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第56話 戦に向けて

 「はあぁ……」

 テヌドットは神話会本部の、会長室で大きなため息をついた。

 「ただえさえ人手が足りないのに……民間業者に頼むにしても、また追加の出費か……サラット……! 天井の恨みは忘れんぞ……!」


 「……これで大体の作業は終わりか……」

 テヌドットは立ち上がり、部屋の外で待っていたセイと合流した。


 「待たせたな」

 「大丈夫だけど……どうしたんだ? 個別で俺を呼び出すなんて」

 セイはテヌドットに呼ばれていた。


 「ああ、少し……気になる事があってな……入ってくれ」

 手招きされてセイはテヌドットの部屋に入った。部屋には山積みになった書類がそこら中に散らばっていて、それはテヌドットの多忙さを分かりやすく表していた。

 「少し散らかっているが……まあそう長い話ではないし、片づけなくても良いだろう?」


 セイはなんとかソファの上の書類の隙間を見つけ、座った。

 「それで? 気になる事って?」


 「覚えているか? お前がブラトを倒した後、神話会がベルクリア研究所の後処理をやっただろう?」


 「ああ。あの時の事は感謝してるが……」

 セイは、何が気がかかりなのか見当もつかなかった。

 「その時、戦艦ストラシアの設計図と関係者一覧のデータを見つけたんだ。一部破損していたが最近復元できてな」


 「そりゃあ、ベルクリア研究所の研究員の名前が並んでいるんじゃなかったのか?」


 「それはそうだ、しかしな……その中の、「次元間渡航技術提供者」の欄に、改ざんの痕跡が見つかったんだ」

 テヌドットが口にした「次元間渡航技術提供者」はつまり、次元間渡航の技術を開発し、ベルクリア研究所にその技術を提供した人物だという事だ。


 「改ざんの痕跡……? いつ頃改ざんされたかは?」

 セイはすぐに理解することはできたが、その痕跡の重要性についてはすぐに気付かなかった。


 「お前が研究所に潜入した時だ。今は……「ネーレック・フェル」とある。第8、遊楽次元の運営会社の社長だそうだ」


 「遊楽次元……あまり聞いた事がないな。システム、解説を頼めるか?」

 『第8、遊楽次元は、「チルフェル」という民間企業が運営するかなり小規模な次元です。次元全体が巨大な娯楽施設になっており、主要次元一人気な旅行先として知られています』


 「観光地の運営会社の社長……か。テヌドットにもわからない事があるなら、本人に訊くのが1番早いよな。海上戦争の件が終わったら、遊楽次元に向かうとするか」

 セイはシステムの解説で大体を理解し、次の目的地を決めた。


 「おお! 行ってくれるか! ありがとう! これでまた人手を節約できる!」

 テヌドットは、セイの予想とは違う形で喜んだが、

 「ま、いっか……

 用件はこれで終わりか?」


 テヌドットは少し考えた後、

 「もう一つある。この[聖神路典]、いつ頃書かれた物か分かるか?」

 もちろんセイはそんな事知る由もない。

 「俺が知ってるわけないだろう?」


 「それはそうだな。ま、[聖神路典]は神域戦争より遥か以前に書かれた物という事は分かっている。そのうえで、1つ、奇妙な物を見つけてな。」

 テヌドットはヲウルトから預かっていたのか[聖神路典]を机に置き、広げた。

 「奇妙な物?」

 セイは[聖神路典]を覗き込む。


 「これだ」

 そう言ってテヌドットが取り出したのは、[聖神路典]のどこかに挟まれていた一枚のボロボロの紙切れ、それには[聖神路典]と同じ文字が少しだけ書かれていた。

 「これの解読は既に終わっている。だが……書かれている意味がよく分からなくてな。その内容は、

 「これを読んでいるという事は新たな天創者が生まれたという事だろう。そこで全天創者に、アインシトルの名において使命を与える、【記憶】を誅伐せよ。この使命を追い求める事こそ、何よりも全次元の平和に近づくだろう」

 という事だ。これを書いたのがアインシトルという事はわかるが……【記憶】、とは何なのか。それは全く分からなくてな。もし何か分かったら情報共有を、と思ってな」


 セイは

 (【記憶】に全く身に覚えがない。ただ、全天創者への使命という事はヲウルトやアリスも関わってくる事だ……何かリベルを追う上で情報をつかめればいいのだが……)

 「ひとまず言いたいことは分かった。何か分かったら共有しよう」


 テヌドットは立ち上がり、手を差し伸べる。セイもそれを掴み立ち上がる。

 「ああ。頼む」

 

 そうしてセイが部屋を出ようとすると、

 「おっと、忘れる所だった……

 ほら、ベルクリア研究所で見つけた戦艦ストラシアの設計図だ。何かお前達が知らない機能があったりしてな……」

 そう言ってテヌドットは設計図が印刷された一枚の紙をセイに手渡した。

 「それと、これ」


 テヌドットは黒いカードを出した。

 「ストラシアの設計図があった近くの金庫に厳重に保管されていたカードだ。用途は分からんが、おそらくストラシア関連の物だろうし、渡しておく」


 「……分かった」

 セイは何に使うかすら分からない黒いカードを受け取ると、テヌドットの部屋を出た。


 「またな」


 会議が終わった後、ヲウルトとドウガルーノと木田は通常の業務に戻り、ユナは海上戦争に向かったそうだ。

 「あれ? 木田?」

 セイが廊下ですれ違ったのは木田だった。木田は神話会内部で仕事をしているので、会う事自体はおかしくないのだが、木田は小さな真珠のような宝石をセイに預けた。

 「もしもの時はこれを割れ。神話会の神話級の誰かがすぐに助けに行くと約束しよう」


 セイは木田に心配性だなとおもいつつ、嬉しくもあった。

 「そんなことしなくても、俺がいるんだぜ? ま、ありがたく受け取っとくよ」


 2人は別れると、それぞれの仕事へと向かった。

 「セナスティア前の[次元間転送陣]は……

 いつも俺、次元間の移動はストラシアでやってたから、[次元間転送陣]を使うのはなんだかんだ初めてだな」


 セイがセナスティア前の広場に出ると、端に転送陣があった。

 「結構空いてるな。テヌドットにきいたら予約もいらないってなってたし、もう行けるのか?」


 すると職員らしき人が出てくると、セイを手招きし、[次元間転送陣]を起動した。

 「テヌドット様からお話は伺っております! 海洋次元ですよね? どうぞこちらへ!」


 「なんだ。テヌドットが手配しておいてくれてたのか。じゃ、行ってくるか」

 セイが白く輝く転送陣の上に乗ると、セイの体はより強い光に包まれた。


 「ようこそ! 海洋次元へ!」

 現地の職員の女性の声が聞こえると、セイを包んだ光が徐々に弱まり、周囲の景色が目に入った。


 「ここが……海洋次元首都のトスコリカか」

[神話会会議編]終幕


次回 海上戦争編


「顕現せし古代の異名。今こそ反撃の刻なり」

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