表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
4/13

ドレスは繋ぐ

「あの、すみません!」

声をかけられたのは、書店を出て駅に向かって歩きだしてすぐだった。

真知子が振り返ると、声の主は先ほど書店で隣に立っていた男性だ。

「はい?」

返事をして真知子は、自分は何か落とし物でもしたのだろうかと不安になる。しかし男性は、緊張しているのか声を震わせて、

「・・・・ですよね?」

と言った。

「あ、あの、ごめんなさい、聞こえない・・・」

「ドレスの、モデルの方ですよね?」

今度ははっきりと聞き取れた。なのに、理解が追いつかない。

「ドレスのモデル・・・」

「ネットで、手作りの服とかドレス売ってる、ミソノさんって作家さんがいて。ミソノさんのドレスを着て写真に写ってるの、あなたですよね?」

真知子はやっと理解した。同時に、怖くなった。

「あ、えっと、俺、ストーカーとかじゃないんです!本当です!あの、」

真知子の表情の変化を見て取ったのか、男性はこちらが逆に申し訳なくなるほど動揺して手を振った。

「俺も、アクセサリー作ってミソノさんと同じサイトで売ってるんです、あの、変な人じゃないんです、本当に」

誤解されまいと必死でまくし立てる男性を見て、真知子は思わず噴き出してしまった。

男性も、真知子に通じたようで安心したのか、笑って頭をかく。

「赤の他人の女性に声をかけるのって、こんなに緊張するんですね。本ではよくある光景だけど、まさか自分がやる日が来るとは」

「さっき、書店にいらっしゃいましたよね?」

『本』という言葉に反応して真知子が問いかけると、男性はうなずいた。

「あなたと同じ本、俺も買おうと思って来たんです。〇〇先生のファンなんで。それで・・・」

男性は言葉をきって視線を右往左往させる。

「この後、ちょっとお時間いただけませんか」


男性は「柴田大樹」と名乗った。インテリアの会社で働いているらしい。(ちゃんと名刺を交換した)

「大樹でいいですよ。作家名は『シバ』なんですけど」

「はあ、えっと、それで」

駅前の、先日美園と来たカフェで今度は大樹と向かい合って座っている。大樹を見る限り、悪い人ではなさそうだ。何かの勧誘なら即座に断って逃げよう。

「あ、そうですよね、まずどうしてドレスのモデルがあなただと分かったのか、次に、なぜ声をかけたのか、ですよね」

大樹はテキパキと説明に入る。

「俺、さっきも言った通り、趣味でシルバーアクセサリー作って販売してるんですけど、たまに他の作家さんの作品も観るんです。アクセサリーだから、作品のコラボとかしても面白いかなって、洋服作家さんの作品を観たり。それで、その作家さんの中で、物凄いクオリティの高い作品を出す人がいて、それが」

「『ミソノ』なんですね」

「はい、あの人の洋服や、特にドレスは素晴らしいですよ!あー、こんな美しいドレスと俺のアクセサリーをコラボさせて欲しいなあ、なんて思って観てたんです」

「あ、その写真をずっと観てたから、私の事も分かったんですか?」

真知子が口をはさむと、大樹は気まずそうな表情になった。

「実は、ドレスのモデルだとわかるより前から、真知子さんのことは知っていたんです。あの書店でよく見かけるし、同じ作品を買う事も多いし。話したら気が合いそうだなーと思ってたんですよ。今日も、もしかしたら真知子さん、来るのかなあって思ってたら、本当に来て、本を手に取って、笑った顔をみて、『あれ?どこかで観たことある』ってなって」

言いながら、大樹はスマホを操作して画面をこちらに向けた。真知子はハッとする。

画面には、純白のドレスをまとって微笑む女性。口元から下だけが写され、モデルが誰なのか判らないようになっているが。

「このウエディングドレス着てるの、真知子さんじゃないかって思って」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ