイフを投げ、糸を駆使して戦う。セイは物理攻撃を無効化するため距離を詰めるが、どこからか出てきた糸によって受け止められ、攻撃を当てる事ができなかった。アリスが[創造者権限:滅]を用いて、空間ごとサラットを消しにかかる。その瞬間、

 「!?」

 跳んで避けようとしたサラットは突然動けなくなった。セイが振り返るとそこにはミカが立っていた。

 「奴にかかる人工重力を強化しました! 今です!」

 「[創造者権げ……」


 「[赤涙の悲劇(トレーネペスト)]!!」

 アリスとミカが赤い涙を流した。


 「まずいっ!」

 セイは咄嗟に手を伸ばし[運命の支配者ディメンション・ドミネーター]で解除しようとするが、その隙にサラットは逃げて行ってしまった。


 『[龍神化]の効果により全ての状態異常に抵抗します』

 アリスはその後自力で復帰、ミカもセイの協力でなんとか復活した。



 「……大丈夫だ。この船にはもうない」

 セイは魔力探知を行い、異名持ちがいない事を確認した。この事を伝えようと個人部屋に向かうと、そこには誰もいなかった。

 十分ほど探していると、セイは2人を滑走路エリアで見つけた。そこは地面が硬く広いので、手合わせや修練に使用されることも少なくない。


 アリスは、金属製ではあるが刃はない刀で、ミカは素手だが何やら魔力を帯びているように見える状態で手合わせしていた。

 (アリスの剣さばき、前より鋭いな……[究極者(きわめるもの)]があっても剣術では俺でも勝てなそうだ。

 ミカは……あれはなんだ? 魔力を帯びてる……基礎的な身体強化か? でも神話級ともなればそこまで効果はないはずじゃ……それに心なしかアリスの動きがぎこちないような……?)


 セイは遠くから眺めていたが、すぐに2人の手合わせが終わったようなのでミカに訊いてみることにした。

 「2人とも凄いな。俺でも目で追うのが難しかったよ。ところでミカ、さっきの戦い方って?」


 ミカは「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに笑顔で説明を始めた。

 「覚えていますか? 以前の都市次元での武闘大会で、僕は自分の攻撃に重力魔法を掛けて、重力を打撃の向きにかけて威力を強化していた事を。

 あれに加えて、相手側に打撃に向かっていく形で重力魔法を掛ける事で、さらに威力を上げたんです! ついでに細かい所も修正を繰り返して、自分の動きを速く、正確に、強くする事に成功したんです!」


 その後もミカは新しい戦い方の仕組みや課題点、それがどのように活用できるのかなどをアリスとの手合わせも忘れて熱弁した。



 どれほど時間が経っただろうか。アリスは部屋に戻り、ミカも疲れてきたのか、部屋に戻ろうとしていた。

 「そうだ、本題を忘れる所だった。ミカ、この船の中にリベル……少なくとも異名持ちはいないみたいだ。アリスにも伝えておいてくれ」


 ミカは頷き、部屋に戻っていった。

 「システム、あの治安局はリベルが変装した偽物だったが、その治安局というものは実在するのか?」

 『はい。確かにフェルノートリゾートには、治安局という組織が存在しています。治安局は密航者やテロリストを制圧し、遊楽次元の治安を維持する活動をしています』


 「……じゃあ、俺達が本物の治安局に見つかったら?」

 『捕まるでしょう』


 セイは少し考えると、

 「テヌドットからの許可証ってどこに提出すれば……」

 『恐らくですがフェルノートリゾートの入り口、受付の役割を担っている星、ゲネトスです』


 「じゃそこに向かってくれ……」


 どうやらシステムによると現在の戦艦ストラシアの座標からゲネトスまでは、ワープするほどではないが、すぐ着くといわけでもない、絶妙な距離にあるらしい。

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