国を出たい
こんにちは、私は真衣。
とある別の世界で生きていた私はある時自分勝手な理由でこちらの世界に召喚され異世界転移してしまった。
両親に会えず、兄弟にも会えず、友達にも会えない上電波の届かない娯楽の少ないこのセーゼマイル国にやって来て7年の歳月が過ぎた。
私はこの世界引いてはこの国を「守護」する為に7年間と言う時間を使ってあげた。
魔王と呼ばれる悪の組織は倒したし、国の中に救っていたクソ野郎共は制裁した。
他国との交流を綿密にして相互協会を建て多国間での見張り体制も整えた。
信頼出来る奴を国のトップに置いた。
国軍の戦力もアップさせている、そろそろ潮時だろう。
私は国の中心にある城の、城下を一望出来る展望台からの景色に満足してため息を吐き出した。
「長かった」
出会いと別れを繰り返し、それでもなんとかやって来たのはひとえに私を自分勝手な理由でこちらの世界に召喚しやがった賢者と呼ばれる召喚士をボコボコにしてやると心に誓ったからだった。
彼は未曾有の危機に際して現れ、霧と共に各地を転々とすると聞く。
果たして地上に居るのか地下に居るのか…情報に統一性は無くまるで浮世のように流れている。
各地に散らばらせた私の友達からの情報に引っ掛かった彼を追い詰めるべく、やる事を終わらせた私は出立の準備を整えていた。
ーー
薄雲が朝日を浴びる前、様子のおかしさに気付いて城門の前に立つ。
指導者としてこのセーゼマイル国に来てから3年の歳月が流れたが、この国はとても居心地が良いと感じていた。
勇者と出会い自分の力を過信していたと感じてからは忠誠を近いこの国と勇者を守る盾として、そしてその道を切り開く剣として傍に居る。
そんな穏やかな朝が今日も来るだろうと思っていたのだが、夜明け前から胸騒ぎがして起き出してきたのだ。
空気感、それから僅かな緊張感が胸の内を支配する。
見えない何かが不安を煽る。
その招待を確かめようと顔を上げると、雲間から朝日が顔を出す。
そしてそれに照らされた空に見えた人。
セミロングの赤い髪が朝日を反射して煌めいていた。
ギョッとしたのも束の間で、恐らく展望台から屋根をつたって門に近付いているのが分かって走り出す。
「マイ!」
「げっ、ヴォレオ」
「どうしたんだ、なんかあったのか!」
「うーん、もう見付かるとは思って無かったな」
足を止めたマイは気まずそうに顔を背ける。
その様子に酷く不安感が煽られた。
何かあるのか?俺が感知出来なかった不安要素が。
小さく息を吐き出したマイは「国を出るよ」と苦笑した。
「……そうか、いつ戻る」
「もう戻らない」
「……」
決意を宿したその瞳は、この国を再建すると言った時俺を指導者として任命した時の瞳と似ていた。
もっと言うのなら、魔王を討伐しに行くぞと俺達を鼓舞した時や、俺を仲間に引き入れた時と同じだった。
俺達が何を言っても絶対に曲げない、鋼の様な決意。
ガンコとも言うが……それでも、少なくとも俺はその瞳の力に惹かれてコイツに忠誠を誓ったのだ。
「……事前に言わなくて悪かったとは思ってるよ。
でも私、今度は自分の為に戦いに行くんだ。
誰も巻き込む事は出来ない、君もだよ」
「……賢者を探しに行くのか?」
「そう、アイツぶっ倒さないと私がこの世界で過ごす決意が揺らぐ。
お前のせいで、お前達の自分勝手な理屈で私を元の世界から引っこ抜いたんだ。
何度殴っても殺しても、絶対に無理だとは思う。
けど!……それでも自分の中でこの理不尽な時間の浪費と腹立たしさに決着をつけたいの」
まるでマイじゃないような口調と瞳の熱。
怒りに呑まれているのがよく分かった。
しかしそれが例えマイの戦いだとしても、大人しく国で待っていられる程俺は寛大では無い。
「ついて行く」
「無理だって」
「ダメでも着いて行く」
「いや、だからダメ」
「俺はお前の盾であり剣だ」
「魔王を討伐するまでの間でしょ?
ここからはもうヴォレオの自由だし…」
「それなら残りの人生はお前に捧げる。
元々期限なんて無かったろ、俺はお前と共に行く」
眉を寄せて、マイは深いため息を吐き出した。
これは元より伝えるつもりだった気持ちだった。
まさかこんな場所で伝える事になるとは思っていなかったが。
「それなら私は君の決意と剣と盾をこの場で返却する」
「なっ!」
「悪いけど私はこの国に居ようと言う意思が無い。
この国の指導者を任せたのも客観的に見て国軍の戦力がまるでお粗末だったから、今後困るだろうと思っての采配だ。
それにもうこの国にはゼーラが居るし、彼女が新たな女帝としてこの国を復興して行くだろう。
私は元々帰る為にこの世界に召喚されてからの7年間、耐え忍んで生きて来たの。
魔王を討伐したのも、国の復興も、全てはこの世界に召喚しやがったあのクソ賢者をぶっ飛ばす為。
夢見てるならごめんねだけど、私は私の為にこの世界で必要な事をやって来ただけ。
勇者サマなんて仮面、本当なら捨てたい。
だから君の忠誠も要らないんだよ」
乾いた笑いを浮かべたマイに、内心ショックだった事は多々あるがそれでも逃がさないと右手を掴んだ。
「それでもダメだ、俺はお前を追い掛ける」
「なんで?要らない」
「お前が空っぽで、例えこの世界の事を欠片も要らないとしても俺が要る。
お前の傍に居る、お前の剣でありたい、盾で居たい」
「子供のわがままは止めてよ」
「わがままでも何でも良い、その過程でお前が元の世界に帰る事になっても良い。
俺はお前を追い掛ける」
じっと血よりも赤い瞳を見続けて居ると、深く深くため息を吐き出してマイは呟いた。
「追い掛けるなら勝手にドウゾ。
私は待たないし自分の都合で動くから」
「!!」
バチッと弾ける音がして視線を下に向けると、足元がガラガラと崩れて行った。
それでもマイの右腕だけは離すつもりが無かったのでむしろ庇う様に抱えると「あれ!?」と慌てたマイの声に気分が上がった。
「獣人舐めんな!お前のせいで色んな危険耐性付いてんだ、こんな事くらいで驚いてお前の手離すと思ったか!」
「少しは驚くだろうと思ってた」
悔しそうに言うマイは「痛いから離して!!」と暴れるが、離せば持てる力の全てを使ってでも俺から離れるだろうと予測は着いた。
ので、俺は悔しがるマイを大切に胸に抱きながらギルドへと走るのだった。