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星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
7/13

私を輝かせて

「皆さん、今日はお集まりくださり、ありがとうございます!本日のオフ会は販売会も兼ねてますので、皆さん他の方の作品などご覧になって、ご自分の創作活動の糧にしていただければと思います、なお・・・」

フリーマーケットサイトの運営者の説明で、オフ会は開始された。

あちらこちらで作家達が、自ら作ったクセサリー、食器やぬいぐるみなどを紹介する声が飛び交う。

美園の煌びやかなドレスコーナーは、あっという間に人だかりで埋め尽くされた。

来店してくれた人皆に、丁寧にドレスの説明をする美園。その顔は恋をしている時と似たような輝きを放っている。

真知子は真知子で、他の作家さんの作品を夢中で眺めた。色とりどりの刺繍で作られたモチーフのピアス、美しい窯変の器やプレート、仕掛け絵本を販売しているコーナーもある。これらすべての作品が、作家の想いや願いをのせて輝いていることに、真知子はほっこりとした幸せを感じるのだった。

シバさんのコーナーも、なかなかの賑わいぶりだった。

「綺麗ですねー!」

「このピアスかわいい」

しかし、シバさんは作品の説明を一切しない。「よかったらお手に取ってご覧くださいね」とにこにこするだけだ。

真知子は少し不安になった。先ほどのシバさんの言葉が脳裏によみがえる。

私、やっぱり余計な事言ったのかな、どうしよう。

その場でうろうろしていると、挙動不審で目立ったのか、シバさんと目が合ってしまった。

にっこり笑って、手招きされる。

おそるおそる近寄ると、シバさんはネックレスを手に取り、真知子の首元にさっとチェーンをまわしてつけた。


その瞬間

ネックレスが囁いた気がした。

「私を輝かせて」と。


シバさんが見せてくれた鏡には、いつもの凡庸な自分は映っていなかった。

ネックレスをつけた自分は、どこかの国の皇女のような気品と威厳をたたえている。

自分をネックレスが引き立てている。しかし同時に、ネックレスを自分が引き立てている。


「すごい・・・」

「綺麗・・・」

人々の声で我に返る。シバさんは相変わらずにこにこ笑っているが、お客さんは恍惚とした表情でこちらを見ている。

は、恥ずかしい・・・!

「私もこっちの、着けてみてもいいですか?」

「私もこれを!」

お客さんの注意がこちらから逸れて、ホッとしながらネックレスをはずす。

よく見ると、このネックレスも真知子の知っている物語を題材にしているようだった。

「『クロマチウスの王冠』だわ・・・」

美術品を修繕する女主人公のもとに、古びた王冠が持ち込まれる。その王冠の模様と同じ模様の入ったネックレスを主人公の家は代々受け継いでおり、主人公は、滅亡した王家の子孫であることが判明する・・・という物語だ。

首から外したネックレスは、おとなしく手の上で輝いている。当たり前だが真知子に囁きかけたりしない。先ほどの体験はいったい何だったのだろう。

「すごく似合ってましたよ」

シバさんに声を掛けられ、真知子ははにかむ。

「ネックレスが素敵なんですよ」

「いやあ、真知子さんが身に着けてくれて初めて完成、という感じでした」

シバさんは真知子からネックレスを受け取ると、逡巡し、「あの」と切り出した。

「俺の作品のモデルも、引き受けてもらえませんか」

真知子は驚いたが、シバさんは真剣な表情だ。

「私、あのう」

「嫌だったら、全然いいです。なんて、言えないくらい、本気で思ってます」

真知子はうつむいた。モデルを務める自信がない。アクセサリーであったら、顔は露出しなければならないだろう。真知子は、美人ではない。何よりも自分に自信がない。でも。

先ほどの体験が、心を揺さぶった。あの奇妙な、それでいて夢のような感覚にもう一度浸れるなら。

「わ、私でよければ」

つるりと言葉がのどから滑り出た。顔を上げると、シバさんは安堵したように笑っていた。

「ああよかった。断られてもあきらめないつもりでしたけど、それじゃストーカーになっちゃいますから」

その言葉に、真知子も思わず笑ってしまった。

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