第22話 愉悦
青い蝶の群れが鳥籠と斬撃を消滅させた瞬間、セイとテヌドットは同時に叫んだ。
「「今すぐ逃げろ!! リベルだ!!」」
セイとテヌドットの2人は青い蝶の群れに攻撃を仕掛ける。
「[永氷の槍]!![運命干渉]掛け!!」
「[天地光滅斬]!!」
しかし青い蝶達はそれらの攻撃を再び消滅させ、会場を一周した。すると、逃げ遅れた観客達は感情を失ったように放心状態になり、その場に倒れた。
テヌドットは深刻な表情で話した。
「聞いたことがある。青い蝶の姿で現れ、人々の感情を吸い、自らの力へと変えるリベルの異名持ち序列第6位!【愉悦】フラン!!!」
すると青い蝶の群れは2人の目の前に集まり、人の形になった。
「せいか~い」
1人の少女がニヤつきながら現れた。
「あっ! 【支配】を殺った神話級だ~ いやっ今はEX神話級……だっけ?」
「【支配】を……殺した?」
テヌドットがセイに尋ねかけたが、
「今はそんな場合じゃないだろう! 後で説明する!」
セイは大声でテヌドットの目を覚ますように叫び、共闘の準備をする。
「あ、ああ。そうだな! 奴は会場の観客ほぼ全員の感情を吸っている。おそらくかなり強くなっているはずだ! しかも決勝戦のクライマックスの時の感情を、だ。」
「フフッ」
フランは不気味な笑みを浮かべた。
テヌドットは黙って、フランに襲い掛かる。後に情報を吐かせるため、殺しはしないよう手加減しているのだろう。でもかなり威力が高く、速い斬撃が放たれる。しかし、妙にフランが落ち着いている。ずっと笑顔で立っているのだ。
気付くと、フランには確かに斬撃を食らった跡があるが、治っている。
「そうだ。こいつは感情を集めバフをかけるスキルともう一つ、人間離れした回復力があるんだ」
しかしおかしい。なぜ攻撃してこない? あれほどの感情を吸えば、神話級を十分に相手できるほどの力を得ているはずだ。
その時セイの頭に、ガイの忠告が思い浮かび、全ての点が線で繋がった。
「テヌドット!! 異名持ちはもう1人来てる! 多分そっちにバフを掛けてる!! 周囲を警戒しろ!!」
ガイが言っていたクラークは恐らくリベルの異名持ちだ。戦艦ストラシアに傷をつけるほどの実力があり、裏社会にいるとすれば真っ当な者ではないだろう、しかも【愉悦】の出現と同時にリーンカムへ向かって来ている。
「テヌドット! 剣撃特化でクラークという名の異名持ちはリベルにいるか?!」
同時にセイはスキルで索敵を始める。
「[未来万視]」
テヌドットは慌てて答えた。
「ああ! いたぞ! 異名持ち序列第7位!【一刀】クラーク! 一撃必殺に特化したスキルを持っていたはずだ!」
「いたっ! 上だ!」
2人が上を見上げると、白髪交じりの茶髪、ナレディアで[未来万視]で見たあの老人、クラークが飛んで来ていた。
「おじさ〜ん! やっちゃえ〜!!」
フランはハイテンションで叫び、手を振った。
「世斬り、[夜行一閃]」
するとクラークの刀から、黒い巨大な影のような斬撃が、リーンカムを真っ二つにするように放たれた。
テヌドットはあまりの威力と崩れゆくビル群に言葉を失い、絶望していた。
「呆けるな! クラークはまだ目の前にいるぞ!!」
セイはテヌドットの目を覚まそうとしたが、彼は自責の念に押しつぶされていた。
「システム! 今すぐ念話系のスキルを取得してくれ!」
『了解。スキル[神々の業]を発動。レベル2EXスキル[念話]を取得しました』
「アリス、ミカ、あとほかの強者たち! 聞こえるか?!」
セイはすぐに他の出場選手に念話を飛ばした。
「は、はい! 聞こえます」
アリスが突然の念話に困惑しながらも応える。
セイは皆にきこえる事を確認すると、すぐに状況を報告し頼み事をした。
「リベルの異名持ちが2人現れた!! すでにビルが何本か斬られた! 周囲の全ての人間の保護と救助、避難誘導を頼めるか?! 異名持ちは俺とテヌドットで対応する!」
「了解した」
落ち着いた様子で冷静に返答したのは、木田だった。
「……頼んだぞ」
セイは静かに念話を切断し、2人の異名持ちへと向かい合った。
その頃、セイの念話を受けた選手達はさっそく動き出そうとした。すると、
「俺も連れていけ。進龍組として人手ならある」
ガイがそこに立っていた。
「お前は……セイの知り合いか。分かった。進龍組は協力するということでいいんだな?」
「……ああ。もちろんだ」
ガイはトランシーバーを取り出し、大声で話した。
「進龍組一同! 今から俺らん組は武闘大会決勝トーナメント出場選手に協力する! 来れる奴は全員闘技場に集まれ!」
倒れた観客達はミカの重力魔法で身体を軽くしてから、総出で会場から運び出した。闘技場から少し離れた所に仮拠点と避難所を設置し、ハルミンの拡声魔法で住民に呼びかける。
「現在、テロリストの襲撃がありました。リーンカム22番地区から175番地区、19番地区、233番地区の方と負傷者は、9番地区に設置しました避難所に避難してください。繰り返します……」
ハルミンが結界魔法で避難所を覆い、安全区域をつくる。
「大会の試合の事もあって魔力量に限界がある。たぶん2,3時間が限界だろうね」
木田がマーシュとセルトを連れ、出発の準備をする。
「私たちは、避難中の市民の護衛をしてくる。どうやらリベルメンバーが同時にリーンカム各地に現れたようだ」
アリスは真剣な表情で応える。
「分かりました。お願いします」
「頼みましたよ。セイ様」




