第25話 最後の一撃
「[時雨]」
セルトの技によって、周囲に刃の雨が降り注ぐ。その雨はビルを貫通し、舗装されたアスファルトの地面をも貫通し、周囲を無差別に斬る。
「ぐあああ!!」
「うわああ!!俺のあ、足がぁ!!」
悲鳴が響くが刃は無情に降り続けた。
「なぁ、これ周りにマフィアとリベル以外いないんだよな…?」
セイは不安になった。
「えっと……多分…?」
セルトも少しやりすぎたかな思い、不安になった。
すると地上からセルトの[時雨]を見ていたテヌドットが戻って来た。
「ここにいたのはマフィアとリベルメンバーのみのようだ。それと、異名持ちの2人はここにはいない」
セイは迷うことなく、スキルを発動させる。
「[未来万視]」
「どうすか? なんか見えますか?」
「いた。ナレディアとリーンカム中心街の境くらいだ。【愉悦】の傷は完全に癒えているな、【一刀】も治りかけているが、完治ではない。それでも急いだほうがよさそうだな」
3人は戦艦に戻り、すぐさま移動の準備をした。
「[時雨]の片づけはミカとマーシュに任せよう」
テヌドットは鎧の点検をしながら提案する。
「そうだな。ミカに伝えておこう」
そう言って、セイはミカに念話を接続した。
「ミカ、ナレディアのマフィアのアジトを1つ潰した。異名持ちはいなかったから俺達は異名持ちの所に向かう。アジトの片づけをミカとマーシュに頼めるか?」
ミカはかなり早く答えた。
「もちろんです! マーシュも呼んできますね。重力魔法を使って移動しますが、限界があるので少し遅めになるかもしれません」
「大丈夫だ。かまわない」
念話を終えると、戦艦はすぐに出発した。
今回はそこまで長い距離に移動ではなく、すぐに目的地が見えてきた。しかし、
「なん…だ? なぜモンスターがここに……」
テヌドットが顔を青くした。その前には、戦闘系スキルがないと対処が難しい大量のゴブリンやスライム、さらにエピック級でないと討伐が難しいとされるナイトウルフロードが蔓延っていた。
都市次元、特にリーンカム周辺はモンスターがいないとされ、安全が保障されているはずだった。しかしそれ以上に奇妙なことが起きていた。すべてのモンスターが既にやられていたのだ。
「きれいに一撃でやられてるぽいですよ!」
セルトはモンスターの亡骸をよく観察していた。
テヌドットは不思議がっていた。
「ゴブリンやスライムならまだしも、なぜナイトウルフロードが…?」
セイはすぐに前を向いた。
「進もう。行けば分かるはずだ」
すると、近くのビルの中から爆発音とともに聞き覚えのある声の悲鳴があがった。すぐに3人はビルに入った。すると目の前には左腕と左足を完全に失い座り込むクラークと、四肢を失い腹に穴が開いている、瀕死のフランの胸ぐらを掴む、黒い剣士がいた。
「あら、遅かったわね。もうやっといたわよ。後始末は任せるわ」
まるで全てを見透かしているかのような態度を見せた彼女は、瞬間移動のように消え去った。
「どういうことだセイ!! この未来は見えなかったのか?!」
テヌドットは、あえて痛みつけるような戦い方をされた2人を見て、怒りをあらわにした。しかしセイもこれは予想外の事だった。
「おかしい。こんな未来は見えなった。そもそもあの剣士はなんなんだ? システムで検知できない、異様なほどに強い、そして、未来を読めない」
テヌドットは、「何か分かるか」といわんばかりにセルトを睨んだが、セルトは首を横に振った。
しかし3人が混乱しているさなか、フランは既に完治に近い状態になっていた。
「[感情の女神]」
フランはすぐにクラークにありったけのバフと回復補助を行った。
「はぁはぁ……なんなのあいつ……フラン戦うのは苦手だから…おじさん……勝ってね」
フランはまた倒れこんだ。しかしクラークは黙って立ち上がる。
「そういう事だ。悪く思うなよ。これが最後だ」
クラークは静かに構える。
「[命の行方]、我が魔力を全て捧げよう」
すると、周囲の空気中のすべての魔力がクラークに集う。
テヌドットはすぐに再び《覚醒》状態となった。
「セイ、合わせられるか?」
セイは微笑む。
「もちろんだ」
するとセイとテヌドットのシステムが同時に反応した。
『合体技を行使可能です。合体元となるスキルを選択してください。なお、選択したスキルが消える事はありません』
2人は同時に叫ぶ。
「[天地万象光滅斬]!!」
「[明光の一刀]!!」
『合成が完了しました』
テヌドットとセイ、そしてクラークの最後の一撃の準備が整った。
「命を貫き世を駆けろ![夜行一閃]!!」
「「魔を、悪を、万象を!!斬る![万象滅影の一刀]!!!!」」
2つの最強の一撃がぶつかり合う。
セルトも、青い蝶も、周囲のビルも、あらゆるものが吹き飛び、ただ、そこでは金、紫、黒の3つの閃光が火花をあげていた。
「「「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」
武闘大会決勝戦より圧倒的な量の魔力を使用したスキルのぶつかり合い。その魔力の波動はリーンカム、都市次元中に響いた。
2人は左右から全力を注ぎ剣を振るいきり、黒い刃を断った。
すぐに強力な爆風が起きる。煙が止むと、座り込んだクラークが姿を現す。
セルトも合流し3人は座り込むクラークに歩み寄る。
「こいつはここで逮捕、連行させてもらう」
セイは静かに了承した。
その後戦艦に戻り、移動しているさなか、セルトが疑問を口にする。
「そういえばこいつ全く抵抗しませんね」
「……」
クラークは静かに返した。
「私は負けた。それだけだ」
「潔いな」




