第31話 紋章
テヌドットはセイに尋ねる。
「ずいぶん安直だな。メンバーは決めたんだろ? 誰にするんだ?」
セイは微笑む。
「もうわかるだろ?
アリスとミカとマーシュとヲウルトとセルトと……」
「もう1人は?」
セイは少し考えたが、すぐに思いついた。
「えーっと……あ、あの海賊にするか」
テヌドットは慌てて訊く。
「大丈夫なのか?! なんか、あの……怪しいやつ!」
セイは苦笑いして答えた。
「流石にそれはひどいだろ。あの男が言った事にシステムが反応していなかった。つまり言っていた等級は嘘ではないという事だろう? 強いならより大歓迎だ。スキル強化したら神話級になっちゃったり……」
セイは不敵な笑みを浮かべていたが、テヌドットはセイの表情が容易に想像できた。
テヌドットは渋々受け入れた。
「分かった。奴が来たら伝えておく。また何かあったら伝えてくれ……おっと、あぶなかった……もう一つ要件があるのだが……会って話せるか?」
セイは疑問を持ちながらも受け入れた。
「? 分かった。今からか?」
「そうしてくれると助かる」
特に予定がなかったセイはすぐに神話会へと向かった。
「来たぞ~」
すると廊下には、多くの人が椅子に座って並んでいた。
(そういえば面接してたんだったな……いや多くね?)
できるだけ顔を隠しながら約束していた部屋へと入る。すると、テヌドットともう1人、司教のような人が待っていた。
「来たか。紹介しよう。こちらはルサリナ教会からお越しになったルサリナ教皇、シアン様だ」
ルサリナといえば、神話会本部がある第3次元、神聖次元の首都、聖地ルサリナだ。そして、主要次元連盟において最も信仰者数が多い宗教の名でもある。
「あ。どうも……」
セイはとりあえず座り、話を聞くことにした。
「それで、要件は?」
すると教皇シアンが口を開く。
「神に愛されしEX神話級、セイ。そしてその仲間達よ。そなたらに[紋章]を授ける事になった」
「は?!」
[紋章]とは、神もしくはルサリナ教皇が巨大な組織や英雄に与える、象徴のようなものだ。生物と生物ではない物の二つをベースに作られる。現在[紋章]を持っている神話会は、「不死鳥」と「天秤」の[紋章]だ。
そして、なぜかリベルも[紋章]を持っているそうだ。モデルは「麒麟」と「月」。しかし教皇が過去に授けた[紋章]の記録上には、リベルの記載はなかったそうだ。
セイはテヌドットに目を向けるが、
「そういう事だ」
シアンは続ける。
「そなたらストラシアが授かるのは「五芒星」と「龍」の[紋章]だ」
ちなみに、[紋章]の由来を聞く事はなぜかタブーらしい。
すると、天から光と共に[紋章]が刻まれたペンダントが舞い降りた。セイはそれをそっとしまう。
『[紋章]の獲得を確認しました。神々に「ストラシア」の存在が認知されます』
(別に俺らにメリットはないんだな……)
セイは文句を言いたかったが、心のうちにしまっておくことにした。
するとテヌドットはインカムを付けた耳を押さえた。
「そうか。分かった。セイ、奴が来たそうだ」
セイはニヤつく。
「来たか。俺が直接行く」
セイは案内を受け、面接会場に入った。様々な人が並んでいる中で、スコット・ヌイトを探し出す。
「来たんだな」
ヌイトは腕を組み、笑みを浮かべる。
「もちろんだ。オレ様はお前らの仲間になりに来てやったんだ!」
セイはヌイトを別室へ連れ込み、面接を始めた。いくら強力な力を持っていても、加入するにはそれなりの理由が欲しいのだ。
「まず、ストラシアに入ろうと思った理由は?」
ヌイトはすぐに答える。
「そんなのリベルに恨みがあるからに決まってんだろ!」
ヌイトは怒っているようだった。
「……何があった?」
セイは静かに尋ねると、ヌイトは少し黙った後、怒りを露わに説明を始めた。
「オレ様は昔、第7次元で海賊団の船長をしてたんだ。だがな、ある日謎の集団に襲われ、船員のほとんどが殺された。怒り悲しみながらもちょっとばかし調査したんだ。するとそれがリベルだってわかったんだよ! オレ様はすぐに復讐の計画を立てたが、調査の段階で残りの船員も殺され、いつの間にかオレ様1人になってたんだ」
(第7次元……その領域のほとんどが海だという海洋次元か……
喋り方は良いとは言えないが、仲間思いなんだな。加入を許可する理由としては十分だろう)
「分かった。加入を許可しよう。共に全力でリベルを潰そう。それから、君には幹部となる[執行者]の1人を任せることになるだろう」
流石のヌイトも驚いていた。
「いいのか? つまりリベルをより多く殺せるって事だろ? もちろん引き受けるぜ!」
数ヶ月後、ストラシアのメンバーが決定し、戦艦ストラシアへの入船日となっていた。
ぞくぞくと多くの人々が戦艦に乗り込んでいく。
「大きいな……」
「スキルの等級どれくらい上がるんだろう…?」
皆が新しい家とスキルの期待を寄せていた。
「部屋数はかなりある。自由にしてくれ」
セイは皆に声をかける。
数十分後、メンバーは戦艦下部の座席へとついた。
「これより、スキルの一斉強化を行う」
全員が固唾をのむ中、システム音声が鳴り響く。
『対象、ストラシアの新メンバーのスキルを強化します』
セイの魔力が一気に減っていくのが感じられたが、余裕はあった。
『強化完了。全員のスキル等級が伝説級以上まで強化されました』
(え? 強すぎな?)
「うぉぉ!! めっちゃ上がった! すげえ!」
「EX伝説級に……」
中にはうれしかったのか、泣き出す者もいた。
一段落し、セイは出発の準備をしていた。
そう。次の目的地が決定したのだ。
時間は数時間前にさかのぼる……
「第5次元で勇者が現れたらしい。それも史上初のEX神話級のな。我々に協力してもらえるか、訊いてきてもらえないか? 神話会はかなり忙しくてな……」
セイはテヌドットに頼まれていたのだ。
「さて……そろそろ行くか」
するとテヌドットは見送りにきていた。
「しばらく会えないからな。試合、楽しかったぞ。あそこまで白熱したのは初めてだ。改めて、ありがとう」
セイは微笑む。
「ああ。またやろう」
隣にはガイが立っていた。
「もう……行っちまうんだな」
ガイは泣きかけていた。
「ああ。行ってくる。安心しろ! また戻ってくるから!」
ガイは涙を拭う。
「その言葉、信じてるからな!!」
するとセイは何かに気付いたようにガイに尋ねた。
「もちろん! あっそういえばお前、マフィア……っていうか裏社会の人間的なやつなんだろ? 表に出てきて大丈夫なのか?」
ガイはニッコリと笑みを浮かべると、テヌドットとの会話を説明した。
「それがな、今回の対リベル作戦での進龍組の協力、そしてこれまで、凶悪な悪事、犯罪は殆ど行ってこなかった事から、罰金と進龍組全体での奉仕活動の後、ボランティア・治安維持組織として正式に再始動する事が許されたんだ!」
それを聞いたセイは、
「それはよかった! じゃ、これからも頑張れよ!」
セイが拳を突き出すと、ガイも拳を突き出した。
するとテヌドット以外の神話会メンバーも見送りに来た。
「マーシュはまだ一人前とは言えない。強く育ててやってくれ」
木田はセイにはっきりと言ったが、その目には涙が浮かんでいた。
「子育ては……まあ頑張るよ。でも今でも十分立派だぞ?」
「セイさん。何かあったらすぐ呼んでくださいね!」
ヲウルトはニッコリと笑顔で話した。
「ああ。ストラシア特務メンバー、ヲウルト。ま、出番はほとんど来ないと思うけどねぇ~」
「それはひどいですよ~!」
しかしヲウルトの顔は笑顔に満ち溢れていた。
新しいメンバーがシステムと共に戦艦を操縦する。
「ストラシア、起動完了! 離陸します!」
「次元間渡航準備!!」
『次元間渡航を開始します』
『行き先、第5、魔法次元』
[都市次元編]終幕
次回 勇者立志編
「滅亡した帝国の遺産は次元を滅ぼす」




