第67話 激戦
「[一縷の月光]」
メーノルは、[命の行方]による強化で、速度特化のアリスをも超える速さでセイに迫る。それを視認したセイはギリギリで避け、[一縷の月光]の経路上に[神葬]を置いた。
「カキンッ」
セイの[神葬]はメーノルの短剣に弾かれる。その隙にコゥティはセイを撃ち抜く。例えそれができなくとも、体勢を崩しメーノルが攻める隙を作る事を狙った。
「[魔弾]、[追跡弾]、速射」
セイは、避けられない空中で、どうしようもできなように見える体勢で、弾丸に手を伸ばす。
「[次元吸収]、[解放]」
そして異次元へ入った弾丸をメーノルへ向けて召喚した。しかしその[魔弾]は曲がり、セイに向かって来た。
「なっ……そう来るか」
「[魔弾]、[炸裂弾]」
セイに[追跡弾]と[炸裂弾]が同時に命中した。そこにメーノルがトドメを刺しにかかる。
[炸裂弾]の爆発の中で笑みを浮かべた。
「へっ。来てくれたな」
セイは後ろへ下がりながら、ギリギリの距離でメーノルに手をかざす。その瞬間だった。コゥティが異名持ち上位三名の新たな特別な力、[古代の異名]を発動させたのは。
「[古代の異名:魔眼]」
セイは強い視線を感じた。
「[赤血の鳥か……」
すると本来鳥籠が出現する魔法陣が、砕け散った。
「なっ!」
「……俺の[魔眼]は便利でな。一部のスキルの崩壊、鑑定ができるんだ」
コゥティは静かにそう呟くと、
「[万乱銃士]」
リボルバーを二丁取り出した。
「[魔弾]、[重厚弾]」
「ダァァン! ダァァン!」
低く大きな音と共に、凄まじい威力でセイに迫る。
しかしセイは、常に至近距離でメーノルと刃と刃のぶつけ合いを続けている。セイは、戦況を操作し、コゥティとの間にメーノルの身体を挟んだ。つまりメーノルを弾道上に誘導したのだ。
「舐めるなよ小僧!」
メーノルは空中で身体を捻り、短剣を少し傾け弾丸に当て、弾道をセイに誘導した。
「ぐっ!」
高威力の弾丸がセイの腹に深く突き刺さる。
『[物理攻撃完全無効]が発動します』
(少し苦しい……が、ダメージ自体はない!)
セイは崩れた体勢を持ち直す。それと同時にメーノルに手を伸ばす。
「[赤血の鳥籠]!!」
コゥティが持つ[魔眼]のスキル無効は、まだ使えない状態だった。
「[魔弾]、[炸裂弾]」
爆発の煙でメーノルはセイの視界から消える。しかしセイのシステムはすぐに居場所を把握する。
『上です』
メーノルは重力を利用してセイに向けて[一縷の月光]を発動する。
「[明光の一刀]!!」
「カキンッ!!」
メーノルの短剣の先端に[神葬]の刃を刺しこんだ。2人は数秒間硬直した。
「[マジックミサイル]」
セイが発射したのは、ただの魔力を固めた弾丸。もちろんそれでメーノルがダメージを受ける事はなかった。しかしセイの目的は、[赤血の鳥籠]の再使用だった。
([赤血の鳥籠]は強力な代わりに魔力の消費がかなり大きい……一回の使用で10億近く持っていかれるからな……
命中の自信がある時しか使えない!)
そこでメーノルは、突然大量の魔力を放出した。セイには効かない毒霧が周囲に立ち込め、日光が遮られた。
「[月喰らい]」
その瞬間、セイはメーノルの存在を認識できなくなった。
「ここからが本番だ……!」
メーノルの声がどこからともなく聞こえてくる。が、その姿は360°どこにも見えなかった。コゥティはなぜか銃口を下げた。
「貴様の[月喰らい]はその姿が認識できなくなるもの……ただ味方にも認識できなくなるのはどうにかしてほしいものだな」
セイはすぐに[運命干渉]もしくは[性質干渉]で[月喰らい]を無効化しようと試みた。しかし、
『[月喰らい]状態の生物は、存在を認識されなくなります。それにより、システムを利用したスキルの対象にも指定できません』
「なっ!」
その瞬間、
「カキンッ!」
セイの[神葬]は弾き飛ばされた。
(どこから弾かれたかすら分からない……!)
「[止水乱舞:下の段]、狂い咲き」
そこにアリスが到着した。周囲を斬撃で埋め尽くしていく。
「ぐはぁ!」
メーノルが倒れ、姿を現した。
「[創造龍が願った夜空]!!」
「[明光の一刀]!!」
アリスは新たなスキル、セイも[神葬]を拾い上げスキルを放った。短剣を手放したままのメーノルは、逃げる事もできなかった。
「油断しすぎだ。[魔眼]」
コゥティは、再び[魔眼]を使った。限りなく近い間隔で放たれた[創造龍が願った夜空]と[明光の一刀]は、[魔眼]によって消されてしまった。その瞬間メーノルはフードを被り姿を消した。
「[月喰らい]ではない……逃げたか」
セイはすぐにコゥティを睨む。しかしそこにはコゥティの姿もなかった。
「カチン……」
アリスは妖刀を納めると、セイとともに船へ戻った。
戦艦ストラシアでは、静けさが漂っていた。神話級が、それも[支配者]が死んだ。これは、異名持ちと戦う上では珍しいことではない。しかしセイの尽力によって近年はその犠牲が抑えられていただけだった。




