第33話 永星の勇者
セイ達が目の前にあった酒場に入ると、昼間から酒を楽しむ冒険者で賑わっていた。
「第5次元は、第4次元と隣接している影響で、モンスターが多めに流入してきている、それらを討伐し報酬をもらう「冒険者」という職業が人気だ。そしてその冒険者の管理を行っている「冒険者ギルド」の長は第5次元では国王に次ぐNo2の権力者だ」と木田が言っていた事を思い出した。
突然酒場に入って来たのは、子供にしか見えない若者。酒を楽しんでいた、ガイのようにガタイの良い男達は、セイ達を睨みつけた。
「あぁ~? ここはガキが来る所じゃねぇんだよ!」
男はアリスとセルトの持っている剣を見て、続ける。
「お前ら、冒険者かぁ? やめときな。俺達でも今B級だ。ガキが夢みて軽い気持ちでやるモンじゃねぇ!」
今は昼だが、男達は酔っぱらいかけていたようで、フラフラだった。すると、モヒカンの男が口を開く。
「あれ~? お前、最近出てきたEX神話級の奴じゃねぇか? オレ、第3次元にいたから中継見てたんだよ」
4人はできるだけ男達を無視し、周囲の会話に耳を傾ける。すると、セルトが叫ぶ。
「1番高いの一杯!!」
セルトはアリスとミカにアッパーを食らいダウン。セイは苦笑いしながら耳を澄ました。
「あの[支配者]のEX神話級と勇者ってどっちが強いんだろうな?」
「そんなガキどもの事気になるのか?」
「ガキとはいえ強さは本物だぜ? あれは。[魔神剣騎士]に勝ったらしいしな」
「勇者もEX神話級なんだろ?」
セイは立ち上がり、その話で盛り上がっていた男達に話しかける。
「何杯かおごるから話聞かせてくれよ」
セイはアリスに目配りすると、分かったようにうなずいた。
強面の男は、驚いて椅子ごと後ろに倒れる。
「いてて……あんた、セイとかいうEX神話級のやつか? 中継見てたぜ!」
意外にもその男は絡みやすく、気さくな性格だった。セイはその男に勇者がどこにいるか尋ねた。すると、
「うーんそーだな……多分ヂーナミア城じゃねぇか? そうじゃなくてもかなり近いところに住んでると思うぜ。会いたいってんなら冒険者ギルドに行きな。[永星の勇者]カイル・グランシスも冒険者の1人だからな」
「ありがとう。行ってみるよ」
セイが立ち上がると、アリスとミカも立ち上がった。金だけ払うと、アリスとミカの2人はセルトを引っ張り、セイと共に冒険者ギルドへと向かった。
4人が冒険者ギルドに着くと、建物の前には人だかりができていた。少し強引に前を見に行ってみると、2人の男が戦っていた。
「いけぇカイル!!」
「いい加減やめろ!!」
(片方は勇者のカイル・グランシスって奴か……もう片方は……見たことないな)
セイは、建物前で呆然としているギルド職員の女性を見つけ、声をかける事にした。
「えっと……これは何が起きてるん……だ?」
「あっ! セイさん! あの3人を止めてください! お願いします!」
(どうやら、冒険者ギルドでは俺の話は広がっているようだな。でも……)
セイは分からなかった。
「なんで3人? 戦っているのは2人じゃないのか?」
するとギルド職員は紫のスカーフを首に巻き、鬼の面を被った5,60代の男を指さした。
「あ、あの人が……召喚したんです! カイルさんと戦っている人を!」
するとミカが怒鳴るように驚きの声を上げた。
「え?!」
その声にギルド職員含め4人はビクッとし、セイがミカに訊く。
「どうした……?」
「本来召喚魔法は、魔獣を召喚する魔法です! 人型であってもそれは人型のモンスターであって、完全な人間の召喚と使役は不可能です! おそらく……ハルミン殿でも不可能に近いかと……」
セルトは召喚された人を良く観察する。
「じゃああれは、人型のモンスターって事っすか? そうは見えないっすけど……」
ミカは興奮と混乱が入り混じっていた。
「だからおかしいんだよ……!」
ひとまずセイは、3人の動きを止める。
「「「なっ?!」」」
しかし勇者カイルは動き出した。少し驚きながらもセイはなんとなく予想できていた。
「……だろうな」
カイルはセイに歩み寄ると、戦闘時とは全く違う穏やかな雰囲気で話しかけた。
「ありがとう……なのかな。依頼を受けて建物を出たら、突然あいつに襲われたんだ……あれ?」
そこにはあのカイルと戦っていた人と召喚士の姿はなかった。
ひとまずセイはカイルに、正式な話し合いの場を設けたいと相談をした。
「1か月くらいまでなら待てるから、正式な話し合いの場を設けたいんだ。できるか?」
「それくらいなら明日でも大丈夫だよ。依頼を受けなければ良いだけだし」
(案外暇なのかな……)
そうして、明日冒険者ギルドの会議室を借りて話し合いの場が設けられることとなった。
翌日、4人が冒険者ギルドの一室で待っていると、ドアがノックされる音が聞こえた。
「ボクだよ。入るね」
するとカイルの後ろには、服装からみて階級の高そうな男が同行していた。
「この次元の軍師、コーナスだ。ストラシア及び神話会からの協力要請があるのは知っていた。私も参加させていただこう」
かなりの威厳があったが、セイは冷静に2人に[鑑定]を使用した。
『カイル・グランシス
年齢、11歳
種族、人間
出身、第5次元
適正属性、光
所有スキル、EX神話級[永星の勇者]
自身の覚悟や願いの力を元に、自分自身や周囲の仲間を強化します。最終的には因果律の外側の存在となります。
コーナス
年齢、41歳
種族、人間
出身、第5次元
適正属性、光
所有スキル、EX伝説級[統率者]
自身を認め、尊敬する部下に大幅な強化を与えると同時に、意識と視界、聴覚の共有が可能になります。
レベル2[初級光魔法]』
(どちらも強力なスキルを持っているが……[永星の勇者]の「因果律の外側の存在となる」って……かなりチートなんじゃ……同じ等級だから俺の[運命の支配者]を覆す可能性もあるな……)
「ああ。その通り、我々リベル殲滅共同軍は勇者カイルに正式に協力を要請する」
カイルは突然の堅苦しい雰囲気に、気が滅入ってしまったようで、頭の上に「?」が浮かんでいるようにすら見えた。するとコーナスがカイルの代わりに口を開く。
「勇者のみとは言わず、我々ヂーナミア騎士団も喜んで協力しよう。と言いたい所だが、あいにくヂーナミアはリベルより危険ともいえる敵に立ち向かわなければならない。故に今すぐ、いや、数年後まではその協力は不可能だろう」
セイにもこの回答は少し予想外だった。
「わ、分かった。ちなみにそのリベルより危険ともいえる敵って……?」
するとカイルの目つきが変わる。
「「魔王だ」」
『精神安定度43%』




