表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
6/13

オフ会

「真知子ちゃーん!よかった来てくれて!」

オフ会当日、美園の住むマンションの前に集合した真知子は、美園の足元を見て驚く。5〜6泊分の荷物が入りそうな大型のスーツケースが、4つ。

「美園、どうしたのその荷物?」

「ぜーんぶ今年新作のドレス!あ、真知子ちゃんは撮影したから知ってるか」

「うん、覚え切れないくらいたくさんあったことだけ知ってる」

「うえーん、真知子ちゃんが今日は菩薩じゃない」

「菩薩引っ張りすぎだよ・・・」

2人で荷物を分けて駅まで歩く。電車に乗ってしまえば楽だ。

「ドレスは圧縮してつめてるの。会場についたらすぐに開ければ大丈夫」

「圧縮してるのにスーツケース4個分かあ。美園、気合入ってるね」

「うん、今日はね、試着もOKにするの!いろんな人に着てもらいたいんだ!」

その言葉を聞いて、真知子は少し胸の奥がチクッとした。思わず俯いてしまった真知子を見て、美園は明るい声で言う。

「あのウエディングドレス、売らない事にしたの」

「えっ!」

反射で美園を見ると、「えへへ」と笑っている。

「あんなに素敵なのに?」

「うん。だってあのドレス、真知子ちゃんのこと好きみたいだったから」

「・・・私がドレスを好きなんじゃなくて、ドレスが私を好き・・・?」

「そおよ。真知子ちゃんが着たらね、ドレスがすっごく輝いて見えたの。しっくりきた、っていうのかなあ」

言いながら美園はずいっと真知子の顔を覗き込む。

「だからね、真知子ちゃん。婚活も一緒よ?」

「え」

「いろんな人に会って、『しっくりくる人』とか、『お互いを輝かせてくれる人』を探しなね?」

「美園・・・・・・・・近いよ」

電車の中で、2人はお腹が痛くなるまで笑った。


オフ会は、おしゃれな貸しスペースをワンフロア借りて行われた。

会場に着くと、すでに何人かフロアにいて展示の準備をしている。

「おはようございまーす」

美園が声をかけると、

「おはようございます!」

「おはよう。すごい荷物だね」

「おはよーう」

と、銘々声を掛け合う。

真知子は美園を手伝って、レンタルしたマネキンにドレスを着せたり、簡易試着室を組み立てたりした。

「あ、おはようございます」

後ろから声をかけられ、振り向くと「シバさん」が立っていた。

「先日はどうも・・・」

「いえこちらこそ・・・」

「なによお、ふたりとも。しゃちほこばっちゃって。今日は無礼講よお?」

「美園、お酒の席じゃあるまいし」

真知子のツッコミに美園はケラケラ笑って、

「真知子ちゃん手伝いありがと!開始時間までそのへん見て回ってね」

と、真知子の背中を押す。

なんとはなしに、シバさんと歩き出す。

「あのう、よかったら、俺の作品見てもらえませんか」

シバさんは持参したカバンを軽くたたいた。

「私?美園じゃなくて・・・?」

「はい」

「私、アクセサリーには詳しくなくて・・・」

「いえ、俺、真知子さんの意見が聞きたいんです」

よくわからずに、シバさんの展示スペースまで来ると、並べ始めたアクセサリーを見て息をのんだ。

シルバーが美しいアクセサリーは、よく磨かれ、細かい装飾が施され、金属とは思えない優しい光を放っていた。おそらく、作品の一点一点が、すでに存在する物語をイメージして作られている。真知子は目にした瞬間思い当たった。

「これ・・・・船田洋平先生の・・・」

「『大地と空の果て』をイメージしました」

「このピアスははあれですね、藤堂美華先生の」

「『鯨の歌う夏』」

「このネックレスは、南薫子先生の」

「『愛は滴る蜜のように』」

「私、あの場面が好き。優香が朝美の代わりに俊彦を殴って」

「わかります。煙草に火をつけようとして、手が震えて何度もライターつけ直すところ」

「優香、本当は煙草なんか吸わないくせに」

「俺、優香の気持ちわかる気がします。勇気が出るような気がするんですよ、煙草持ってるだけで」

「あの作品、世間では『ただの泥沼の恋愛小説』って酷評でしたけど、私は違うと思う。登場人物それぞれに、きちんと『透き通った愛の形』があったような気がするから」

真知子は呟いて、ふと、シバさんに見つめられていることに気づく。

「あっ、ごめんなさい!これは私のただの勝手な考えなんで、シバさんは気にしないで」

「いいえ・・・・」

シバさんはそこで言葉を切ると、

「ありがとうございます。俺、真知子さんのお話聞けてよかったです」

「え?」

「俺、自分の作品に何か足りないって思っていたんです。真知子さんと話すと、それがわかる気がする」

「はあ・・・」

「また、お話したいです。いいですか?」

「ええ、はあ、いいですよ」

真知子はよくわからないまま、特に何も考えずに承諾した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ