第99話 前線
「皆さん! 戻ってきましたか!」
コーナスが駆けてきた。
「ああ。そうだコーナス、この娘をー」
セイがそう言いかけた時、コーナスはセイの背後のライラに気付き、すぐにそれが魔族だと気付いた。
「セイさん! 後ろに!」
コーナスはそう叫んで剣を構えた。
「ちょっと待て! 安心してくれ。彼女は仲間だ。多分……」
ライラはセイに隠れるのをやめ、コーナスに姿を見せた。
「え、えっと……
ライラ・ヴォルトデア……です、、四天月【紅の月】ドスタレト、の……娘、です……
け、けど、わ、私は……魔王の、恐怖、での……支配に、嫌気が……差してたんです……
なので、わ、私は……皆さんに……協力させてください!」
ライラはそう言い切るが、コーナスはまだ疑っている様子だった。そこでセイがフォローに入る。
「ライラは、ドスタレトの討伐にも協力してくれたんだ。俺とカイルで瀕死に追い込み、とどめを任せたんだが……ほんの少しの所で届かなかったんだ」
「では、そのトドメは……」
「正体不明の少年が助けてくれたんだ。ラレム……って名乗っていたが……」
コーナスは記憶を掘り出しているようだった。
「ラレム……申し訳ありません。私の記憶には存在しないようです」
「いいんだ。多分、また会う事になるから。それに、彼との事は、今回の件と無関係だからな」
セイは、ラレムの「だがお前は、次元をかけた大きな戦の途中らしいな」という言葉を思い出した。
「分かりました。彼女は前線へ赴かれますか?」
コーナスはライラを見て、セイに尋ねる。
「いや、ライラはここでヂーナミア軍の退却の支援をさせる」
「ヂーナミア軍の……退却ですか?」
セイは思い出したかのように説明した。
「ああ。説明してなかったな。彼女によると、おそらく魔王軍の本軍は、ヂーナミア軍の兵士じゃ歯が立たないらしい。かつ、その魔王軍本軍は、その兵士を狙う可能性がある。
だから、彼女がそれを支援すると言ってるんだ」
「なるほど……確かに私も、我々の軍の一般の兵士が魔王軍の精鋭部隊である本軍に勝てるとは、あまり思えません。しかし……」
「退却の支援を任せるほどの信頼はできない。だろ」
そう言って船から降りてきたのは、ラリバルトだった。
「なっ! 船からは降りないんじゃなかったのか?!」
「ややこしい事になってるらしいからな。今のヂーナミア軍の軍師、コーナスっつたか?
こいつはお前でも勝てるほどの実力しかない。最悪の場合は、殺せ」
「本来は、そんな言葉を聞けば一応は手を打つんですが、同じ魔族に言われても……なんですが」
するとラリバルトを追うようにカイルも降りてきた。
「コーナスさん! 彼は大丈夫です!
この人が初代勇者、ラリバルトさんです!」
「ほう……あなたが……伝説の通りの性格のようですね。まぁいいでしょう。ですが、神話会からも見張りを付けてもらいましょう。
ここに現れたという事は、ラリバルトさん、この戦争に協力してくださるんですよね? なら前線を押す段階から魔王戦まで、ストラシア、13代目勇者カイル、初代勇者ラリバルト、あなた方に一任します」
(歴代最強と謳われる初代勇者の力、発揮していただきましょう)
こうして、人類側の作戦も決まり、すぐに各勢力に伝えられた。テヌドットは、
「ストラシアと勇者二人だけで……流石だな」
と感心していた。その心にもはや心配はない。
人類側の先鋒はラリバルト。そして勇者パーティ、それから執行者とバトンを繋いで、前線を押し進め、セイとカイルを魔王の元まで押し出すのが今回の肝になった。ラリバルトが位置に着いた時には、既に魔王軍の本軍は目の前に迫っていた。その数も尋常ではなく、まるで地面がうごめいているようだった。
「歴代最強と謳われる元勇者の力を見たいって割には、小さな役割だな」
ラリバルトは身体強化も、勇者スキルも、[麗塵剣]などの一般スキルも一切使用する気はなかった。そしてラリバルトは剣を抜く。周囲に魔力が満ち、空間が煌めく。
「戦の規模の割には小さな役だが、悔いはないようにな。ヴァーナルド」
そう呟いて、ラリバルトはただ剣を横に振った。
「ズドォォ――ン!!!!」
扇状に広がった衝撃波が地面を穿ち、敵を消し飛ばしていく。
『分析中……
分析完了。対象の衝撃波はおよそ3.2キロメートル先までほとんどの威力を保持したまま拡散しました。これにより敵軍兵士およそ16.45万が死亡、もしくは行動不能レベルの重傷と推測されます』
「一切のバフなしの……素の身体能力で……まさかここまでとは……!」
セイとコーナスは、驚きと興奮でいっぱいだった。するとラリバルトは振り返って怒鳴る。
「さぁ! 行け!」
セイとアリス、ミカやヲウルト、そして勇者パーティも頷き、魔王城に向けて走り出した。
ラリバルトは続けて、剣を縦に振り下ろし、魔王軍の死骸を吹き飛ばし、皆が通る道を作った。等級が高いため、皆は一瞬でラリバルトが斬った範囲を超えた。そこにはまだ魔王軍の精鋭達が溢れかえっている。まず勇者パーティの面々ができるだけ進む。少しでもセイとカイルの消耗を避けるためだ。各々の持つ最強のスキルで前線を進める。
三人が進めなくなったのは、およそ1.5キロメートルを超えた辺りだった。
「十分です! さあ皆さん、着いてきてください!」
続くのはヲウルト。手を大きく広げると、大量の剣と槍などの武器を大量に召喚した。直後、武器が降り注ぎ、敵はどんどん貫かれ、倒れていく。
次はアリス。刀を抜く。
「止水乱舞……[紫焔流]×[狂い咲き]!」
夜虚は紫の焔を纏う。同時に焔は勢いを増し、周囲を切り尽くした。アリスは走り続け叫ぶ。
「まだです!」
アリスは周りに群がった魔族を一瞬で切り刻み、納刀。そして踏み込んだ。居合、[炎華抜刀]だ。凄まじい速さで突進し、経路上の全てを切り尽くした。
そして、
「チャキン……」
納刀した瞬間、斬られた魔族の骸は紫の炎で燃え上がり、周囲の魔族をも焼き殺した。
「続けます……[龍神化]、[創造者権限:滅]!」
アリスは半透明の角と翼、尾を生やし、創造者権限を以て、できうる限りの範囲の魔族を消し去った。しかしその一撃の消耗は激しく、魔力不足に陥ったアリスは[龍神化]が解除された。
「僕が行きます!」
そう言ってミカが走り出す。高く跳び上がって、周囲の魔族が受ける重力を強化し、行動を制限した上で、巨大な[重力の手]で魔族を潰していく。そしてセイ達の進行方向の向きに重力の向きを変え、魔族を落としていく。同時にミカも魔王城に近づく。もはや魔王城は目の前だった。その時だった。
セイが叫ぶ。
「ダメだミカ! 近づきすぎだ!」
しかしその瞬間、ある重圧のような声が周囲に響いた。
「[断罪]」




