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第66話 月光と月影

 「[風狩刃(アネモスブレイブ)]!!」

 サイアンが繰り出したそのスキルは、圧した空気を斬撃として放つスキルだった。セイは、必要最低限の動きで避け、真正面に来た斬撃は[神葬]で切り伏せた。

 「一体何種類のスキルを持ってるんだ……! これじゃキリがない!」


 いつまでも逃げ回るサイアンにセイは嫌気が差してきていた。

 「[永氷の槍(アイシクル・ランス)]!!」


 氷の槍が凄まじい速さで生成され、サイアンに向けて発射される。氷の槍と風の刃がぶつかり合い、立ち込める冷気と、生成する霧によって姿を隠し、セイはサイアンに奇襲を仕掛けようとするが、


 「[魔力探知]ィィ! [風狩刃(アネモスブレイブ)]ゥゥ!」

 霧を切り裂きながら風の刃がセイに迫った。

 「っ!」

 (ダメージは入らないとはいえ、体勢を崩すのはまずい!)


 「[第13の腕(アナテマカイロ)]ォォ!」

 サイアンの肩から背中にかけて、禍々しい黒い11本の腕が生えると、伸びてセイに襲い掛かった。もちろんセイは容赦なく[神葬]を振りかざす。


 しかしその刃は、黒い腕をすり抜け、そこには無傷の腕があった。

 「!?」


 「[カッターアーム]!」

 サイアンがそう叫ぶと、全ての腕の先端の手は、鋭い刃へと変形した。


 セイは避けるのが不可能と判断したのか、すぐにスキルを使用した。

 「[対面一体]」

 セイがそう叫んだ直後、サイアンの全ての刃は弾かれ、サイアンに15個の傷ができ血が噴きだした。

 「ぐう……! [治癒(ヒール)]……」

 サイアンは自身に向け治癒スキルを発動するが、セイはその隙を与えまいと[神葬]を突き出す。[神葬]がサイアンの腹を突き抜け、貫通した。大量の血が滝のように流れる中、サイアンは……


 笑っていた。


 「フフ…… 誘導はバレてしまいましたが、特に意味はないですし……

 今日は楽しかったですよ」

 セイは何かを悟り、下を見た。そこには、海へ落ちたはずのサイアンの血は、海水に混ざらず、そこに水たまりのように溜まっていた。

 「……[魔身体]、解除」


 「チッ! 分身だったか……!」

 セイが倒したサイアンは魔力の塵となって消え去った。垂れ落ちた血と共に。


 一方アリスは、メーノルをギリギリまで追い詰めていた。

 「……仕方ない。[一縷の月光‐殲滅型スクランブル・エディション‐]」

 (奴の[創造者権限:滅]とやらは、すぐ俺に使ってこない事を考えるとクールタイムが必要か、膨大な魔力を消費する。どちらにせよ、畳みかけるなら今しかない……というわけか)


 一筋の光が……無数に飛び交い、アリスを襲う。しかしアリスは冷静に立ち尽くす。

 「[創造者権限:虚]」


 その瞬間、メーノルのスキルは強制中断され、光が消えた。

 「な!?」

 メーノルは何が起こったか分からず、混乱していた。それによりアリスが斬りかかろうとしている事にも気が付かない。


 「()()()()()()()()()()()……

 古代の異名【月影】」

 その言葉と共に、メーノルは黒い渦に包まれ、アリスは距離をとるしかなかった。

 「なにっ?」


 渦が消え、メーノルの後ろ姿が見え始めた。するとアリスはその禍々しい姿に動揺せずにはいられなかった。メーノルの被っていたフードがめくれた。

 メーノルの顔の右半分が、黒い結晶に覆われていた。


 「!?」

 メーノルが黒い霧と共に腕を振り、アリスを遠ざけた。


 「……まだ攻撃用スキルは使えないか。まあいい。[命の行方]」

 メーノルの周囲に黒い霧が立ち込める。すると、たまたま近くにいたリベルメンバーの左手が霧に少し触れてしまった。

 「えっ? う、うわあああ!」

 その左手は黒く変色し、一瞬にして腐り、溶け落ちてしまった。そしてその腐食は体中にどんどん広がっていった。

 「メ、メーノル様ァ! どうか、お、お助けを~!」


 メーノルは黒く溶けていく仲間に見向きもせず、アリスを睨んだ。


 (あの霧は……触れた物体を腐食させる……むやみに近づくのは危険ね…… 

 相手の攻撃を消去する[創造者権限:虚]は、霧の粒子を1つずつしか消すことしかできない……

 指定の空間を抜き取る[創造者権限:滅]は、魔力の消費量が大きく今後の事を考えると温存したい、それにクールタイムもある……)


 アリスとメーノルは、しばらく睨み合いが続いた。


 一方セイは、既にコゥティの元に向かっていた。足元を凍らせながら、疾走した。

 (普通の弾丸より弾速が明らかに速い……おそらく威力も圧倒的だな)

 セイは、相手が異名持ちであることを悟ると、より鋭い目つきで走り続けた。飛んでくる弾丸を避け、斬った。


 するとコゥティは、ただの弾丸ではセイの進行を止める事はできないと確信した。そこでコゥティは新しい手段を用いた。

 「[魔弾]、[炸裂弾]」

 そういって放った弾丸は、セイの目の前に着弾した。その瞬間、弾丸が爆発を起こし、セイは一瞬立ち止まるしかなかった。


 しかしこの時点でコゥティとセイの距離は約10m。コゥティは既にセイの一部のスキルの間合いとなっていた。

 コゥティは無言でセイにピストルを向けた。

 「ダァン! ダァン! ダァン!」

 コゥティは至近距離でセイに弾丸を放つ。


 「[神格化]」

 (おそらく奴の使う弾丸は魔弾……当たってしまえば何が起こるか分からない。慎重に行くしかないな)

 セイは、コゥティにむけて歩き出す。飛んでくる弾丸は、歩みを止めることなく、最低限の動きだけで弾丸を避けた。当たりそうな弾丸は即座に[神葬]で斬り伏せる。



 2人の距離が、[神葬]の間合いに入ろうとする時、コゥティは突然ピストルを真上に向けた。そして弾丸を一発だけ放った。そして、いつの間にか取り出したライフルも同時に真上に放つ。

 「[魔弾]、[炸裂弾]」

 その瞬間、ライフルの弾丸はピストルの弾丸に追いつき……衝突した。それに加えてライフルの弾丸は……

 [炸裂弾]、つまり着弾した瞬間爆発する弾丸だった。コゥティがピストルを撃ってから[炸裂弾]が爆発するまでの時間、実に0.06秒。



 その瞬間を、遠くから見ていた一般人は、こう語る。

 「片方の男が、もう片方の男をピストルで撃っていたんだ! そしてたら突然その上で爆発が起きたんだ! 驚いて2人を見たら、ピストルを撃っていた男はライフルを上に構えていて、その男を守るようにアサシンみたいな奴が覆いかぶさっていたんだ!」



 「コゥティ、なぜここまで追い詰められている。お前は俺より[古代の異名:魔眼]を使いこなせただろう」

 メーノルは静かにコゥティに尋ねる。

 「簡単な事だ。今まで使っていなかった」


 アリスは、爆発が見えた瞬間セイの方へ走っていくメーノルを追う事ができなかった。

 「[龍神化]によって私は、一撃特化ではなく素早さ特化になっている。でも……あれは、目で追う事すら難しかった……」


 この瞬間より、[魔弾]、[月光]対セイの戦いが始まった。

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