第14話 支配権能
大会を見なくていい。見たくない。という方は第21話の、神話級一同「み、見えない?!」まで飛ばしても大丈夫です。決勝戦まで飛びます。
「では互いのスキルについて軽く解説しておこう!
アリス選手の【静夜を呼ぶ者】は、物理法則や因果、いかなるスキルを無視して対象を斬り裂く事が出来るぞ!!
対してマーシュ選手の【大地の支配者】は、神話級の中でもトップクラスの強さを誇る【支配者】系統のスキルで、大地を操る能力で地形を操ったり、岩などを無限に生成して発射する事もできる! 色々なカードを持っている強者だ!」
「それでは【静夜を呼ぶ者】アリス対!【大地の支配者】マーシュ! 試合開始!」
鼓膜が破れるかと思う程の歓声が上がり、第1試合が始まった。セイは選手専用の観戦席から戦いを見守る。隣のテヌドットがかなり睨んでくる。勘弁して欲しいものだ……
そんな事を考えている間、アリスはいつの間にか劣勢となっていた。マーシュが形成する岩を斬る事は出来ているが、マーシュのカバー力と岩の数がそれを上回り、優位に立っていたのである。
「くっ……! これでは埒が明かない! ならば!」
アリスは新エピックスキル[集中]でマーシュの攻撃を見極め、最低限の動きと最大限の威力で反撃を始めた。
アリスは攻撃の密度を高め、より速さを求め、戦いの中で成長し続けた。マーシュはギリギリ届いた斬撃を何とか避けていた。
この一瞬でマーシュの体術のレベルが高くはない事を悟ったアリスは、ほぼ垂直の岩肌を駆け上り剣が届く間合いにまで距離を縮めた。マーシュはきょとんとしていた。が、すぐに状況を把握した。
「あれを登ってくるなんて!」
マーシュは急いで岩を生成し、攻撃を防ごうとするが、アリスの猛攻がそれを上回る。アリスが目にも止まらぬ速さで剣を振るい、着々とマーシュのダメージを増やしていく。
流石にまずいと状況を酷視したマーシュは、新たに無数の岩の柱を作り上に乗った。
「この! これでもくらえっ!」
余った柱をアリスにぶつけていく。しかしアリスはすぐにマーシュの位置を確認し、飛んでくる柱を切り刻み、避けながら着実に距離を詰める。が、岩の柱を触手の様に操るマーシュは常に距離を取って戦っていた。剣の間合いに入る事を恐れているのだろう。
「やはり剣が届かない……」
アリスはスキルの事もあり、適正武器は片手剣だが、本人はリーチの狭さに不満を持っていた。
だからセイは、あのスキルを譲渡していた。
「[黄金の武器庫]!!」
アリスは剣よりリーチの長い、スピアーを持ち出し、物凄い速度で柱を飛び移りながらマーシュに近づく。
「くっ……! [岩の鎧]!!」
マーシュは岩の鎧を身に纏い、逆にアリスに距離を詰める、アリスは今を好機と思ったのだろう。
「はあぁ!! [グランド・スラスト]!!」
しかしアリスの刃は岩の鎧を貫けず、傷もほとんどついていなかった。
あれが[支配者]系が神話級の中でも最強と呼ばれる理由だ。
[支配者]は自身が操る属性の物体なら、性質を自由に改変する事ができるのである。
おそらくアリスの[グランド・スラスト]を防いだあれは「刃物でのダメージを無効化する」という性質でも追加したのだろう。
例えば、【獄炎の支配者】なら熱くない炎を出したりできる。このように、[支配者]スキルはむちゃくちゃなのである。
戦闘に戻る。
そしてアリスの[グランド・スラスト]を止めたマーシュは、すかさず岩で重さを増やし、威力を強化した拳をアリスの腹に叩き込み、周囲に衝撃波が走った。
「……」
闘技場ではしばらく沈黙が続いたが、数秒後アリスは静かに倒れ込んだ。
審判が大声で叫ぶ「アリス、戦闘不能!」
「勝者は【大地の支配者】、マーシュゥゥゥ!!!!!!」
マーシュは[岩の鎧]を解除すると、すぐ座り込んだ。
刃物でのダメージを無効化しても、流石に多少は衝撃が伝わっていたようで、[グランド・スラスト]が当たった自分の胸に手を当てていた。
「アリスもかなりの強者だった! 神話級同士の激戦をありがとう!」
この大会には神話会から来た、神話級にも匹敵する高ランクのヒーラーがおり、即死レベルの致命傷でなければ即時に完全回復出来るそうだ。
数分後、回復を受けた両者は、ステージ上で厚い握手を交わし多くの歓声と拍手を浴びたのだった。
控室に戻ったアリスはしばらくぶつぶつと何かを考えていたので、話しかけないでおいた。
「あの性質は……なら[黄金の武器庫]で対応できる武器は……」
マーシュは、勝った方が次の対戦相手である第2回戦の対戦カードを険しい表情で睨んでいた。
「【不滅の吸血鬼】ヴォルトデア・ドスタレト vs 【夢物語】セフィー」
ドスタレトの[不滅の吸血鬼]は神話級スキルなのに対して、セフィーの[夢物語]は伝説級と不利ではあるが、[夢物語]で発生させる[夢霧]という霧を吸い込めば、大幅な弱体化と記憶の混乱、中毒状態とあらゆる状態異常とデバフがかかる。もちろん本人はこの効果を受けなく、指定した場所に斬撃を出現させるEXエピック級スキル[斬]でとどめを刺す。
セフィーは伝説級とは思えないほど強力なスキルを所持しているのだ。
対してドスタレトは、第4次元、魔王次元出身の吸血鬼。神話会の1人で「神話会一の狂人」と言われている。本人は礼儀正しいのだが、かなりのサイコパスで命を軽く見る事が多いのだ。
思っていたより早く第2試合開始のアナウンスがなり始めた。
「【不滅の吸血鬼】ヴォルトデア・ドスタレト対! 【夢物語】セフィーの対戦が間もなく始まります! 観客の皆様は座席にてお待ちください!!」




