第58話 トスコリカ城
「懐かしいな」
トスコリカの中央の城、トスコリカ城に向かって歩きながら、ヌイトは周囲を穏やかな目で見渡した。
「そういえばヌイトはこの次元出身だったんですよね?」
ミカは、ヌイトが海洋次元で海賊をしていたという話を思い出した。
「リーダーから聞いたのか。まあいい。オレ様がこの次元出身というのは間違っていないし、海賊もしていた。ただ、出身はここじゃない、近くの別の海底都市だ。
ただここの方が圧倒的に栄えているからな。よく子供の頃買い物に来てたんだ。子供の時は、この日常がずっと続くと思っていた」
「何か……事件が? あっ、言いたくないならいいんですけど……」
ミカは気になったが、きっと辛い事だろうと気を使った。しかしヌイトは想像以上に落ち着き、多くを話した。
「この次元は元々、海賊が多くて、大きな都市以外は治安がかなり悪いんだ。オレ様達も、家からトスコリカに向かう時はビクビクしていた。ある日、オレ様は急に高熱を出してな。
唯一の家族だった姉が、1人で薬を買いにトスコリカへ向かった。オレは詳しくは知らないが、途中で海賊に襲われ、姉は持ち物を全て奪われた上、オレの薬の為に抵抗し、
殺された。
熱で寝込んでいたオレがそれを知ったのは数日後の事だ。もちろんオレは海賊を恨んだ。でもな、この次元において、海賊は数え切れない程いる。オレは迷った。
この復讐はいつの日か果たせるのだろうか。と。
そんな時に授かったスキルが、[碧海の海賊]だ。その瞬間、決めたんだ。海賊にでもなって、オレ様がこの海の頂点に立つ! そして、海賊を全て解散させる!
それがオレ様の目標になったんだ」
アリスとミカは、開いた口が閉じなかった。
「「ヌイトがそんな過去を経験した上であの態度の悪さ?」」
感傷に浸っていたヌイトは、それにひどく怒ったが、3人の顔には笑顔が浮かんでいた。
「ここか……」
3人が立ったのはトスコリカ城の入口。しかし周辺には、普通に車が走っていたり、飲食店が立ち並び、ランニングをしている人もいた。
「なんだか、ここの次元首は気さくな人みたいに感じるね」
アリスは、城が他の次元と比べて存在感が薄い事に気が付き、次元首の性格を少し理解した感じがした。
「すみません。大丈夫ですか? ここはトスコリカ城です。観光客でも立ち入りはできませんのでご了承ください……」
城の前の衛兵すら、3人に丁寧に接した。アリスは魔法次元との違いに驚きつつ、セイから預かっていた物を取り出し、衛兵に見せた。
「これは……[紋章]!? す、すぐに門を開きます!」
門が開かれた瞬間、3人の目に入ったのは、息を荒くしながら立っている次元首だった。
「はぁはぁ……ようこそ! 戦艦ストラシアが海上に来たと聞いて走ってきちゃいました!」
「オリー様?! なぜそう急ぐのです! 待ってても皆様は来てくれますって!」
執事やメイド、他の城の皆は慌てて次元首を止めようとしていたようだった。
「早く会いたかったんだ! それ以外の理由が必要か?」
オリーと呼ばれた女性は、3人に向かうと、アリスに勢いよく抱き着いた。
「えっ?!」
「ああ! かわいい!」
「えっ……? ありがとうございます……?」
「オリー様はこの次元では貴重なテレビを持っておりまして……それでアリス様の事を知り、今ではこのようにすっかりファンに……」
執事はそう言いながらオリーをアリスから剥がすと、子供のように騒ぐオリーを城の奥まで引っ張っていった。
「どうぞ中へ」
3人は、突然の事に理解は追いつかなかった。
中に入っていくと、ヂーナミア城と違い、すぐに大きな部屋に着いた。
「ここまでいらっしゃってくださったという事は、私共に加勢していただける、という事でよろしいですか?」
「はい。それと……」
アリスは、縄で縛られた1人の男を連れてきた。
「一体それはどこから……という事は後にして、その男は……?」
すると、騒ぎまくっていたオリーが突然静まり、真剣にその男を観察した。
「捕虜か」
アリスはその男を持ち上げると、再び地面に叩きつけた。
「はい。セイ様を除き私たちには拷問のような物の技術がなく……頼めますか?」
「もちろんです! 無断でその男を城の中へ入れたことはよくありませんが、我々は度々捕虜の確保に失敗していたので、非常に助かります!」
執事は深々とアリスに礼をすると、別の者に男を預けた。
「では、こちらの部屋で状況の説明と、会議を……」
オリーと執事、そしてアリス、ミカ、ヌイトの5人での会議が始まった。
「まず、遠路はるばる来てくれたストラシアに感謝を。改めて、私はオリー。海洋次元の次元首をやらせてもらっている」
「こちらこそ、我々を受け入れ、歓迎してくださってありがとうございます」
アリスも感謝の気持ちを伝える所から始まった。
「私はブリヌダース。オリー様の執事、そしてトスコリカ軍の総指揮官の役職をいただいております」
「私は……
皆が自己紹介を終えると、ようやく本題に入る事になった。
「先日私たちは、トスコリカ軍を名乗る兵士から、援軍要請を受信しました。まず、あれは本当にトスコリカ軍だったのですか?」
「記録はありませんが、我が軍の戦闘機が戦艦ストラシアの通信と繋がることができるのは事実です。確証はありませんが、おそらくトスコリカ軍で間違いないでしょう」
ブリヌダースはトスコリカ軍で使用している戦闘機の性能を説明した。
「我々の戦闘機は特別で、魔力による飛行と魔力弾の発射、搭乗者のスキルを効率化するといった、様々な機能を搭載しております」




