第7話
練習の内容は、二人一組でストレッチ後、ミニゲームのチーム分けをして、各チームで練習という流れになった。
しかも、ストレッチは一年は上級生と組めと言われてしまった。こんな女の子ばかりの集団に入るのは初めてでオロオロしてしまう。
どうしようかと悩んでいると、一人の女の子が近付いて来た。
「君、私と組んでくれない?」
そう話しかけてきたのは、やけに前髪が長い黒髪の、悪い言い方になるが暗そうな女の子。後ろ髪も腰まで届きそうで、前髪も後ろ髪もパッツンと綺麗に切り揃えている。
華はないがめっちゃ美人だ。
「あ、はい。よろしくお願いします」
そういうと芝生に座り足を開いて柔軟を始めた。
「押して」
「あぁ!はい!」
落ち着きのある人らしい。ついぼーっとしてしまった。
「私は左薙紗江。好きに呼んで」
「安達海斗です。えぇーと、左薙先輩」
そう言うと紗江はまた黙り込んでしまった。
やりにくい!!!
とりあえず柔軟を手伝うか。そう思い手を置こうとして、あることに気付いてしまう。
え、これ触っていいの?
俺が戸惑っていると、こちらを振り向いて「早く」と催促してくる。
女子とサッカーする以上仕方がないと自分に言い聞かせ思い切って左薙先輩の肩を押す。
手のひらに左薙先輩の体温が伝わってきてヤバい。というか、なんか硬いのがあるような。
「ねぇ、安達くん」
「は、はい!なんでしょう!」
「ブラ紐押されると痛い」
「す、すいません!!」
ブラ紐とか、普通言いますかね!?
焦りながらも黙々と柔軟を続けると、一通り終わったらしく「交代」
と言って左薙先輩が立ち上がった。
俺も座って上半身を前に倒す。すると左薙先輩が俺の背中を押してきた。
胸を押し付けて。
「あ、あのあのあのあの、左薙先輩!?色々当たってるんですが!」
「さっきのあなたの柔軟、全然ダメ。反動はつけないで体重全部を預けて押さないと」
「はい!」
そんなこと言われてもめっちゃ胸当たってるんですけどいいんですか、と言いたい。
いや、でもこれは言わなくてもいいか。めっちゃエロいし。
すげー柔らかい。そして見た目よりも絶対大きい。はっきりいって後ろから抱きつかれているようなものなので、こんなことが毎日できるならこの部活絶対やめない。
俺が左薙先輩のたわわに実った果実を背中で堪能していると、耳元で話しかけられた。
「安達くん、なんでこんなところにいるの?」
「え?」
「U-15の代表に選ばれてた安達海斗君よね。君」
「……よく知ってましたね」
「私波浦中だから」
それは、俺が富士見中に転校する前に通っていた中学だった。新中一になる4月、母が体調を崩したこともありイギリス留学から帰国した俺が入学したのが、サッカー名門校と言われる波浦中だった。
「まじですか?」
「高校でサッカー始めたのも中ニのときに体育館であなたの試合を見たから」
「俺の?」
「うん。あなたが日本代表として出場していたU-15アジア選手権の試合。試合時間が日本時間で昼間だったから、あの日は授業じゃなくて全校生徒であなたの試合を見ていたの」
そこから、左薙先輩は堰を切ったように熱く語り始めた。
「ホントにすごかった。まるで踊ってるかのような鮮やかなドリブル。相手の逆をつく強烈なシュート。敵を翻弄するパス。どれを取っても圧倒的存在感だった。それも十三歳で。一目惚れだった」
それまで、頬を薄赤く染めながら熱っぽく語っていたが、急に悲しいことを思い出したかのように、トーンが落ちた。
「そして、安達君が波浦中から転校しちゃったって、サッカーやめちゃったって聞いて、悲しかったし、寂しかったし、すごい怒った」
「怒った?」
なぜ、俺がサッカーをやめて左薙先輩が怒るのだろうか。
「まぁ、中学で噂になってたからね。当時のサッカー部の先輩と……」
「先輩!!!……あ、いえ。すみません。その話はちょっと」
俺は急に中学時代のトラウマの話をされてしまい、つい大きな声が出てしまった。
「……ううん。デリカシーなかった。ごめんね。でも、その話を聞いて、私はそいつらに腹が立って仕方なかっ
た。」
しゅんとしながらも、左薙先輩は続けた。
「まさか雪学に入ってくるとは思わなかったけど。さっき集合した時なんてびっくりしすぎて声も上げられなかったんだよ?話しかけた時なんて緊張でガチガチだったでしょ?」
口数が少なかったのは、緊張してたからなのか。中学の頃の話で忘れていたが、俺たちの体勢を思い出して、再びこちらが緊張してしまう。
相変わらず左薙先輩の柔らかい体が背後から覆いかぶさって、さらには甘い匂いまでしてきた。
「ふふ。体ガチガチだよ?意外と硬いんだ」
左薙先輩のせいです!!!とは思っても言えなかった。
「実はね、私たち試合で全然勝ててないの。三年生が引退して人数足りないから、他の部活から助っ人呼んでやってたんだけどそんなチームじゃ勝てっこないでしょ」
先ほどとは打って変わって、真面目な口調で話す。
「だから期待してるの。あなたがチームを変えてくれること。お願い」
自己紹介の時、あまり歓迎ムードではなかった俺に、その言葉は心に優しい沁みた。
「それとね……」
そこで、左薙先輩は俺に預けていた体を、さらに力を込めて軽く背中をギュッとする。
「……さっきから私の心臓がすごいの、聞こえちゃってるよね。あの……大ファンです。後でサインください」
「……はい」
なにこれ、恥ずかしい。
柔軟も終わりパス練習をしようと離れる前、俺は気になったので左薙先輩に聞いてみた。
「あの、無口かと思ってたんですけど、意外とおしゃべりなんですね」
「違う、いつもは基本無口。ただ……」
そこで、頬を染めて、照れ臭そうに言った。
「好きなモノの話になると、おしゃべりのなるみたい」
サッカー選手としてなのか、男としてなのかを聞く勇気は、俺にはなかった。
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本当に、おねがいします!!!
キャラ多いですよね。登場人物紹介、必要ですかね……。