第40話 神滅:終末の夜
「ねえ、お兄さん、あなたの名前は?」
セリスはそっとセイに尋ねた。
「セイ……いや、神崎昴流だ」
「……いい名前だね。きっと地球の日本の名前かな。ねえ、すばるお兄さん。お願いがあるの」
「……なんだ?」
セイは涙をこらえながらセリスに訊いた。
「あの糞神、ストラルスをセリスのかわりに殺してくれる?」
セイは拳を勢いよく突き出した。
(俺にスキルを与えたのはストラルス。でも、俺にリベルシステムを与え、セリスをこんな状況に陥れてなお、何も気にしていない。だから……俺は……)
「もちろんだ」
「ポツッ」
地面に涙が一粒落ちる。
「ありがとう」
セリスは涙をこぼしながら浮かんでいった。
『精神安定度・・・』
『0%』
『[神滅:終末の夜]』
セリスの身体が光り出す。
「何が……起こるっていうんだ?」
『前方に強大なエネルギーを確認。警告。すぐに逃げてください』
セイが距離をとる。するとセリスの身体は爆発し、すぐに第9次元を滅ぼす程の爆風は一瞬で広がった。子供達が溢れ、活気に満ちていた公園……何世代も受け継がれ、笑顔と涙がこもった畑……何気ない毎日の暮らしを支えた家々……その全てが、1つの爆風と魔力の波動により消え去った。
「[次元吸収]!!」
セイは急いで防御を展開しようとした。しかし、
『非推奨。[終末の夜]は次元を幾つも滅ぼす威力があります。[次元吸収]で生成する簡易次元では、簡単に破壊されるでしょう。また、この魔法には[神滅]効果が付与されています。スキルなどを全て無効化するでしょう』
「じゃあどうしろって言うんだよ!」
セイは焦り、システムに尋ねるが、その時、[運命の支配者]の力が覚醒した。
『セリスへの強い同情心と怒りを同時に確認。マスターの《覚醒》を確認。[権能化]を解放しました。これにより、スキルの限界を超えた効果を発揮できるようになりました』
「しっかり意味が分かったわけではないが、こういう事だろ!
スキル無効を無視して、攻撃を防御する!」
すると轟音と共に、魔力の障壁が現れた。
「ドオォォォン!!」
爆発が障壁にぶつかると、物凄い音を出した。しかし障壁には全く傷がつかない。
「なるほど……俺の《覚醒》は、スキルを超えた能力の行使、か」
空が割れて崩れていく、気付けば神域が目視で確認できるほどになっていた。去った爆風の内側は何も残っておらず、神域との境目が分からなくなっていた。
「これが……次元の崩壊……?」
ひとまず爆風を耐えきったセイは、ひと息つこうとした。しかしすぐにハッとした。
「戦艦とメンバーが! でも今からは流石に間に合わない……!」
すると[魔を滅す者]が心臓の鼓動のように光り出した。
「あれに対抗できるのは……EX神話級の勇者、カイルしかいない!」
すぐにセイはカイルに念話を繋げる。ここは船からは遠く、まだ爆風は到達していないはずだ。
「おい! カイル! 聞こえるか?!」
カイルは疲れきった声で答える。
「え、う、うん。聞こえるよ」
「疲れてるのか……? まあ、流石にあれだけの人数を避難させるのは無茶だったか?」
「あれからね、数百人ずつ、この次元の人達を別次元に避難させてたの。でもこれまで次元間渡航する時は、セイさんが魔力を供給してたでしょ? でも今回はセイさんがいなかったから、執行者さん達と僕でやったんだ。だから皆ヘトヘトだよ」
「ああ。そうだったのか…… 無理をさせて悪かったな。皆との魔力量の差を完全に忘れてたよ。って、今はそんな場合じゃない! セリスが……いや、リベルが次元を滅ぼす技を発動させた! もうすぐそっちにも到達するぞ!」
するともちろんカイルは驚き、慌てた。
「え?! もう皆、もう1回次元間渡航ができるほどの魔力は残ってないよ!」
「クソッ…… カイル。[魔を滅す者]をそっちに投げる。全力でやるから、爆風よりは早く届くはずだ。
……皆を、頼んだぞ」
するとセイは黙って[魔を滅す者]を手に取り、思いっきり振りかぶる。
「システム、船の方向は?」
「2時の方向です」
「……分かった。[支配権能]、環境干渉無効。これで爆風の影響を受けないはずだ」
(戦艦ストラシアにも、物理攻撃完全無効と環境干渉無効が掛けられている。でも、システムがいう[神滅]効果、これは神の力によって生み出された神の力の一部である、スキルを無効化するというものだ。そうなれば、無効系スキルが掛けられたのが大分前のストラシアも安全ではない……
俺はあのローブの男、メーノルとの交戦の為に魔力を温存しなければならないから、ワープとあの障壁を出すのは厳しい……)
「頼むぞ……! カイル……! はあぁぁぁ!!!」
セイは剣を全力で投げる。その剣は空気を、光を切り裂き、どこまでも突き進み、すぐに爆風へと追いついた。
「あっ。刃を前にして投げちゃった……」
ちょっとしたミスに気付いたセイだったが、カイルは全く気にしていなかった。
その頃、戦艦ではカイルと執行者達が倒れていた。
「もう……立てないっす……」
「ミカ……この中で1番魔力量が多いのはお前だ。どうにかならんのか?」
「そんな事言われても…無理なものは無理です…… EX神話級には遠く及びません……」
全員が疲れ切っている中、カイルは1人立ち上がった。セイからの念話を終えたカイルの顔は、以前とは違う、勇気に満ち溢れている表情だった。
カイルは戦艦の屋上の先端へと立った。戦艦ストラシアには後方に屋上があり、中に入り切らなかったヂミーナの人々で溢れかえっていた。
屋上の前方は本来、人が立つような場所ではなく、足場は不安定だった。
カイルは、真剣な表情で剣を待つ。すると、アリスとコーナスが登ってきた。
するとカイルは口を開く。
「コーナスさん。僕は前、何で僕なんかが勇者になったのか分からないって言ったよね」
コーナスは、突然カイルがこんなに真剣になった事に少し困惑していた。
「その答え、今なら分かった気がするよ。今、僕は怒ってるんだ。それはセリスに対してでも、リベルに対してでも、自分自身に対してもじゃない。こんな事態にする事を定めた運命にだよ。
そして僕は、今この船にいる全ての人々を守って、平和な日常を取り戻したい。短い間だったけど、仲良くなれた仲間達を守りたい。この気持ちの強さは、誰にも負けない」
すると、全てを滅すような巨大な爆風が見えてきた。そしてそれと同時に、1つの光が見えた。勇者の剣だ。
カイルは目で追えないくらいの速度で飛んできた剣を、片手で取り、構えた。その姿はまるで、伝説の中の英雄のようだった。
『マスター、カイル・グランシスの《覚醒》を確認しました。[スキル錬成]を解放しました。魔力が回復し、新たなスキルが生成されます』
「絶対に誰も失わせない! [栄光の流星]!!」
コーナスは初めて見る勇者の全力の一撃に驚愕し、開いた口が塞がらなかった。
多くの流星が、カイルの味方をするように集い、天から降り注いだのである。
「流星群……これは錯覚か?」
アリスは流星を注意深く確認する。
「いや、あれは……正真正銘の、流星群です」
カイルの剣は流星の光を纏い、いつの間にか戦艦ストラシアと同じくらいにまで巨大になっていた。
流星群と共にカイルはその巨大な剣で、爆風を斬り裂いた。すると爆風に巻き込まれていた木や岩がカイルの後ろに飛んできた。
アリスは夜裂を取り出し、コーナスに尋ねた。
「右側は任せられますか?」
「やって見せましょう!」
(勇者が《覚醒》した! これを乗り越えたら魔王討伐へのかなり大きな一歩となる!)
コーナスは大剣を抜き、後方にいる一般人のため、勇者の後援のため障害物を斬り裂いた。




