第43話 ブリザード・ドラゴン
「システム〜……何か良い方法ない?」
セイは絶望しながらシステムに尋ねる。
『マスターの《覚醒》は常に有効です』
システムはヒントを出すと、セイはすぐに気が付いた。
「はぁ……自身の時間の流れを早くして、より広範囲に[未来万視]を使う!」
「ジジッ」
セイの時間の流れが歪む。同時に凄まじい程の量が脳内に流れ込む。
「……分かった」
コーナスはかなり驚いた様子だった。
「常に飛び回るブリザード・ドラゴンの位置を把握したというのですか?!」
セイは自信に満ちた表情で応えた。
「ああ」
「サルエス山脈のエンロット山の麓付近だ」
『目的地設定完了』
船は動き出した。
しかしその後、突然船が揺れた。その瞬間、急激に船の高度が下がった。
「なんだ!?」
これはセイにとっても予想外の事で、システムに尋ねた。
『[バルトコア]からのエネルギー供給が不足しています』
「普段は大丈夫だろう!」
そう言ってセイは急いで魔力を供給した。するとすぐに戦艦は再起動し、再び飛行を始めた。
「なんで今になってエネルギーが不足したんだ?」
『想定より吹雪が1.6倍強かったため、一時的なエネルギー不足が発生しました』
カイルが何事かと焦って走って来たが、セイの説明ですぐに落ち着いた。
「何があったの?!」
「ああ、大丈夫だよ。想定より吹雪が少し強かっただけだ」
「本当? なら良かったけど……」
カイルは奥で待っていたコーナスと共に部屋へと戻っていった。その時、コーナスは少し笑顔になっていた。
(勇者は順調に魔王討伐に歩みを進めている。魔王軍との戦いの日々も……もうすぐ終わる!)
コーナスは勇者の実力と成長によって、大きな期待を寄せていた。
『エンロット山に到着しました』
セイはカイルとコーナスの3人で船を降りることにした。
「戦闘自体は俺とカイルで大丈夫だろう。一応コーナスもついてきてくれ……言わなくても来るか」
コーナスはセイに尋ねる。
「この寒さはどうするのですか? あなたはまだしもカイルと私は……」
セイは当然のようにふるまう。
「ん? それくらいなら……カイルとコーナスに[環境干渉無効]を一時的に付与。これで大丈夫だ」
(他人に能力の付与だと? 勇者とは違って、かなりスキルを使いこなしているようだ…… この男、底が知れない……!)
人知れずコーナスは驚愕していたが、カイルは自身がEX神話級である事も相まってそこまで驚いた様子はなかった。
「全然寒くないね!」
「セイさん、防寒対策、ありがとうございます」
「いいんだよ。えっと……ここに入っていくみたいだ」
3人はセイの[未来万視]での案内で、麓の洞窟へと足を踏み入れた。洞窟とはいってもかなり大きく、ストラシアも入るのではないかと思うほどだった。
コーナスの魔法の適正属性は光のようで、コーナスの魔法スキルで暗闇の中を進んでいった。
「暗いですね……[ライト]」
時々洞窟の奥から、コウモリが飛んでくることがあった。
「あれ? コウモリって確か……」
『コウモリは本来、寒さに弱く、冬は冬眠する生物です。このコウモリはサルエス山脈地域にのみ生息する[サルエスコウモリ]と言われる種で、寒さへの耐性を得た代わりに飛行がうまくできない事が多いようです』
「ゴンッ」
突然明かりが消えた。
「いてて……すいません。何かにつまづいて……」
コーナスは何かにつまづいてこけたようだ。
(むき出しになった岩かな……)
セイはそう軽く考えていたが、そう簡単な事ではなかった。コーナスが[ライト]を足元に向けると、そこにあったのは、卵だった。
「これ、ブリザード・ドラゴンの卵だよ! 城の図書館の本で見たことあるんだ!」
コーナスはそっと後ろを振り返る。
「それってつまり……」
そこには太く重量感のある足、青味のある白い大きな翼を持った、巨大な白い竜種がコーナス達を睨んでいた。
「「「逃げろぉー!!!」」」
3人は全力で洞窟の奥へと走った。
「あれがブリザード・ドラゴンなのか?!」
セイは走りながらコーナスに訊いた。
「おそらくそうでしょう! ていうかセイさん、この未来は見えなかったんですか?!」
「別にいいかなって思ってざっくりとした未来しか視てなかったから! [片翼の英雄]は奥にいる!
ていうかまだ何も戦闘の準備してない! ちょっとまて! 今[神葬]出すから!」
セイの叫びに、カイルも反応し剣を抜く。
「じゃあ僕も!」
剣を抜いた2人は、ブリザード・ドラゴンに立ち向かった。
「コーナスさんは戦わないの?」
カイルは剣を抜かないコーナスに尋ねたが、コーナスは
「戦闘は2人で事足りるかと…… それに私が参戦しても足手まといになるだけかと思いまして、剣は持ってきてないんです!」
その瞬間、ブリザード・ドラゴンの巨体が2人にのしかかろうと飛び上がった。2人は左右へと跳んでかわす。
「[永星の勇者]!!」
『強い覚悟を検知。相応の強化が与えられます』
カイルはすぐに自身を強化し、ドラゴンに斬りかかる。セイはドラゴンの足に狙いを定め、スキルを発動させる。
「[赤血の鳥籠]」
ブリザード・ドラゴンの右足は切り刻まれ、バランスが崩れ、すぐに倒れた。しかし、ブリザード・ドラゴンは口に冷気をため込み始めた。
「強力なブレスです! おそらく[環境干渉無効]はこれには有効ではありません!」
コーナスは後方から説明をする。
セイは再びスキルを使ってブリザード・ドラゴンの動きを封じる事にした。
「[永氷の支配者]!!」
氷の蔓がブリザード・ドラゴンの口を抑え込んだ。しかし、その氷は冷気としてすぐに吸収されてしまった。
「ああもうめんどくさい! [支配権能]!」
セイは冷気として吸収されない蔓を生成し、再び口を抑え込んだ。
カイルはその瞬間上へ飛び上がり、的確にブリザード・ドラゴンの首を狙って斬りかかった。
「ガンッ!」
しかしその剣は弾かれてしまった。
「硬い!!」
セイはカイルに叫んだ。
「[運命の支配者]の[支配権能]は全てに掛ける事ができる! [魔を滅す者]に使うぞ!」
カイルは再び首に狙いを定め、叫ぶ。
「うん! お願い!」
カイルは剣に、[支配権能]がかかった事をすぐに感じ取った。
「はぁぁ!!」
その剣は豆腐を斬るように簡単にそのドラゴンの首を切り落とした。




