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星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
3/13

揺れ動く心

勤め先の会社内、パソコンで黙々と資料を作りながら、真知子は先日の「写真撮影」のことを思い出していた。


着るのに気後れしていたのに、ドレスは驚くほど、真知子によく似合った。

「真知子ちゃん、すごく綺麗」

髪を結い上げ、メイクを施した真知子を、カメラ片手に美園は嬉しそうに眺める。

「美園が着た方がいいのに」

真知子は美園のことを美人だと思っている。色白の肌に、ぱっちりした目、やや高めの鼻。

しかし美園は顔をしかめた。

「ヤーね、私は真知子ちゃんの媚びない美しさが好きなの。はい、今度はその綺麗な背中を向けて振り向いてー」

「あのさ、ドレスを撮ってるんだよね?」

「うん、出品写真はちゃんと真知子ちゃんだってわからないようにカットするから。はい、笑ってー」

「・・・・・」


パソコンのキーを叩きながら、無意識に真知子は唇をかんだ。動揺を抑えるときの癖である。

ドレス、綺麗だったな・・・

結婚なんて、自分とは縁のないものだと思っていた。

結婚どころか、そもそも他人を好きになったことが、真知子には無い。

それは、自分自身のことを好きでは無いからだという事も、気づいている。

でも。

「記念に」と美園がくれた、自分のウエディングドレス姿の写真。初めて、自分を綺麗だ、自分を好きかもしれないと思えた。

キーを叩きながら、真知子はまた唇をそっと噛む。


二十代後半にして、恋愛未経験、処女。

「やだあ、そんな人今時ゴロゴロいるよお。気にしない、気にしない!」

美園は手をパタパタ振って笑っていたっけ。

「私思うんだけどね、恋ってね、いつもいきなりくるの。けどね、その恋に対して、『自分なんか』って思っちゃうのは、勿体無いし、保身な気がして嫌なの。結局自分が傷つくのが怖くて逃げちゃうのは、もったいないと思うのよ。だから、私は好きな人ができた瞬間『えいや!』って突っ込んでいくの。それで振られても、私はその人に気持ちを伝えたんだからいいの」

美園はそう言って、あっけらかんと笑っていた。




夜、仕事を終えて、ちょっと寄り道をした。

と言っても、本を買いに書店へ立ち寄っただけなのだが。

行きつけの書店は、駅前の商業施設に入っていることもあり、店の規模も大きく品揃えも豊富だ。真知子は慣れた足取りで小説のコーナーへと向かう。今日は、真知子が大ファンの作家の新巻発売日なのである。

その作品は平積みで販売されていたのですぐ見つかった。ハードカバーの本をそっと手に取って、その重みに思わず顔がほころぶ。本当は今すぐにでもページをめくって、作品の世界へ飛び込みたいところだが、我慢して家でゆっくり読むことにする。

と、視線を感じて隣を見ると、男性がこちらを見下ろしていた。私服なので、自分と同じ客だろう。同じ本が目当てなのだろうかと特に気にも止めず、

「ごめんなさい、邪魔でしたね」

と場所を譲ってレジへと向かった。

会計を済ませて、店の外へ。屋外へと足を踏み出すと、秋風が肌寒い。真知子は今日はノースリーブにカーディガンという服装だが、これからはもっと厚着しないと冷えるだろう。季節は着実に過ぎていく。

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