第28話 聖神路典
「それと、これからは協力関係になるんだ。情報共有はしておくべきだろう。ヲウルト、ゲートを」
「はい!」
ヲウルトはそう言って資料倉庫へのゲートを開いた。
歩きながらテヌドットは続けた。
「クラークから得られた情報はほとんど【調停】に関する情報だけで、「あの方」に関する情報はほぼ手に入らなかった。リベルのトップがそいつって事だけだ」
ミカはテヌドットに尋ねた。
「【調停】以外の異名持ちの情報はもうあるのか?」
「ああ。くわしくは……【調停】と同時に説明しよう。そして、最近判明したこの世界の事についてもだ」
6人は少し歩き、資料倉庫に到着した
「遠かったな」
セイはは愚痴を口にしたが、テヌドットは少しムッとした。
「セキュリティだ。侵入されてから時間を稼ぐためにな。さて、本題に入ろう」
「リベルの異名持ちは8人、序列1位から【調停】サイアン、
【月光】メーノル、
【魔弾】コゥティ、
【悲哀】サラット、
【復讐】セリス、
【愉悦】フラン、
【一刀】クラーク、
【支配】クラインだ。そのうち、【一刀】は逮捕、【支配】は死亡している」
セルトは現在の情報を確認した。
「【調停】サイアンは戦闘はできないんすよね?」
テヌドットは腕を組む。
「ああ。だが、その護衛として【月光】と【魔弾】がほぼ常に傍にいるようだ。また、2人ともかなり強力なスキルを持っているようだが、詳細は分かっていない」
「リベルについては以上だ。これからは……世界の構造についてだ」
アリスはテヌドットに尋ねる。
「世界の構造って……次元が無数にあるというだけではないのですか?」
「しかし、神域はどこにある? と聞かれたら?」
テヌドットはアリスに問いかけ、アリスは少し考え答えた。
「神域は……次元の1つ?」
「我々はずっとそう考えてきた。しかし違ったんだ。これは、ヲウルトが召喚した[聖神路典]という書物を解読して得た情報だ。
全ての次元は球体であり、これを[次元球]という。神域とは、26億ある次元球の隙間の空間である。また、次元球は一定の周期で移動するものと、全く動かないものがある。そして、移動する次元同士はまれに衝突し、空間が割れる事がある。そうだ」
壮大な話を聞いたセルトが口を開く。
「えっと、じゃあ、次元間を移動する時は実は神域に出入りしてたってことすか?!」
「さあな。そこまでは書かれていなかった」
「科学次元から都市次元に移動した時は、特に変な空間を通ったりはしなかったぞ」
セイは、最初の次元間渡航の事を思い出した。
セイは、科学次元の家で読んだ本の事を思い出した。
「そういえば、昔読んだ本に「科学者達が、周期が近かった次元を6つ集め、主要次元連盟を設立した」と書いてあったな。周期とはその次元球の動きの事だったのか」
ヲウルトは首を傾げた。
「なぜその本の著者は次元の周期の事を知っていたのでしょうか?」
テヌドットは考えた。
「確かにそうだな。この事については引き続き解読を進めておこう。それと、ストラシアは何か情報はないのか? これは情報共有だぞ」
セイは流石に焦ったが、正直に言うしかなかった。
「俺達は……有益な情報はほぼ持っていない。すまないが今のところそんな感じだ」
「フンッ まあいい。これからは協力するのだしな」
そういってテヌドットは会議を切り上げた。
「決勝戦は明後日の予定だ。それまでにストラシアからも宣伝をしておいてくれ」
「分かった」
こうしてセイとテヌドットは別れ、お互い決勝戦に向けての準備に動き出した。
神話会内部では、テヌドットとその部下達が忙しくしていた。
「その資料こっち持ってきて!」
「宣伝ポスター貼ってきます!」
「追加分です!」
一方ストラシアは……
「暇だな~~あっ マーシュとヲウルトにストラシア勧誘送っとこっと」
セイはかなり暇を持て余していた。
『神話級、マーシュ・イナトリスとEX神話級神話の守護者、ヲウルトがストラシアに加入しました。神話級以上の強者が加入した事により、アチーブメント[神話の組織の長]を獲得しました。神話級装備が3つ与えられます』
「え? それは足りてい……」
するとセイの目の前に黒い刃の刀と緑の宝石が組み込まれた指輪、そして紺色のローブが出現した。
『黒い刃の神話級刀、[夜裂]。神話級武器の中で最も切れ味があり、所有者の魔力を吸収する事で、切れ味や刀身の長さを調整可能です。
最高等級魔法石がはめ込まれた神話級指輪[マジシャン・リング]。魔力や魔法の保存、出力ができる指輪装備の最高等級で、保存量と発動効率が99.98%まで上がった最高級品です。
かつて最強と謳われた初代勇者【虹の勇者】が愛用していた[虹の勇者のローブ]。高い防御力、優秀な魔力抵抗、都合の良い時だけ起動する認識阻害機能など、様々な効果が発揮できます』
「いや。これはアリスとミカにちょうど良いな。ローブは……俺が使おう。アリス、ミカ、ちょっとこっちに」
2人はすぐに来た。
「これ、セルトだけってのも良くないしな」
そういってセイは2人にそれぞれ武器を手渡す。
「えっと……えっ?! いいんですか?」
(システムで軽く調べたみたいだな)
「ああ。もちろんだ。長さも変わるしアリスにちょうど良いだろ?」
ミカはシステムの解説を聞いたのか静かに何かを考えていた。
「あっ ありがとうございます!」
「さて、ま。準備はもう別に良いだろ。」
セイ達は決勝戦当日まで遊んで過ごし、特に準備もせず決勝戦を迎えたのだった。




