古代中国詩『始皇帝讃歌』
世界の神話伝説や歴史を題材にした詩、第6弾は古代中国、春秋戦国時代~秦の時代を舞台に、史上初めて中国を統一した始皇帝の、波乱に満ちた生涯を歌います。一応、古代中国の神々や聖王の名前も出てきますが、神話伝説のような雰囲気は薄めです。この詩を、漫画『キングダム』の作者・原泰久先生をはじめ、古代中国を愛するすべての方々に捧げます。
かつて夏の偊王、殷の湯王、周の武王――数多の王が治めし中華の地、黄帝の末裔住む地を分かち、争う七つの国ありけり。
斉・楚・趙・燕・韓・魏・秦。
それら七国 一つにまとめ、四千年の中華史上 初の帝国築きし英雄あり。
秦王・嬴政――御身こそ、巨人・盤古が天地を分かち、その骸より万物生まれし創世以来、初めて中華の皇帝名乗りし王者なり。
若き嬴政、秦の王となりし後、丞相・呂不韋を退けて、自ら政行いたり。
東の六国次々平らげ、築き上げたり、大帝国。
古の聖王、伏羲・女媧・神農・堯・舜ら、三皇五帝を超越したる 君主の称号 新たにつくり、「朕は皇帝なり」と宣言す。
かくて生まれし初めの皇帝、始皇帝。
その姿、性は如何なりけるや?
鼻は高く尖りて、眼は切れ長、声はさながら山犬のごとし。
鷹のごとく盛り上がりたる 胸に宿すは虎狼の心。
他人に恩を感じることはなく、情けをかけることもなし――後世の歴史家・司馬遷は『史記』にかく記したり。
おお——口をつぐめ、目を伏せよ! 耳を澄ませて聞け、あの足音を。
豪壮なる宮殿、阿房宮の大広間、
数多の文官武官、臣下居並ぶ朝廷に、始皇帝がご来臨!
頭上に美々しき玉簾 揺れる冠戴きて、絹の衣を身にまとい、剣を佩きて玉を帯び、威風堂々大股に 歩みを進め、上座へ向かう。
帝座につきし始皇帝、双袖広げて胸を張り、眼光鋭く睥睨すれば、丞相・李斯ら大臣や、王翦、蒙恬、李信ら武将も皆畏まり、床に手をつき平伏す。
かくのごとく権勢振るい、帝国治めし始皇帝。
その業績は数多く、後の世まで知られたり。
まず手始めに、国を三十六の郡に分け、郡の下に県を置き、治めさせたり、官吏に命じ。
さらに、文字や貨幣、度量衡、車軸の幅を統一し、数多の厳しき法をもて、中華に秩序をもたらしたり。
また、北の草原に住む遊牧の民、匈奴の侵入防ぐため、他国が築きし城壁繋げ、万里に連なる長城となす。
されど、そのため酷使されし民は数知れず、多くの赤き血、汗と涙が流されたり。
各地で上がる怨嗟の声。始皇帝死して後、陳勝・呉広の乱を皮切りに、彼方此方にて反乱起こり、秦はたちまち滅びたり。
無慈悲な暴君、始皇帝。されど御身も人の子なれば心あり、その奥底は如何なりけん?
嬴政、幼き頃は不遇の身。秦より遠く離れた異国にて、人質の子として生受け、育ち、御身が嘗めたる世の辛酸、重ねし苦労は如何ばかり?
父とは早くに死に別れ、母は愛人・嫪毐と 謀りて反乱起こしたり。
父母の愛に恵まれず、他人を信じることも能わずに、孤独を託ち、心を閉ざしたるがゆえ、非情に振る舞いけるにやあらん。
晩年、死への恐怖に取り憑かれ、不老不死に憧れて、方士・徐福に欺かれしも、心の弱さの表れか。
嬴政死して、その帝国が滅びし後、長き歳月過ぎたるがゆえ、今や真実を知るすべはなし。
されば眠り給えよ、始皇帝。陶の兵馬八千が 並びて守る陵墓の下で、金婁玉衣に包まれて、永遠に目覚めることなく、安らかに。
願わくば、再び御身のごとき暴君が、世に現ることなきように――。




