私の怒りは私の物
「おい!コイツ国の外に1人で行こうとしてたぞ!!
今日の見張り誰だ!!」
「見張り!?」
いつもの場所、いつものたまり場。
私の仲間達が何故か好き好んで集まる場所。
そう、私の家の談話室。
「あれ?今日はアンジーじゃなかった?」
「ベルだと思ってたけど」
「シャリーじゃ無かったの?」
「グヴェンだと思って今日朝会った時言っちゃったけど」
「ヴォレオじゃ無かったんだ」
それぞれ好きにだらけて居た1人が「それよりマイめっちゃ怒ってない?」と触れてくれたので頬に空気をパンパンに溜め込む。
「離さないの?ヴォレオ」
「離したらどんな手使ってでも逃げ出すぞ」
「おお、唸ってるな!
「おやめよ、どんどんぶちゃいくになる」
「まあ、曲がりなりにも勇者だもんな〜マイは!
俺達も強いけど、さすがに本気で来られたら俺死んじゃうから…少しだけでも俺の話し聞いてはくれないか?」
にっこりと笑みを浮かべ、心配そうにする彼等に少しだけ毒気を抜かれる。
ヴォレオの手の力が少しだけ弱まって来て「痛い」と呟くとビクッと肩を揺らしてオロオロしだした。
「まだ逃げないから少し離して、マジで痛い」
「……わ、分かった」
じっと見ると赤くアザになっている。
やっぱりなとジト目でヴォレオを睨むと「悪かった」と尻尾を垂れた。
「アラ!真っ赤〜、よっぽど焦ってたのねヴォレオくん」
「真っ赤〜より心配してよアンジー」
「肋骨三本ぶっ壊されても笑って魔物ぶっ飛ばしに行く戦闘狂に痛いって言われてもねぇ。
元々痛みに鈍いってのはストレスから来るものだろうけどって言ったけど、もう少しちゃんと痛いって顔に出さないと本当に折れたりしても泣けないわよ?」
「それくらいで泣いても仕方無いじゃない、前に進む為にはその痛みすら邪魔だし」
「でもそのおかげでその無表情なんでしょう?
事情は聞いてたけどこの何年も仏頂面くらいしか見た事無いんだもの、もう少しリハビリしましょ。
可愛いお顔が台無しだわ」
「必要無い、私は強ければそれで良いの」
ホワッと暖かくなった右腕を撫でて、さあ逃げるかと足を動かそうとすると「お茶入ったぜ〜」と呑気な声が聞こえて少し考えた。
「その様子だとヴォレオには事情話してるんだろ、行く前に俺達にも話しをしてくれても良いだろ?」
「そうそう、そもそも僕らも勝手に着いて来てる分際で君の行動制限しようなんて筋通らないじゃん?
でも気になるから教えてよ、そしたらマイの仲間になるかも」
「おい!」
「シャリーの言葉も一理あるじゃない。
ね、少しだけいつもの様にお話ししましょうよ、マイ」
頭を撫でられて、しょんぼり肩を落としているヴォレオを見て。
やっぱりこのパターンかと今現在での逃走を諦めた。
「要するに国の復興がある程度軌道に乗って手が掛からなくなって来たから自分の本来の目的の為に出て行くって事?」
「うん」
さっきと同じ様に全部話した。
すると、ヴォレオ以外の全員が「良いんじゃない?」とお茶とお茶菓子をつまみながら声を揃えた。
「そもそもマイを召喚したその賢者には私も言いたい事があるけれど……マイの怒りはごもっともだし。
何より正当な理由じゃないの?」
「それにこの国はもう3年間しっかり国の基盤作って現国王も頑張って回してってんじゃん?
マイが国を出る事に反対する理由なんか無いよね?」
「俺達マイに着いて来たけど、だからってずっと一緒に居なきゃいけない訳じゃないだろ。
俺だってしたい事があれば普通に出て行くと思うし」
「ここに居る理由なんて、日がな1日ダラダラ出来るからってだけだしね」
「みんな……」
ホッと胸を撫で下ろすが「だからって働かなくて良いとは言ってない」と釘を刺しておく。
「私は、この国が正直どうなろうと別にどうだっていい。
ただ最初に出会ったのが前国王で、私の目標達成に必要だったからこの国の再建を見守ってただけだから。
関わる理由はもう無いし、私がしたい事はもう1つしか残ってない」
「それでもヴォレオくんは、マイに着いて行きたいんでしょ?
連れて行ってあげれば良いじゃん。
ヴォレオくん狼の獣人だから鼻も聞くし強いし、今までだって他の誰よりもマイの近くに居たんだから」
「俺達の中で1番マイに忠誠を誓ってるだろ?
なんでダメなんだよ?」
「……今までは魔王に統治されてた魔王軍に蹴散らされた村や街の生き残りや…個人的に恨み辛みがある君達と一緒にここまで来たけど、ここからは私個人の恨み辛みでしかないから。
私の怒りは私のモノで、誰かに代弁して貰うようなものじゃないから。
風化しないこの怒りは私が私の手であのボケナス賢者に叩き込みたいの。
だから1人で行くって言ってるんだけど」
じっと向かいの席で聞いていたヴォレオにそう言うと「それでも」と食い下がった。
「俺達の怒りや憎しみを、お前は背負って一緒に戦って来た。
これからもそうでありたいと言う訳じゃない。
ただ俺がお前と居たいから着いて行くって言ってんだ」
「おお!」
「まあ!」
一瞬でどよめくが、私には全然分からない。
「もう世界は平和になったんだし自由にすれば良いじゃん?
雷の郷を復興するなら手伝いに行けば良いし、ヴォレオはミドラースにも行きたいって言ってたでしょ?」
「俺が今したいのはお前の傍に居る事だ」
「マジでそれが分からないんだよ。
自分の好きにすれば良いのに、なんで私に着いてくるの?
世直しの旅じゃ無いし、目的復讐なんですけど!」
「魔王を討伐する旅も俺達の復讐だっただろ」
「ぐぬぬ…」
ダメだ、やっぱり何を言っても引く気が無さそうだ。
私はバン!とテーブルを叩いて「とにかく!連れて行かない!私は1人で国を出るから!!」と叫んで扉に向かう。
絶対ヴォレオだけが追ってくると思っていたので措置型の結界を貼ろうと指を鳴らそうとするも「それなら」とアンジーが割って入って来た。
「国の郊外まで飛ばしてあげる。
ヴォレオくんはここから少し遠いけど、マレーグランデの森まで飛ばすわね」
「「え?」」
「捕まえたいならヴォレオくんはしっかりマイの事を追い掛けなさい。
マイは今の目的の為に私達の事は一旦忘れて目的を果たして来なさい。
お互いやるべき事はある筈よ、そしてもし再開する事があれば……また色んな出来事を話し合えば良いと思うわ」
笑顔が少し悲しそうで、もしかして私やっぱり自分の事しか考えてない発言でみんなを傷付けてしまったりしたのかもと狭い視野に居た事を自覚した。
飛ばされる直前にヴォレオを見ると、部屋の中の誰よりも悲しそうに立ち尽くして居た。
その様子に少しだけ立ち止まりそうになった。
確かに誰よりも近くで私を見守ってくれて、助けてくれた人だったから。
でもだからこそこの気持ちの決着は私が着けたいんだ。
グッと握った拳を胸に、私はアンジーの魔法で飛ばされた。