ダンテ 突然の訪問
ダンテ・オーロストック、22歳。西の辺境伯三男で、見目も悪く、更に顔に生まれつきの痣がある俺は昔から女性に嫌われてきた。
近くにいると少しづつ距離を置かれる。もしくは顔をみて顔を真っ青にする人もいた。せめて身体だけでも理想に近づけようと思い、頑張って太ろうとしても贅肉はつかず、筋肉になってしまうので努力虚しく…というやつである。家族は気にするな、と言ってくれたが、どうにもこうにも気にするだろ…
三男ということで、家督を継ぐ予定もなく、もちろん結婚してどこかの家に婿入りなんてあり得ない為、国の軍隊で働いてる。モテたい欲はもう当に枯れ果てた。何をやっても女性は近くにすら寄ってくれないのだ。あの頃は若かった。
軍隊は男性ばかりだし、実力を見てくれる人が多いので助かってる。ちなみに騎士団は痣のせいで落ちた。
そんな俺の元に急に公爵家次男が訪ねてきた。貴族学校で挨拶程度の会話はした事はあるが特に仲が良かった訳ではない。学年も違う。
俺もだが周りの仲間達が仰天してた。何せ、彼アイザック・ポートイェートは貴族女性の憧れ、膨よかな身体に頭もキレて社交性もあり、留学が終わったら時期宰相候補として名が上がっている程だ。妹は知らぬ人がいないほどの美貌で王太子殿下が想いを寄せている…という噂もある。実際学園に来ている妹を一度見かけた事があるが、死ぬほど可愛らしかった。まぁ俺には関係ない話だが。
そんな彼が俺に何用か…施設の少し広めの応接間に2人通されてやっと話し始めた内容がこうだ
「ダンテ先輩お久しぶりです。早速ですが先輩は婚約者や想いを寄せている女性などはいらっしゃらないのですか?」
…なんつーことを聞くのだ!馬鹿にしてるのか!俺が母親と叔母以外の女性と手を握るどころか会話すらまともにした事ないのを知らないのか!?いや、知るハズはないか…とんでもない質問に動揺した。
「いや、今はいないが…」
今は…じゃねぇよ。ずっといねぇよ。通常想いを馳せて5秒後には嫌われてるからな。
「なら良かった!実は妹の友人で貴方を気にしている女性がいるんです。いや、私も妹の様に思っている子なんですが。是非一度会ってみてくれませんか?」
「は??」
「いや、お付き合いしろとか言っている訳ではないんです。そういうのはお互いの相性もあるだろうし。一度話をして双方大丈夫そうなら…という感じかな?気負わなくても良いので…」
何を言っているのか?俺を気にしている女性がいる?どんな物好きか?急に現れて不細工で痣のある俺を紹介したいとか、アイザック様も本当に妹の様に思っているなら普通止めるだろ…何の罠だよ…
「何を…企んでいるのかわからないが…あまりにも冗談がすぎるのでは…?」
失礼にならない程度に、不快感を表そうとしてやっぱり失礼な事を言ってしまった。
しかしそんな事は気にも留めずに彼は話し続ける。
「わかってます。何か罠かと思いますよね。でも本気で正気です。僕は貴方が剣の実力もあり、真面目で努力家な方だと貴族学校時代から知っていました。見目が良ければ…痣などなければ…と自分でも思っているだろうし、いろんな方から言われてきたのではないですか?」
「それは…」
「しかしやはり、人は中身が肝心なのです。こんな事は他の方の前では言えませんが、身分も見目も関係なく、実力があり性格が良い方が一番だと私は考えております。まぁこの国でそんな事言い始めたら罪に問われそうなので言いませんが。
つまり、そんな中身を見てくれるかもしれない女性がいま現在いるのですよ。一回だけでも会ってみてくれませんか?見目は妹ほど可愛くはないかもですが、考え方は芯があり、身分も見た目も気にしない女性です!」
めちゃくちゃ押してくるじゃねーか。逆に怖いわ。
まぁ、万が一にも本当にその子が俺に会ってみたい、と言っているなら勿論…是非一度会ってみたい。若い女性と話を、してみたい。会ってやっぱり嫌われたらと思うと辛いが、人生一度くらいはそんな経験もしてみたいのだ。
「わかった…一度だけ会ってみよう」
「そうか!良かった!では次の休みを教えて下さい。うちで機会を設けますので。」
アイザック様は笑顔で次の約束を取り付け、帰っていった。同僚が「何の話だった?何かしたのかお前」と青褪めて聞いてきたが、上手くいかなかったら恥ずかしいので女性を紹介してもらうという話は誰にも漏らさなかった。