そのドレスは
美園は駅から徒歩で10分ほど歩いた所にあるマンションに1人で暮らしている。
オートロックの扉を手慣れた操作で開け、美園と真知子はマンションへ入った。
美園の部屋に通された真知子は、はっと息をのんだ。
1LDKの室内に、女性が佇んでいる。
一拍置いて、それがマネキンであることに気づくが、そんなことはどうでもよかった。
マネキン人形の着ている、ドレスに目を奪われる。
肩を出し、胸から下を覆うそのドレスは、形はプリンセスラインであるが、なぜかとても落ち着いた印象を受けた。そっと近づいて、ドレスに触れる。自分の指先が緊張で震えているのがわかる。
触れた布地は、そこだけ撓んで、違った輝きを放つ。
よく見ると、細かい刺繍が丁寧に施されているのがわかる。所々に、スワロフスキーとか言うんだっただろうか、ガラスのビーズも縫い付けてある。
レースカーテン越しの午後の光と、艶っぽいフローリングに反射した光を受けて、マネキンの纏ったドレスは青に見える。淡いクリーム色にも。しかし、わかっている。
「ウエディングドレス、なんだね・・・」
言いながら感嘆のため息をつくと、美園はふふん、と得意げに腕を組んだ。
「頑張ったのよお?真知子ちゃん、着てみてよ」
美園の言葉に、真知子は真っ赤になる。
「どうしたの?」
「こ、こんな素敵なドレス、着れないよ!」
「なんでよお。いつも他の作品なら普通に着てくれたじゃない。そのドレス、真知子ちゃんが着るとこイメージして作ったのに。あ、いつもみたいにこの部屋で撮影するのは勿体無いか。スタジオ借りよう」
「ちょっと!」
真知子の抗議を無視して美園はスマホでスタジオを検索し始める。
「オッケ、予約できた」
「美園って、呆れるほど行動力あるよね」
「真知子ちゃん、この後、予定ある?」
「え、無いけど、まさか」
「うん。今から行けばちょうど予約時間に間に合う!早く行かなきゃ」
マネキンからドレスを脱がす美園を見て、真知子は苦笑した。
「私にこの後予定があったらどうするのよ」
「大丈夫。寛大な真知子様は美園姫を優先してくれるから」
「なんだそりゃ」