第12話
「海斗!練習したことを試合で出せるのって、こんなに楽しいんだね!」
ひまわり先輩のシュートで3対1となり、いまのところ2年生チームが優勢だ。
「パラレラとジャグナウ、うまくいったね!」
委員長も初アシストで自信もついてきた。
「ああ!この調子でガンガン行こう!」
それから、打ち合いを経て得点は点数は5対2。
俺は基本的にサポートと守備に回り、委員長と左薙先輩とひまわり先輩の連携で攻めていく。
三人がうまく連携が取れてきたので、そろそろ次の段階に移ることにする。
「下北先輩!交代です!」
「つ、ついにっすか!うぉぉお!がんばるっす!」
「はい!下北先輩ならいけますよ!」
下北先輩とキーパーグローブを預かり、装着する。お互いに腕を掲げて、手首と肘の間の前腕の部分をぶつけ合い気合を入れる。下北先輩はサイドテールを縛っていたシュシュでキュッとさらに縛り直し、さらに気合を入れる。こうやってみると、下北先輩もとても可愛い。身長も小柄で小動物のような、守ってあげたい感じがする。
「おい。なんでお前がキーパーやるんだよ」
すると、松本先輩が話しかけてきた。
「下北先輩も本来はフィールドプレイヤーですからね。それに、俺はコーチなので、俺がフィールドにいなくても勝てるようにしないと」
「できるのかよ」
「できますよ。それが俺の仕事ですから」
「そうか。それは分かったが、あたしの後輩をナンパすんな」
「し、してな……!」
「ち、違うっす!」
俺が否定しようとすると、隣の下北先輩がものすごい勢いで被せてきた。
「姐さん!私は姐さん一筋っす!海斗さんは、あれっす!コーチと生徒という健全な関係っす!姐さんとは違うっす!」
「それだとアタシと舞との関係が不健全みたいになってるだろ!というか……"海斗さん"ね〜、短い間に随分仲良くなったもんだな」
「姐さ〜ん」
意地悪な言い方をした松本先輩に、下北先輩が泣きついた。松本先輩は、その頭を撫でてよしよしする。
「はいはい、分ぁってるよ。でもまぁ、舞に友達が増えるのは良いことだしな」
「ね、姐さん!」
2人で見つめあっており、いつの間にか2人で百合空間を作り出していた。女子校って、本当にお姉様的な奴が存在するんだなぁ。
仲睦まじい先輩後輩愛も見たところで、下北先輩とキーパーを交代した。やっぱりコートの中を走り回る方が性に合っているようで、楽しそうにプレーしている。下北先輩は去年すべてのポジションをやっていたというが、確かに攻守での動きがしっかりしている。これだけポリバレントな選手だと、園田先生が自慢するのも分かる。
下北先輩はパラレラで委員長からパスをもらうと、中に切り込んでシュートを打つ。シュートモーションから振り切るまでのスピードが早い、良いシュートだ。ボールはゴールネットに吸い込まれ、得点は6対2。
「やった〜!やったす!初ゴールっス!」
1点決めたことで、下北先輩は調子が出てきたのか、プレーがどんどん積極的になる。しかし、前がかりになり過ぎた。二年生たちは戦術が上手くハマった楽しさで守備が薄くなってしまう。
そこを、杏奈にカウンターを食らって、自陣には俺と委員長だけになってしまった。
「ちょ、守備!守備もしてください!点が取れるのは非常にめでたいことですけど!前行き過ぎです!」
「うわぁ!ごめんなさいっス!!!
最後の方は、普段よりもスプリントが多かったせいか、スタミナ切れでボールロストも増えたが、30分のミニゲームも終わってしまえば、8対3で二年生チームの圧勝だった。
「海斗〜!やったよ〜!こんなに点入れたの初めて!」
「戦術がハマるのって気持ちいいっスね!」
「私も初アシストしちゃいました!」
「さすがは安達くんだね」
「みんなの戦術理解と練習のおかげですね!まだまだ、課題はありますが勝てて良かったです!」
二年生チームのみんなで健闘を称えあって合っていると、松本先輩がこちらに歩いてきた。次があるような言い方をしていたが、よく考えたら、試合に勝っても松本先輩が認めてくれないとコーチにはなれないのだ。そんなことを考えてドキドキしてる糸、少しもじもじしながら
「わ、悪かったな。さっきはイヤな態度とって」
なんと、謝ってきた。
「と、とりあえず、コーチになるのは認めてやるよ。で、でもな!もし途中で舐めた姿見せたら、即解雇してやるからな!覚えておけよ!!!」
そう言い残すと、松本先輩は休憩に向かってしまった。
俺は突然の出来事に唖然として何も言えなかった。
「くふふ。姐さん、かわいい人っスよね!」
すると、下北先輩が隣に来てニヤニヤしながら言った。たしかに、意外というか、もっと厳しいひとだと思っていた。
「え、ええ。はい」
まだ困惑の中にいると、次は、鏑木先輩がこちらにやってきた。鏑木先輩もオーラがあって少し怖い。質実剛健な振る舞いで、そして女優かと思うような美人なので、気後れしてしまう。
「あ、安達君」
「鏑木部長」
「先ほどは、失礼なことを言ってしまった。申し訳なかった」
両手を体の横に付けて、ぺこり、と部長は頭を下げた。
「い、いやいや、顔をあげてください!いきなり訳も分からない男がコーチになると言われたら、戸惑うのは当たり前ですから!」
「疑うような前をしてしまったのは事実だからな。これから一緒に部活をやっていくなら、こういうことはきちんとしないといけない」
「認めていただけるんですね。ありがとうございます」
こういうことをちゃんと言葉にしてくれるのはありがたいし、部長としての責任感がある、とても頼り甲斐のある人だ。しかし、鏑木先輩は、頬をかきながら言いづらそうに言葉を続けた。
「いや、そうだな、正直に言うと、まだ戸惑っている。私は、その。雪学に幼稚園の頃から通っていてな。その、あれだ。お、男の子と、は、話すのは、パパ以外ほとんどなくて、そのだな。恥ずかしいというか、なんというか」
先ほどまで凛とした表情をしていた鏑木先輩の耳が赤くなって、こちらもなぜか照れてしまう。
すると、下北先輩が
「部長ってお父さんのこと、パパって言うんスね!意外っス!」
とっても余計なことを言った。俺もちょっと気になっていたけど!そこはデリケートでしょう!
「し、下北先輩!」
鏑木先輩は耳の赤さが頬に伝わり、次第に顔中が真っ赤になって、今にも爆発するのではないかと心配になる。
「うっ」
鏑木先輩が何か声を発した。
「「う?」」
「うぅっ」
もう一度。そして、鏑木先輩は爆発した。
「うがぁぁあああ!男の子に高3にもなってパパのことパパって呼んでるイタい子だと思われたぁぁああ!」
ビューンと走り去ってしまった。
「……この学校のサッカー部、ユニークな人が多いですね……」
「残念美人の集まりっス!」
下北先輩が楽しそうにそう言って、俺はつい遠い目をしてしまう。
サッカー部に入ることを認めてもらえたのは大変嬉しいが、なぜだか今後が不安になってきた。
多くの人に楽しんでもらえる作品を書きたいものです。日々精進ですね。
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