第3話
間違えて4話を投稿していたので、改めて3話の再投稿です。失礼いたしました!
受かってました。
驚きです。あんな失態をしたのに何故受かるのか。筆記試験がそんなに良かったのだろうか。そして合格発表日の夜に面接をしてくれたサッカー部の顧問の先生、園田先生から電話があった。なんでも、今週の日曜にサッカー部に入部希望の新入生を集めて練習をするから来て欲しい、というお願いが来たので、行くことになったのだ。
そして当日。
「着てくれてよかった!まあ座って。お茶でも入れるから」
集合場所の昇降口前についてすぐ園田先生に生徒指導室まで連れてこられた俺は黒い革の柔らかいソファに腰掛けるように勧められた。
「あの、今日は練習するって聞いてたんですけど」
「うん。その前に少し話したいことがあってね」
「はぁ」
「男子サッカー部の件だけど、ちょっと難しそうなの」
「それは新しく作るのは無理ってことですか?」
「そうね。今年の入試は募集人数108人に対して志願者315人。志願者のうち男子の人数は98だった。去年まで女子校だった学校に入ろうとする勇気のある男子なんてそういないみたい。君みたいに勘違いしていた生徒もいないだろうけどね。それで結局何人合格したかというと、98人中36人。で、そのうち運動部に所属していたのは16人、うちサッカーをやっていたのは1人だけ。つまり、新しく男子サッカー部を作るのは不可能だと思う。あ、ちなみに元バスケ部は8人、いたらしいから男子部はできるらしいよ」
なんでそんなバスケ人口高いの?というか、サッカー経験者が1人いるのか。
「あの、その1人って誰ですか」
「キミ」
「あっ、そういう」
期待して損した。
「雪ヶ丘学園と言うからには、初等部、中等部があって、学年の半分は中等部からのエスカレーターなのよね。今年の1年生は内進組と入試組合わせて総勢216人」
「中学にもサッカー部はあるんですか?」
「そもそもうちはお嬢様学校だから、運動系よりも文化系の方が活発なのよね」
なるほど。そういった理由で人数が少ないのか。
「うちのサッカー部は現在弱小でね。設立当時は一人上手い子がいて、その時に一度全国に行ったんだけど、それ以来県大会は一回戦負け、良くて二回戦負けという状態なの」
「県大会までは行けるんですか?」
「女子はいきなり県大会なのよ」
となるとチーム数が結構少ないということか。
「彼女たちも大事な青春をかけている以上勝ってほしい。どんなゲームも勝たないと楽しくないでしょ?」
ああ、その通りだ。どんなに好きで、努力しても勝たなければ楽しめないし続けられない。
「だから、君にサッカー部に入ってほしいんです。申し訳ないけど、試合に出ることはできない。でも、彼女たちのためにも力を貸してほしいの」
「それはコーチをやれということですか?」
「そうだね。コーチといっても一緒にプレイもして、実践的に教えてほしいの。どう?」
「……そう言われても、俺は人に教えられる程の人間じゃないです」
俺がそう言うと園田先生はテーブルの上に置かれたパソコンを開いた。画面には有名動画サイトの再生ページで、≪【神技】超名門海外クラブでプレイする神童! 12歳のサッカー少年!≫という動画ページだ。そして、園田先生はカーソルを動かし再生ボタンを押した。
サッカーに詳しくない人でも知っている、有名チームのユースチームのユニフォームを着た小さな少年が華麗なドリブルで体格が明らかに大きい何人もの敵を抜き去っていく。そして、最後には一対一でキーパーと向き合い、その股を抜いてシュートを決める。その少年の笑顔は眩しく、チームメイトと抱き合って喜んでいる。
「こんなにうまい人間でもかな?」
園田先生は真剣な表情で問うてくる。
「よく調べましたね」
「どこかで聞いたことのあった名前だから、気になって調べて驚いたよ。それに、こう見えてもサッカーファンなのよ?」
彼女は微笑みながら言う。
「……サッカーから逃げた人間が誰かに教えるなんてできませんよ」
言い訳にもならない言葉が口からこぼれる。
「でも、君はもう一度サッカーを始めようと思ったのよね?もしかして、もう他のクラブに入ることが決まっているとか?」
「いえ……そういうわけでは」
「これから本気でサッカーをするつもりは?」
「したいです!でも……」
「これは、安達くんがサッカーとの関係を見つめ直す手助けにもなると思うの」
「それは……」
本当はどうしたいか決まっているのだ。だけれど、怖くて決心できない。
すると、園田先生が俺の右手を両手でギュッと握ってくる。
「君が何故、一度サッカーをやめてしまったのか分からない。無理に聞こうとも思わない。でも、面接で聞いた君のサッカーが好きだと思う気持ちは本物だったよね?私は安達くん、君が雪ヶ丘学園サッカー部に入ってくれることを本気で望んでいます」
「でも……」
「だめ?」
そうだ。迷って停滞しているくらいなら、いっそのこと新しいチャレンジをしてみるのも手なんじゃないだろうか。もし、それが自分の納得のいく形で成し遂げられたなら、もう一度、コートの上を全力で走れるんじゃないだろうか。本当はサッカー部が無いと知って安心していた自分がいた。そんなんじゃダメなんだ。一歩、踏み出そう。
「分かりました。俺をサッカー部に入部させてください」
「ありがとう!きっと大変なこともあるだろけど、その時は一緒に乗り越えていこう!」
「はい!」
俺たちは数秒見つめ合って、手を触れ合わせていたことを思い出した。
「あの、園田先生。手が……」
「あっ!ごめんっ!……えへへ」
たぶん自分もだが、園田先生は顔を赤くしてサッと手を離した。
話が終わるとら生徒指導室に来てから30分近く経っていた。
「あれ?確か集合時間8時半でしたよね?もう結構過ぎちゃってますけど、集合場所に行かなくていいんですか?」
「心配ないよ。君にだけ30分早く伝えていたから」
えぇ……。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
俺たちは再度集合場所の昇降口前に移動した。
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