第114話 マーキュリー
アルカはそれ以降、ユプリムに着くまでセイ達に何も話すことはなかった。
道中、セイは自分たちを警戒する多数の気配を察知したが、その全てが護衛の存在を知った途端去っていった事に気付いた。
日が沈み始めた頃、セイ一行はユプリムの目の前まで到着した。これより先は木々はほぼなく、あるのは岩場と大きな鉱山、そしてそれに張り付くように建てられた建物の数々だった。
「デハ、我々はこれで」
「オマエタチが無害な事はボスに報告してオク」
「ああ。助かるよ」
こうして二人の獣人と別れ、4人は鉱山都市へと入っていった。門番は身長が小さく、大きなひげを生やしていた。これが噂に聞くドワーフ、という種族だ。鉱夫や、武器等の装備を作る鍛冶職人が多いそうだ。
「止まれ。
……お前さん達、他次元から来たのか? こんなところに何の用だ」
「ええ。私達、マーキュリーっていう鍛冶職人を探してるの。どこにいるか知らないかしら?」
ドワーフは少し驚いた表情をすると、
「知らんな。鍛冶職人なんてここに山ほどいる。人気の店は数年待ちなんてザラだ。ここなら最低でもある程度の品質は保証される。開いてる店を適当に探すんだな」
そう言って四人を通した。都市内は全体的に土煙がしていた。
「で? どうするんだ? 門番はああ言ってたが」
ラレムは門番に文句を言いたげな表情でアルカに訊く。
「大丈夫。ああは言ったけど、マーキュリーの店の場所は覚えてるから」
「それで、そのマーキュリー……って人に何をしたの?」
アリスは歩きながらアルカに尋ねる。アルカはあるツテがあり、その鍛冶職人を紹介してもらったことがある、と言っていた。
「うーんとね……この前フェルノートリゾートで大きい事件があったでしょ?
あの時に助けた人がたまたまユプリムの人でね! 私が刀を使ってるのを見て、良い鍛冶職人を紹介してやるって言ってくれたの。
まあ、予定の日が冠誅戦争と被っちゃって行けなかったんだけど……」
そして着いたのはユプリムの端、一見スラム街にすら見える場所だった。
「……ホントに腕のいい鍛冶職人がここにいるの?」
「さ、さあ……?」
アルカも流石にこうなるとは思っていなかったようだ。アルカがドアを軽くたたく。
「前にカルトさんに紹介してくれたアルカですー! いますかー?」
「……」
ドアの先からは何も聞こえない。アルカは振り返り、「どうしよう……」と言わんばかりの表情を見せた。すると
「お・ま・え・が・アルカか!!!!」
凄まじい怒鳴り声と共に一人の女性のドワーフが出てきた。マーキュリーは今にもアルカにハンマーを振り下ろそうとしている。
「お前のために三件の依頼を断ったんだ! 三件だぞ! なのにお前はそれを……!!」
アルカは流石にここまでキレられるとは思っていなかったようで、少し焦っていた。
「えっいや、そのー……
こ、これ! これを持ってきたから許してくれないかしら?!」
アルカは慌ててアインシトルの爪を取り出した。マーキュリーは怒った表情のままアインシトルの爪を観察した。
「……入れ」
四人は作業場に入った。そこには多くの金属、鉱物、武器が置かれていた。そしてマーキュリーの方を見ると、いつの間にかその顔から怒りは消え、ただただ素材を観察する職人となっていた。
「……どう? ゆるして……依頼を受けてみてくれない?
これを、その素材で強化してほしいの」
そう言ってアルカはセイから太刀を受け取ってみせる。
「良いだろう。こんな素材見た事もない。だが見る限り、私が見てきたどんな素材より硬そうで、強そうだね。太刀の方も見せておくれ」
マーキュリーは[零刀:Ⅴ型]を細かいところまで観察した。
「形状は気持ち悪い程に最適化されてるね。まるで量産するために設計されたみたいだ。魔力伝導率も今まで見てきた何よりも高い……
ただそれだけだね。魔力を流して強化する事しか想定されていない。何らかのスキルと併用する事には向かないし、特殊な帰属スキルも付けられていない」
アルカは期待を込めた声色で尋ねる。
「じゃあこれは……」
「伸びしろだらけだ。依頼は受けてやるよ。それも今すぐ作業に取り掛かってやる」
「ありがとう!!」
「私からも、ありがとうございます」
セイとアルカは深く頭を下げた。
「二週間後にまた来な。私の最高傑作をくれてやるよ」
四人が工房を出ると、マーキュリーは早速作業に取り掛かった。
「やるか……神話級[根源分析]
神話級[神器創造]」
こうして四人は次の行動を決めようとしていた。するとラレムがセイにある提案をする。
「セイ、お前は今の戦闘スキルは[闇鴉]しかない。そうだな?」
「うん。今使えるのは[闇鴉]と[詳細鑑定]だけだね」
「なら提案がある。お前、魔術を習得しないか?」
「まあ! いいわね! セイならきっと使えるわよ!」
アルカも賛成の様子だ。
「魔術、か……どうやるんだ? この前……いや、さっきか。魔術について教えてもらったんだけど、それを聞く限りシステムを介すものではないんだろう?」
「ああ。魔術は術師が自身で術式をその場で構築し発動するものだからな。それに俺の知る限り、二万年前にお前たちの言う[ゴッドシステム]や[リベルシステム]は存在しなかった」
「じゃあ当時の異名持ち……君の仲間は……」
「全員魔術を使っていた。中でも異名持ちだったあの四人が使う魔術は特に強力だった」
「じゃあその術式を知れば私も使えるようになるのか?」
セイはかなり興味があった。魔術はシステム外の能力であり、神を含め様々な敵に対し不意を突ける。しかしラレムは冷たく返す。
「だが術式は俺も知らない。当たり前だ。術式が知れ渡ってしまったら、その魔術師はすぐに埋もれるだろう。術式は解析され、対策されたり、弱点を突かれ無効化されたり、さらに最適化された術式で倒される可能性が高まるからな。
魔術師は自身の術式を絶対に他人に明かさない」
するとアルカは何かを閃いたかのように手を叩いた。
「ならポラ・メモリア、エルフの都市に行きましょう! あそこなら魔術の術式が大量に保管されてるわ!」




