第45話 取引不可
セイが屋上に出ると、吹雪が吹き荒れる中ヌイトが船の後方を睨んでいた。
「もうそろそろ見えるか?」
ヌイトが振り返る。
「まだだ。オレ様の助けは必要か?」
セイは袖をめくって[神葬]を構える。
「必要ない」
「オレ様の出番はなさそうだな……」
そう言ってヌイトは中へと戻っていった。
「システム、ブリザード・ドラゴンの情報を頼めるか?」
『ブリザード・ドラゴン、討伐ランクSS級。
竜種の中でも凶暴かつ強力で、トップクラスの強さを誇ります。氷属性の扱いを得意としており、ブリザード・ドラゴンの周囲は激しい吹雪が吹き荒れます』
「最悪、[運命干渉]を使うか……」
「グオォォォォ!!!」
すると吹雪の中から巨大な咆哮が響くと、船が揺れたような感じがした。その瞬間、冷気の塊の息吹が飛び出した。
『[アイス・ブレス]です』
「[次元吸収]!!」
別次元の入り口が現れ、[アイス・ブレス]を渦で吸い込む。すると隙間のない吹雪の中から巨大な尾が振り落とされた。セイは浮遊し軽々と[神葬]で受け止める。
「全く……船はそんな簡単に落ちないぞ? [明光の一刀]」
1本の金の閃光が尾を断つ。その尾は切り落とされた。
「ギャアァァァァ!!!」
ブリザード・ドラゴンの悲鳴は、山脈の全てに響き渡った。その瞬間、セイは吹雪へ飛び込んだ。
「チッ……ちょっと大きすぎるな……[赤血の鳥籠]」
その鳥籠は、ブリザード・ドラゴンの巨体の全てを包み込む事が出来なかった。
「頭でいっか」
セイはブリザード・ドラゴンの頭に狙いをさだめ、鳥籠を生成した。ブリザード・ドラゴンは突然頭を覆った鳥籠に驚き、首を振って振り払おうとしたが、とれることはなかった。
「ガッ!……」
小さな断末魔と共にブリザード・ドラゴンの頭は木端微塵に斬り刻まれた。頭を失った巨体は、そのまま墜落していったが、セイはそれを船に固定した。
「依頼もあるくらいだし報酬とかあるよな……」
ものの数十秒で戻って来たセイに、冒険者達はセイが負けて引き返してきたと思った。しかしもちろん実際は違う。
「なんだ。あいつ、もう帰って来たよ」
「やっぱあんな若造じゃあ無理だ」
「船のスピードを上げた方がよさそうだな」
しかしエイレンはセイが勝ったと確信していた。セイは艦長室に戻るため、エイレンとすれ違った。
「……いいの?」
セイは興味なさそうに答えた。
「言いたい奴には言わせとけ。どうせヂーナミアに着いたら分かる」
「……?」
エイレンはセイの言っている意味が分からなかった。
(別に討伐証明に必要なブリザード・ドラゴンの牙を持っていればすぐに分かると思うけど……)
セイは1人で艦長室に戻ると、久々に[神々の業]を使う事にしていた。
「[鑑定]って、概要は分かるけど詳しいスペックは分からないんだよな……
システム、[神々の業]で[鑑定]を強化してくれ。できるか?」
『可能です。[神々の業]を発動、強化先をシュミレート中……』
「わくわく……!」
『強化完了。[詳細鑑定]を取得しました。より細かい鑑定が可能になった事に加え、対象が生物なら現在の心境や性格、物質なら現在の耐久度を調べられるようになりました』
セイは満足だった。
「悪くない……! じゃ、試しに[神葬]に使ってみるか……」
すると、これまでの声のみでの説明と違い、ウィンドウが表示され、より細かい鑑定が可能になっていた。
『EX神話級[神葬]
攻撃力、666万6666
耐久度、1万1998/1万2000
セットスキル、[神滅付与]
セリスの復讐の未練と家族が具現化した剣。全ての神を葬る力を秘めている。
ーこれで……糞神共を皆殺しにしてくれる?ー』
「……武器にもセットスキルがあるのか……[神滅付与]? ストラルスと相対した時役に立つかもしれないな」
すると、船内にシステム音声が響いた。
『間もなくヂーナミアに到着します』
「冒険者ギルドの裏に討伐証明査定のための広場があるはずだ。そこに向かってくれ」
セイは、倒したブリザード・ドラゴンの死体を直接納めるつもりだった。
(俺は冒険者登録してないし、ダメだったらカイルかエイレン達がやった事にすれば良いだろう)
その後、ほとんど時間はかからず冒険者ギルドへと到着すると、セイは船に固定してあったブリザード・ドラゴンの死体を降ろした。
巨大な飛行船が来たと騒ぎになり、ギルド職員が向かうと、そこには討伐ランクSS級のモンスターの死体があった。しかも尾は根本から切り落とされ、首から上は無くなっていた。
「これは……一体何事?!」
(13年職員をしてきたけどこんなの初めてよ!)
セイが船を降り、職員に尋ねた。
「これって報酬もらえる?」
セイは巨大な死体を指さす。
「これ……ブリザード・ドラゴンですよね。討伐はSランク冒険者でも不可能に近いSS級の」
セイは首をかしげる。
「ああ。そうだが?」
「冒険者登録してない方へは報酬はお渡しできませんし、このモンスターの討伐証明部位は牙ですよ? 牙どころか頭すらないじゃないですか!」
「……」
「……」
「……ぇ?」
小さな風がセイの頬をなでた。そこに一粒の涙が。
「嘘だろぉぉ!!!!」
その後セイは艦長室に引きこもった。冒険者達を降ろす作業は、ミカを中心に行う事になった。
「相当ショックだったんだろうな……」
ミカは船の出口を開けながら、一緒に作業しているセルトに話しかける。
「絶対あの人なら別の倒し方もできたと思うんすよ。だからよりショックなんでしょうね……」
するとそこにマーシュがやって来た。
「手伝いに来ましたよ! ってあれ、もう終わっちゃいました?」
冒険者ギルドの裏の広場で船の出口を解放した頃、セイは艦長室、正しくは艦長室と繋がっている隣のセイの自室に引きこもっていた。都市次元での武闘大会の賞金は全てリーンカムの復興のため寄付していたため、セイには金の余裕がなくなってきていた。
「絶対別の倒し方もできたのに…… もうちょっと慎重になれば良かった……
結構おいしい収入だと思ったんだけどなぁ…… ストラシアの皆も働いて稼いできてくれているけど本人への給料でほぼ消える……」
その時、部屋の扉が音を立てた。
「トントントン」




