第44話 救助作業
カイルはブリザード・ドラゴンの上で元気に手を振った。
「[片翼の英雄]はこの奥で……」
セイは[未来万視]で視た未来に少し驚いた。その時、洞窟の最深部に着いたのか広い出入口が一つだけの大きな空間にでた。そしてその中心には、氷で作った巣とその中に3,4個くらいの卵があった。
「そういえばこの時期はほとんどの竜種は産卵期だったはずです……」
コーナスはちょっとした解説をしたが、同時に何かに気付いたようだった。そして同時にセイも気が付いた。
「さっきのは?!」
セイは慌ててコーナスに尋ねる。
「雌だったはずです! そして雄は、より巨体で凶暴と聞いた事があります」
カイルもその状況を理解した様子だった。
「どうするの?!」
セイは巣の方を指さした。
「ひとまず[片翼の英雄]を起こそう!」
「……起こす?」
コーナスは疑問に思ったが、その疑問はすぐに消えた。
「これは……!」
そこには、氷漬けにされた冒険者達が大量に並べられていた。そしてその中に、
「あっ!」
カイルは[片翼の英雄]の3人を見つけた。セイは片っ端からスキルで氷を溶かしていった。
「俺の[永氷の支配者]は氷には相性が良い。すぐに溶かせるから雄のビルザード・ドラゴンが来ないか見張りを頼む」
「うん、任せて」
カイルはしっかりとした表情で応えた。
「[永氷の支配者]」
冒険者達を縛っていた氷が一気に溶けていった。しかし、長く閉じ込められていたのか、餓死、凍死などで亡くなっている人も少なくなかった。カイルは急いで3人に走った。
「あれ、あいつは……って、カイルじゃない!」
[片翼の英雄]の1人の女性がカイルとの再会に喜んでいた。[片翼の英雄]は、3人とも無事のようだった。
カイルは3人にセイを紹介した。
「皆を助けるのを手伝ってくれたセイさんだよ。あのブリザード・ドラゴンも1体倒したんだよ!」
3人はセイに歩み寄った。
「ありがとう。君の事はよく聞いているわ。私はエイレン」
3mくらいはありそうな大剣を担いだ男は、たった今解凍されたばかりとは思えない元気さがあった。
「よぉ、俺はサント。こっちは魔法使いの……」
「ノルーセです……」
か細い男は静かにそう名乗った。
「これが…魔法次元唯一のS級パーティ…」
セイはたった3人で大きな実績をあげた事に素直に凄いと思っていた。するとエイレンは苦笑いする。
「あんな所を見られちゃってるし、恥ずかしいな……」
「ひとまず、他の冒険者達を船に連れていきましょうか」
コーナスは周囲の大勢の冒険者達を見た。
「そうだな。もしかしたら雄のブリザード・ドラゴンが来るかもしれないから、カイルとコーナスは後ろから着いてきてくれ。
皆は俺が先導する」
「分かったよ」
カイルに続けて、エイレンも口を開いた。
「カイルよりは弱いけど、他の冒険者の護衛くらいならできるわ。私達も後ろにまわるわね」
「OK、頼んだ」
セイは後方の護衛を皆に任せると、50人ほどいる冒険者をまとめ、列に並ばせた。しかし指示に従わない者も少なくはなかった。
「なんであんたの指示に従う必要があるんだ!」
「「「そうだそうだ!」」」
そこにエイレンが仲介に来た。
「皆この人の指示に従って、私はS級パーティ[片翼の英雄]のリーダー、エイレンよ。この人は実力もあるし信頼できるわ」
しかし、冒険者の中にはかなり昔に凍らされ、今の冒険者を知らない人もいた。
「俺は知らねぇぞ! S級なんてそこらの奴がなれるわけねえ。言うだけなら誰でもできるぞ!」
セイはエイレンの肩をたたき、冒険者達の前に立った。
「仕方ない…… 任せろ」
「[運命の支配者]。ここにいる全員に俺のスキルと等級を公開、同時に俺に従うように洗脳せよ。ただしカイルとコーナス、[片翼の英雄]は除く」
『スキル発動確認』
すると全員は一瞬だけ気を失ったが、すぐに戻った。その瞬間、全員が綺麗に列に並んだ。それを見たエイレンは、セイのスキルの恐ろしさを目の前で体感した。
「こんな事までできるなんて……!」
その後セイが先導する列はかなり長い列を成し洞窟の入り口へと向かった。特に何も起こることはなく、全員で船に戻ることができた。
「そろそろいいか……」
セイは全員の洗脳を解いた。するともちろんほぼ全員の冒険者が混乱していた。
「なぁシステム。あいつら洗脳中の記憶ってあるのか?」
『ありません』
「じゃあ自分達はワープしたように感じてるのか……洗脳したって正直に言うのはやめておこう」
ひとまずセイは、冒険者達を下部の飛行機のような座席に案内した。
「ここは戦艦ストラシア。多次元組織ストラシアの本拠地だ。ストラシアは既に神話会と協力関係にある。皆の安全を保障し、ヂーナミアまで送り届けよう」
「なんだ? 俺達ワープでもしたのか?」
「神話会公認の組織? それならこんな巨大な船を持っていることも納得だが……」
冒険者達は徐々にセイ達に理解を示し始めた。するとエイレンとパーティメンバーの2人が歩いてきた。
「戦艦ストラシア……大きいとは聞いていたけどここまでなのね」
セイは既に[片翼の英雄]を信頼していた。
「ヂーナミアまでそこまで時間はかからないが暇だったら上部も見てていいからな」
するとセイの携帯が鳴る。
「あれ、ヌイトだ、珍しいな」
セリスの件以来、ヌイトは自分の部隊の訓練時以外のほとんどの船の屋上で過ごしていた。
「おい。ちょっとまずいかもしれんぞ」
そこから聞こえたのは、緊迫した様子のヌイトの声だった。
「今も屋上にいるのか? めっちゃ寒いはずだけど……」
この時の外気温は、-10度だが移動している以上、より寒くなっているはずだった。
「それで、何がまずいんだ?」
セイはヌイトに尋ねた。
「巨大な竜種がこちらに向かってきている。1分もかからんうちに追いつかれるぞ」
「システム! 俺の魔力を使って船を加速させろ!」
『それでも時間稼ぎにしかなりません』
セイはすぐに代替案をだした。
「じゃあワープは?」
『すぐには不可能です』
「……分かった。俺が出て、奴を倒す」
セイは上部を見ていたエイレンにこの事を伝えた。
「雄のブリザード・ドラゴンがこちらに向かってきている。奴の討伐は本来[片翼の英雄]が受けた依頼だが、どうする?」
エイレンは即答だった。
「任せるわ。私たちには無理」
「……分かった。任せろ」




