第51話 神話会会議
第一会議室では、ただならぬ緊張感が漂っていた。
ただ座り、じっとしているだけで緊張感を醸し出していたのは【電撃の支配者】木田真一郎。
足を組み、飴を舐めながら携帯を見ていたが、セイの入室に気付いた瞬間、笑顔で手を振ったのは【舞水の支配者】ユナ。
背筋を伸ばし、緊張しながらも笑顔を見せているのは【神話の守護者】ヲウルト。
そして1番奥に座り、黙々と他の参加者を待ち、この部屋の緊張感を1人で醸し出しているようにすら感じる圧力を持っているのは、 【魔神剣騎士】テヌドット。
セイはユナに笑顔で手を振り返すと、ストラシアの紋章が書かれた席についた。同時にドウガルーノも席についた。
「会長様! 【獄炎の支配者】レヌベータはセイ殿を襲撃、その後返り討ちにあい、現在は医務室で治療中です!」
するとテヌドットはドウガルーノと目を合わせると、黙ったまま頷いた。
「レヌベータの性格は把握している。セイに罪はない」
そう言うと、メイドの1人に目で合図を送った。
そのメイドは静か頷くと、セイが入った扉とは反対側の扉を開けた。そこには、大勢の貴族階級の様な人々が待っていた。
「今回の会議の議題は、全次元を巻き込む、大規模な研究発表が主となっている。故に、全次元ではないが、参加できるそれぞれの次元の代表者に来てもらった」
ぞろぞろと人が入り、会議室はすぐに満杯となった。ザワザワと話し声が聞こえるが、テヌドットが立ち上がった途端、会議室が沈黙に包まれた。
「まず、急な召集にも関わらず、出席して頂いた全員に、御礼を……
そして、今集まれる神話会メンバーはこの5名だな?」
テヌドットを除く神話会メンバーの4人は、礼をした。
「そして、今回の会議の内容に密接に関わるとして、ストラシアより、セ……いや、セイ・アインシトル殿に出席していただく」
セイはそのテヌドットの言葉を聞いた時、思考が停止したかのように唖然とした。
「なんで……俺の姓が「アインシトル」なんだ……? アリスと同じ姓……? 聞いてないぞ!」
と言いたくなったが、周囲には多くの人がいるため、何とか抑え込んだ。しかし、
(すぐに説明してもらうからな)
と言わんばかりにテヌドットを睨んだ。
セイは空気を読み黙って座ったが、依然混乱はしていた。
数分後、一通り挨拶は終わり、本題に入ろうとしていた。
「今回の会議では、セイクリッド・リベルへの対策について、セイ殿について、[三傑]について、地球について、海上戦争について、そして……
[聖神路典]の著者について。この6つの議題を主に会議と研究発表を進めていく」
テヌドットは淡々と今回の神話会会議の内容を紹介し、続けた。
「政治と経済の面は、前回の会議で可決、承認した計画を続行するという事で良いか?
何かこの件について用件がある者は?」
テヌドットは挙手を待ったが、誰も手を挙げる事はなかった。
「では、まずはセイクリッド・リベルへの対策についてだ」
するとテヌドットの後に空中に浮かぶモニターが現れ、8人の写真もしくはイラストが映し出された。
(あれは……何らかのスキルか?)
疑問に思ったセイがシステムに尋ねた。
『あれはテヌドットが光属性魔法系スキル[ライト]と同、[反射駆使]を応用して形成しています。実現には非常に高い魔力制御力が必要です』
セイは1人で感心した。
(へぇ……便利だな)
するとテヌドットが丁寧な口調で説明を始めた。
「最近はセイ殿のご協力により、8人中3人の異名持ちを撃破しています。これ程の好機は60年振りとなっています」
3人の写真にバツがつけられ、残った5人が拡大された。
「残るは【調停】、【月光】、【魔弾】、【悲哀】、【愉悦】の5人……
逮捕、拘束に成功した【一刀】の供述によると、序列上位3名は、他より圧倒的な力を持っている。と言われています。今以降、これらの異名持ちとの戦闘が起きた場合、主要次元連盟加盟次元に関わらず、戦闘、兵器面での協力をお願いさせていただきます」
するとヲウルトが手を挙げた。彼のスキル等級は公表されていないが、神話会メンバーの一員である事は変わりないため、参加しているようだ。
「主要次元連盟以外の次元のほとんどでは、人々はスキルを持ちません。相性にもよりますが兵器は戦力としてはあまり期待できないのでは?」
テヌドットは周りに説明するように回答した。
「確かに戦闘機、ミサイルなどの殆どはスキルには及びませんし、ましてや異名持ちには傷一つつけられないでしょう」
テヌドットのその言葉に、スキルがない次元の代表者達はざわついたが、テヌドットの説明が続くと、そのざわつきはすぐに消えた。
「しかし、スキルにも弱点はあります。魔力の量です。戦闘には多くの魔力が必要となるため、移動に魔力を消耗させる事は避けたいのです。そこで戦闘機は高速での移動に大いに役立ちます。
それに、ミサイルは障害物の破壊や威圧に十分に活用できます。なので……」
その説明で、先程ざわついていた代表者達は静まり、納得した様子だった。
「現在、リベルについて判明している事はまだほとんどありません。我々もこの好機に全力で調査をしてまいります!」
テヌドットは礼をすると、モニターが消えた。
「続いて、ストラシアリーダー、セイ殿についてです……」




