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第57話 海洋次元

 〜セイが船を降り、アリス達が海洋次元に向け次元間渡航を行った時〜


 「この魔力量なら、次元間渡航が何回かできそうだな」

 ヌイトが腕を組み、魔力の数値を見て、感心した。


 「確かセイさんは、状況が分かるまで参戦は控えるように、って仰ってたんですよね?」

 マーシュは、皆に確認すると、

 「そうですね」

 アリスは、セイの命令をしっかりと覚えていた。しかし、マーシュには懸念点があった。

 「もしそのまま戦場に出たらどうしたらいいんでしょう……」


 戦艦ストラシアの[次元間渡航]は、次元を指定した後、魔力提供者が行き先の詳しい風景や地名などを思い浮かべる事で、そこへ直接向かう事ができるが、そうでない場合、

 行き先の次元のランダムな場所の上空に出る事になる。


 そしてそのマーシュの懸念は、的中した。

 「ドォーーン!!」

 「ドカーン!!」

 と、海洋次元に着いた瞬間、船内に爆発音と強い振動が響いた。


 「あー……これが、フラグってやつですかね……?」

 マーシュは申し訳なさそうに謝ると、無線を使ってローナに呼び掛けた。

 「この戦場から抜けられますか? 僕がフラグ立てちゃったばかりに……」


 「大丈夫よ。これくらいの攻撃なら、リーダーの物理攻撃完全無効と魔法攻撃完全無効で余裕ですわ!」

 ローナが自信満々に答えると、ストラシアはゆっくり動き出し、戦場からの移動を開始した。


 「ひとまず、トスコリカの次元長に会いに行きましょうか。救援を求めてきたのはあちら側ですし、何か報酬を受け取ることができるかもしれません」

 ミカは冷静に状況を分析すると、皆に提案した。もちろん反対する者はおらず、すぐにその案は決定した。


 その後、船がトスコリカに向かっている間、皆は参戦の準備をし、執行者は集まって簡単な会議を行う事になった。

 「これで全員……あれ? セルトは?」

 集合の時間をとっくに過ぎ、マーシュはセルトがどこにもいないことに気が付いた。


 「はぁ……またどこかで道草でも食ってるの?」

 アリスは呆れたようにため息をはいた。

 「ま、船内に草はないけどね……」

 マーシュは机の上でぐったりしながら口を開いた。そして数秒の沈黙が流れると、ヌイトが会議室をでた。

 「捜しに行ってくる。早く始めたいならお前達も捜した方が良い。きっと時間がかかるぞ」


 「じゃあ僕も」

 「早く見つけないと……」

 「行くしかないか」

 ミカ、アリス、マーシュも続いて会議室を出た。


 「手分けして捜しましょう。船の下部は操縦指令室と客席、搭乗口と物置しかないから、下部で捜すのは後回しにして……じゃ、私は前方の方を見てくる」

 アリスはそう言って、滑走路と訓練場がある上部の前方部分へ向かった。


 「行っちゃった……じゃあ僕は、中央部を捜しておくね」

 マーシュは、食堂、メンバーの個室、会議室、メンバー経営の小さな店がある上部の中央を捜すことにした。

 「では僕は後方か」

 ミカは、下部と繋がる通路、屋上への通路、広場、バルトコア、エネルギー中枢室がある上部の後方を捜すことになった。


 それぞれがそれぞれの持ち場を隈なく捜したが、30分経ってもセルトが見つかることがなかった。

 アリスは無線で、皆に一旦会議室に戻るよう指示した。


 「セルトが消える事はたまにあったとはいえ、ここまで見つからないのは……」

 ミカはこの件の異常さに気付いた時、ストラシアはトスコリカに到着した。アリスは、この海洋次元とトスコリカについての解説だけ行うことにし、携帯を取り出した。

 「海洋次元は、見ての通りそのほとんどが海でできていて、陸上は所々に浮かぶ小さな島くらいしかないの。トスコリカはこの海洋次元の首都かつ最大の海底都市で、科学次元に匹敵する科学技術を持っている。ただし、スキルなどに否定的な意見はかなり少ない……」


 「だから戦闘機や戦艦が戦場にいっぱいあったんだね」

 マーシュは最前線での状況を思い出した。

 「ひとまず、私の他に船を降りたい人は?」


 誰も手を挙げる事はなかったが、アリスはすぐに、ミカとヌイトの名前を上げた。

 「ミカ、ヌイト、一緒に来て」


 「なぜ?! まだ何も……」

 終始黙って聞いているヌイトと違い、ミカは驚き、すぐにアリスに抗議したが、アリスがそれを聞き入れることはなかった。


 3人が搭乗口に着くと、そこに広がっていたのは、広大な海だった。

 「えっと……この真下に?」

 ミカは海を指さし、不安そうにアリスに確認する。

 「ええ。この真下」

 アリスは[黄金の武器庫]から、あらかじめ仕舞っておいた酸素ボンベを3つ取り出した。


 ミカはそれを見て、用意周到だなと一瞬感心したが、このスキルの本来の使い方とは違う使い方をしていることに苦笑いした。


 「はい、これ」

 アリスは酸素ボンベと呼吸器を2人に渡すと、すぐに潜っていった。

 (科学次元から水中呼吸用の発明品を何か持ってこればよかったな……)


 トスコリカは水中のドーム型の膜の中にあり、側面に3つ、上面に1つある出入り用の穴から入る。

 3人は側面からトスコリカへと入った。

 「ぷはあぁ!」


 ブーン……


 入り口にはトンネル型のドライヤーもインフラとして整備されていた。

 「科学が……魔力と共存している……」

 ミカは、魔力を感じる力が強いためか、その都市の実態を感じ、視る事ができた。


 「行こうか。長に話は通してある」

 アリスは2人を引っ張り、トスコリカ中央の巨大な芸術作品のような建物へと入っていった。

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