第100話 ‐凡人の器を以て‐
セイがそう叫んだ時、すでに遅かった。魔力の波が目にもとまらぬスピードで過ぎ去り、ミカは一瞬で意識を失った。死んだのだ。
「くっ……クソがぁぁぁぁ!!!!!」
セイがミカを受け止めるが、既に息はしていない。カイルはすぐに剣を抜き、構えた。
「ミカさんが……死んだって事は、ここは既に魔王の攻撃範囲内って事だ! セイさんも準備して!」
「あ、ああ……」
するとセイは、意識を失った。
『マスターの精神と魂に致命的な衝撃が検出されました。緊急保護を行います』
セイが目を覚ましたのは、真っ暗な空間だった。
「ここは……」
すると、聞き覚えのある声が響いた。話し方によると、どうやらストラルスに初めて謁見した後、突然アリスの意識を乗っ取った存在のようだ。
「記憶と自我を保って二回目の人生を歩んでいるのじゃ。精神と魂にひびが入るのも無理はない。それについては、本当に申し訳ないと思っている……」
すると、システムが声を出した。神話会会議の時のような、優しい声で。しかもその声と話しているようだった。
『仕方のない事です……ですが、マスターの魂が今崩れてしまえば……今までの計画が、徒労になってしまいます……』
セイは、何のことかさっぱりわからなかった。
(何を……話しているんだ……?)
「ふむ……そうだな……早急に手を打たなければ。しかも今は、魔王との戦いの最中だそうじゃな」
『ええ……』
すると謎の声は、何かを閃いたようだった。
「ならば……魂を再構築した上で、闇鴉を解放するしかないようじゃな」
するとシステムは驚き、それを止めようとした。
『!? 流石に危険すぎます! 魂の再構築は仕方ないとして、闇鴉まで解き放つなど……最悪の場合、マスターの身体は永遠に取り返せなくなり、現在の主要次元んもほとんどが滅ぶ可能性まで……!』
「そこは……こやつの強さに、賭けるしかないな。だが今でさえ、仮死状態じゃ。なに、安心するがいい。こやつはそのまま転生してなお、16年間も耐えてきたのじゃ。
こやつは……十分に強い」
『分かりました……しかし、それなら私の押し付けられた使命とは、少しお別れのようですね』
「そうなってしまうな……寂しいのか?」
『いえ……ただ、心配なだけですよ……』
『リベルシステムをシャットダウンします。マスター、セイ・アインシトルの魂および精神を再構築します。
仮実装スキル[闇鴉]を取得します……失敗しました。[運命の支配者]、[赤血の鳥籠]、[神格化]、[明光の一刀]、[永氷の支配者]、[対面一体]、[究極者]、[我流二刀流]、[念話]を代償に、再び[闇鴉]を取得します……
成功しました』
セイが気を失った後、カイルは単身で魔王の元に向かった。
「たとえ一人でも……邪神の降臨だけは……止めないと!」
魔王城に入り、カイルは王の間へと走った。しかしその時、カイルは奇妙な事に気付いた。
「なんで……なんで魔王城の構造がヂーナミアの王城と似てるんだ……というか……
似ているどころか、ほとんど同じじゃないか……!」
それにより、カイルはすぐに魔王の元に着いた。足止めの兵士はおらず、ただ空っぽの城を走っているようだった。大きな扉が開くと、玉座に女の魔族が鎮座していた。三メートルほどありそうな長い髪、大きな角、邪悪さを醸しつつも美しい顔、禍々しいオーラ……それが魔王である事は、一目瞭然だった。モルセ・ワンバルムだ。
「ようやく来たか。待ちわびたぞ? 人間の勇者」
カイルはすぐに勇者スキルを用いて攻めに入った。
(降臨はすでにかなり進んでる! 短期決戦で行かないと!)
「[永星の勇者]、[栄光の流星]!!!!!」
剣が光輝き、多くの流星とともに振り下ろした。モルセはそれを睨むと、瞬く間に流星が輝きを失い、モルセの指先に触れた瞬間、灰と化した。そしてカイルの剣は、禍々しい大鎌によって防がれていた。しかしモルセは鎌を手に持っていない。念力のような力だった。
「くっ!」
カイルはモルセの背後に一瞬で回り込んだ。まるで瞬間移動だ。そして剣を突き出す。
「[縮地]」
しかしそれまでも、鎌が防いだ。
「遅いな……人間はいつまで経っても雑魚だな」
モルセは大量の魔力を放出し、カイルを吹き飛ばした。この時点で、モルセは玉座に座ったまま、一歩も動いていない。
「はぁぁぁぁ!!」
カイルは斬撃のスピードを上げていく。しかしモルセの鎌もどんどんスピードアップしていく。それどころか、カイルに合わせているようにさえ見えた。
モルセは大きなあくびをした。
「今回の為に降臨の儀までしたが……必要なかったようだな」
すると大鎌は攻めに入ったのか、回転しながらカイルに迫った。カイルは剣で防ごうとする。が、鎌に絡まれ剣が吹き飛ばされてしまった。
「くっ……!」
カイルが剣を取りに行くその瞬間、鎌が再び襲い掛かる。カイルは跳んで避けようとしたが、その時、両足が斬り落とされた。
「あああああああ!!!!!!」
直後、とどめを刺すように、鎌が襲い掛かった。その時、黒い魔力が鎌を弾いた。ほぼ同時に、黒い魔力を纏った何かが、モルセに手を伸ばした。その手には大きな黒い爪があり、モルセの顔に傷をつけた。モルセが反撃しようとすると、何かは跳んで後ろへ後退した。漆黒の翼を生やし、顔を包む黒い霧の中から、赤い目がモルセを睨んでいた。
『ゴッドシステム、再起動。マスター、セイ・アインシトルの魂および精神の再構築完了。リベルシステムより一部の記録を継承。仮実装スキル[闇鴉]発動。[以降:漆刹罪鳥]』
「な、なにあれ……」
それは既に、セイとは思えない姿だった。頭と四肢は黒い霧に覆われ、背からは漆黒の翼、両手からは鋭い爪が伸びている。そして顔は、ただ赤く光る眼が、モルセを捉えていた。禍々しい声が周囲に響き渡る。セイの身体を乗っ取っている、何かの声だった。
「……悪くない。こうして身体を動かせるのは数百年ぶりだ。
凡人の器を以て……ぶっ殺す」




