第69話 戦艦ストラシアの本領
「[魔力強化型超電磁砲]!!」
セイの雄叫びと共に、コゥティが振り返ると、そこには光の弾丸が視界いっぱいに映った。
(奴の瞳のあの光はこれの反射だったか……!)
「[多重未来視]!!」
コゥティは一瞬にして、自身が取ることができる全ての行動での未来を視る。しかしそこに映ったのは、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。
その一瞬の時も刻々と過ぎ、コゥティは、何の行動もとることができなかった。
「あぁ……結局俺は何もできなかったのか」
その光の弾丸は一瞬にしてコゥティを消し去り、山をえぐり、水平線の向こうへ消えていった。セイは携帯を取り出してローナに通話を掛けた。
「……成功だ」
数日前、操縦指令室の上段の真下の空間、黒いカードキーを用いて1つの座席を見つけた時に遡る。
『こちらは、戦艦ストラシア最大最強の兵器、[魔力強化型超電磁砲]の操縦席です。
戦艦ストラシアの先端に装備されている超電磁砲、レールガンは、科学次元のベルクリア研究所が過去に生産した兵器の中で最も先進的かつ高火力な傑作です。追加で魔力を消費する事により、威力及び有効射程距離が向上します』
「たしかに戦艦ストラシアの先端は異様に尖っていたが……まさかそこに超電磁砲が装備されていたとは……」
そう言ってセイが席に座ろうとした時、何かにぶつかってしまい、操縦席に近づく事ができなかった。
「いてっ なんで?」
『[魔力強化型]は強力すぎるが故に、適正率が一定以上でなければ操作することができません。マスターの適正率は43%、基準の85%に達していません。それにより操縦の権限がないためと思われます。ここにいる者で最も適正率が高いのは……ローナ、適正率93.5%』
「わ、わたくしですの?!」
ローナは慌てながらも、セイ達に背中を押され、席に座った。
『[魔力強化型超電磁砲]は戦艦ストラシアの構造上、ほとんど方向を変えることができません。おおまかな方向は戦艦ストラシアを旋回させ、細かい調整と発射のみ、こちらで操作します』
するとローナは一瞬にして操作方法を理解したようだった。
数時間後、ストラシア主要人員で行った会議において決まった事は2つ。
1つ目は、セイのみでコゥティの居場所に赴き、対峙する事。
2つ目は、セイがコゥティを射程圏内へ誘導、そして準備が整い次第[念話]で合図をし、ローナが[魔力強化型超電磁砲]でコゥティを討つ。
これだけだった。しかしこれで十分だったのだった。
本番、セイがコゥティを捜している頃、戦艦ストラシアでは[魔力強化型超電磁砲]の発射準備を進めていた。
「バルトコアからのエネルギー供給量、基準の102.74%! 魔力貯蔵球からの魔力供給量10億3405万!
……発射準備完了! アンカー射出!」
戦艦ストラシアの先端が四つの割れて開き、中ではエネルギーが凝縮されている。6つのアンカーが発射され、海底に突き刺さる。戦艦ストラシアは島から200km離れた地点で、島に向けて発射の準備を整えていた。
「……!」
ローナは、セイがいる島から、魔力の波長を感じ取った。
「発射!!」
船全体が強く振動する。照明が消えかかる。
「ドオォォォォォォン!!!」
弾丸は白い閃光のような光に包まれ、音速を超える速さで発射された。反動で戦艦ストラシアは後ろへ動き、6つのアンカーが引っ張られてなんとか持ちこたえる。
「……ふぅ…………」
疲れたローナの携帯が鳴った。携帯の奥からはセイの嬉しそうな声が聞こえた。
「成功だ」
「お手柄だな!」
皆と合流したセイは、ローナとハイタッチをし、喜びを分かち合った。そして同時に、ベルクリア研究所の傑作の恐ろしさを再確認した。
「末恐ろしい物だな……魔力消費量も尋常じゃない。昨日から戦艦ストラシア内部で使用するエネルギーをほとんど節約したんだもんな……
できればもう使いたくないな」
それとすぐにストラシアは第3、神聖次元に戻る事になった。マーシュの件だった。
「なるほど……たしかにそれは、いち早く戻らなければなりませんね」
ブリヌダースは、最初の【魔弾】との戦闘以降、常にストラシアと行動を共にしてきた。しかし異名持ちとの戦闘が激化してから、何もできなかったと悔いていた。また、マーシュの死を目の前で見てから、より自分達の無力さに強い悔しさ、無念さを感じていた。
木田とセイから、これから神聖次元でマーシュを送り出す事を聞かされると、すぐに船を発つ準備をした。
「そういえば、この件でインゼリンは多くの犠牲を払ったのですが、これにより約半数のインゼリンは海底都市に移住を決め、残りのほとんども他次元へ移住するとの事です」
インゼリンの今後を聞いたセイは、特に大きな反応をする事はなく、あまり興味はなかった。ただ、できるだけ早く神聖次元に戻らなければ行けないのは変わらない事だった。
「本当ににありがとうございました!!
この御恩は、トスコリカ……いえ、海洋次元、永久に忘れる事はございません!!」
出発の次元を終わらせたブリヌダースはストラシアに感謝を伝え、トスコリカ軍の戦艦と共に戻って行った。
「さて、俺達も帰ろうか」
そう言ってセイは艦長室へ向かった。すると、廊下に壁にもたれた見覚えのある男がいた。
「俺様は……確かにリベルに復讐したいっていう気持ちがある……!
だが、それよりもやっぱりこの海を駆け抜けたくなってきたんだ」
セイはヌイトが何を言いたいかすぐに察した。
「……ヌイトは、ストラシアに入ってから、性格が真逆になるくらい大人しくなったよな。でも、海での戦いは凄く熱かった。
お前は……海の方が似合ってるよ!」
「フン……! やっぱり俺様は海の男だ!」
そう言ってヌイトはストラシアを脱退、再び海での旅に戻って行った。
「熱い男は、復讐より冒険の方が合ってるよな……!」
数日後、木田と共にストラシアは神話会本部でテヌドットと合流した。マーシュの葬儀は神話会とストラシアの一部の人間のみで執り行われ、マスコミにその事実が伝えられたのは更にその数週間後だった。
多くの人がマーシュの訃報を聞いている頃、セイはテヌドットと一緒にいた。
「すまなかったな。もう少し俺が早く到着していれば……
言い訳しているわけではないが、俺は海洋次元に到着してから、すぐに戦場を調べてそこに向かったんだ。しかし俺が到着した頃にはもう……」
テヌドットは、涙をこらえている。
「謝るな。お前が最善を尽くしたことは容易に想像がつく」
セイ達はしばらく静かな気まずい雰囲気の中で過ごした。
「……俺はもう行くぞ。第8……遊楽次元だったか? に行ってくる」
「分かった。詳細は前に説明した通り。携帯にも送ってある、確認しておけ」
テヌドットはセイとは目を合わせずにセイを送り出した。
『次元間渡航を開始します』
『行先、第8、遊楽次元』
[海上戦争編]終幕
次回 フェルノートリゾート編
「愉悦と悲哀は狂気の中にある」




