第35話 農業次元
『次元間渡航を開始します』
ストラシアは光に包まれた。しかしすぐにその光は消え、モンスターの集団に囲まれていた。
「なぜ?! さっきまで何の反応もなかったはずよ!」
操縦司令室では大騒ぎとなっており、ローナも混乱していた。
すると艦内にセイの声が響き渡った。
「襲撃だ! 下級悪魔が20体、中級悪魔が8体、上級悪魔が2体だ! ただしこれはストラシアメンバーなら十分に乗り越えられる! 戦闘スキルを持ち、戦意と向上心がある奴は対処にかかれ!」
セイは[未来万視]を使わずに周囲の状況を把握できていた。
不安そうにカイルが口を開いた。
「ボクが本格的に動き出すと魔王軍が悟ったんだ……! ごめんなさい……」
コーナスは無言だったが、セイはカイルを慰めた。
「別にカイルは悪くない。これくらい楽勝だ! なんせ、ストラシアのメンバーは全員が伝説級以上のだからな」
「そ、そうなの? ありがとう……」
するとコーナスは少し食い気味にセイに尋ねた。
「メンバーの募集時は等級の制限はなかったと聞いているが……厳選したのか? それとも……」
「別に? というか、俺はそれと同時に「ストラシア加入時に全員のスキルを強化する」と言っただろう? その結果だ」
コーナスは黙りこんだ。
(奴の言っている事が本当なら、前例が無いほどの大幅かつ安定した強化だ。奴のスキルは[運命の支配者]だったはず……その効果か?)
「[瞬発]!!」
「[治癒]!」
「[身体強化]!!」
数分後、数々のメンバーによって、襲撃した悪魔は全て撃破された。
同時刻、魔王城「ワンバルム城」。
「ご、ご報告致します! 悪魔先駆小部隊、戦艦ストラシア襲撃後、全滅しました! この戦闘でストラシアのリーダーと勇者は参戦していなかった模様です!」
それを足を組み、不気味な笑みを浮かべながら聞いていた女がいた。魔王モルセ・ワンバルムだ。
「ふ〜ん……」
「ザシュッ……」
「アッ……エ?……」
その瞬間、早急に情報を報告した飛翼隊アランの命は無に帰した。
「十三人目の勇者……その美しいお顔を、最も美しい血で染め上げましょう!」
一方ストラシアでは、ちょっとした騒ぎになっていた。
「俺達勝ったぞぉー!!」
(初めての戦闘で勝つ事が出来たのは良かったな。自信は成長にも繋がるし……!)
セイは大声で叫んだ。
「さて、一難去った所で……出発しようか!」
「「「はい!!」」」
『次元間渡航を開始します。目的地、第9、農業次元』
船が再び光に包まれる。
「結構揺れるんだね」
光を抜けると、そこは畑が水平線まで続く広大な土地だった。所々トラクターなど農作業機が稼働している。よく見ると科学次元製のようだ。
「一面……畑だらけですね……」
アリスは遠くを眺めながら呟いた。するとコーナスが前に出た。
「[魔を滅す者]が展示されているのは、第9次元首都ヂミーナです。早速向かいましょう」
『目的地設定。光学迷彩を起動しヂミーナへ向かいます』
こうしてストラシアはヂミーナのある南へと向かった。
約1時間後、少し人が多いように感じてくると、奥の方に他より大きな街が広がっていた。
「あっ! あれがヂミーナだ!」
カイルは少し興奮した様子で窓を覗いた。
コーナスの説明によると、[魔を滅す者]は博物館の特別展示室で展示されており、既に魔法次元の王を通じて回収の連絡を入れてあるとの事だった。
「今回はコーナスとカイル、そして俺の3人だけでいってくるよ」
セイはそうアリスに告げると、
「了承しました。では軍志望者の部隊希望を元に配属を考えておきますね」
「ああ。大変だろうけど頼む」
実は既に軍の希望者を募っており、どの[6の執行者]の部隊に入りたいかの希望も取っていたのである。
その後俺とアリス、ミカの3人でその希望の集計を行ったのだが、ほとんどがミカとマーシュだったのだ。おそらく都市次元での大会で結果を残すことができたからだろう。逆にヌイト率いる第6部隊の希望はほとんど無かった。
まあ、仕方ないし入りたくないのは分かるが、あいつは仲間思いな奴だ。数人は第6部隊へ配属しなければならない。その仕事をアリスが受け入れてくれたのはありがたいことだ。
船を降りた3人はヂミーナへと踏み入る。
「思ったより人は少ないね」
カイルが辺りを見回しながらつぶやくと、コーナスが説明を入れた。
「農業次元は人口が分散していますから。総人口だけでいえば科学次元に相当するといわれています」
「主要次元の7割の食糧を生産してるんだったか? そりゃあある程度人口は多いだろうな。
……でも……こんなに警察多いか……?」
街を歩いている人の2人に1人は警察ではないかといえるほど、警察が多かったのだ。
「何があったんだ?」
セイは警察官の1人に話しかけると、一瞬怪しむような目で見つめた。
「博物館の展示品の1つが盗まれたんだ。かなり貴重……というより全次元に1つしか存在しない超貴重な物だから警察は厳重体制をしいてるんだよ」
「……ねぇ…………」
カイルは2人を見る。
「嫌な予感がするな……」
「警察の人? もしかしてその盗まれたのって[魔を滅す者]だったりするか?」
警察官は思い出した様子だった。
「えっと……うん。そうだよ。たしか勇者が受け取りに来るから余計まずいんだよね……」
3人は警察が混乱しないようカイルが勇者であることは言わず、博物館へと急いだ。
「博物館にいる警察ならもう少し具体的な事を知っているかもしれない!」
『精神安定度38%』




