第11話
時間は、チーム練習でのミーティングまで遡る。
「俺たちの戦術は、パラレラとジャグ
ナウです」
円になって集合した2年生チームにミニゲームでの戦術の共有する。
「ぱられらと?」
「じゃぐなう?」
委員長とひまわり先輩が首を傾けながら聞いてくる。みんな初めて聞いた言葉のようだ。
「はい、フットサルで代表的な戦術なんです。パラレラは中央からサイドへパスを出して、自分は方向を変えて素早く移動し、平行にパスを受ける戦術です。それに対して、ジャグナウはパラレラと逆の動きをします。中央からパスを出したら、逆サイドのスペースに走ってボールを貰います。この二つの戦術で相手を撹乱して、隙を作ります。この動画を見てください」
俺はサッカー用に持ち歩いてるタブレットを開いて、パラレラとジャゴナウを実践している動画を見せる。
「なんか難しそう……。私たちにできるのかな?」
左薙先輩が不安そうに聴いてくる。
「動きさえ理解すれば、やることは単純なので大丈夫です。パラレラはポルトガル語で平行、ジャグナウは斜めを意味しますから、そのイメージで覚えてみてください」
「平行と斜めか……」
「それで、パラレラとジャグナウをするためには、他のチームメイトが相手を引きつける必要があります。それは、俺がやるので、委員長と左薙先輩はパスを、ひまわり先輩はボールのもらい方、スペースの走り方を練習しましょう。下北先輩は俺と交代で守備役と引きつけ役をやりましょう」
「私もっスか?」
下北先輩が意外そうな顔をした。たしかに、下北先輩にはゴールキーパーをお願いしていたが、俺にそのつもりはなかった。
「はい。試合の途中で俺がキーパーをやるので、ちゃんと俺の役割をできるようにしてください」
「い、いやいやいや、いきなり無理っすよ!万年補欠の私なんかが……」
「下北先輩は本来フィールドプレイヤーなんですから、ちゃんと走り回ってもらわないと。これからコーチをやる人間がでしゃばってばかりでもいけませんからね」
「で、でも……」
「雪学が誇るオールマイティーなんですから、自信持ってください!とにかく、時間もないので動きを体に叩き込みましょう!」
考えていても仕方がないので、実際に練習に移ることにした。委員長は基礎練習を終えた俺たちは、二年生に混じり、戦術練習を開始した。
「いかにしてディフェンスを剥がすかが重要です。パサーとのタイミングを合わして、パスを受ける体勢を使ってください」
実際に、パラレラとジャグナウの動きをしながらアドバイスを出す。
「ひまわり先輩、動きが分かりやすすぎます!一回内側に入るフリをして、外側に走ったり、逆のことをしたりしてください!」
「おっけい!」
「左薙先輩!フィールド全体をよく見て、パスは足元に出したほうがいいのか、スルーパスがいいのか、それとも他の人にパスをした方がいいのか判断してください!」
「分かった!」
「委員長はとにかく正確なパスを意識して!ワントラップで止めてからで大丈夫だから!」
「うん!」
「下北先輩は、引き付け役と言いましたが、自分でボールをもらってシュートしても良いです。とにかく相手を惑わしてください。さっき守備をして、俺にどういう動きをされたら嫌か分かったと思います。その動きを今度は自分がしてみてください!」
「はいっす!」
10分ほどノンストップで練習をしたら休憩を挟む。みんな、座り込んで肩で息をしている。
「も、もう無理〜。キツすぎるよ海斗〜」
「とは言っても1分休憩したら残り2セットやりますよ?」
「「「「えっ!?」」」」
四人が同時に驚きの声を上げる。
「でも、これくらいインテンシティ高くないと練習した感がなくないですか?」
「そ、それは安達君だけだよ〜。受験明けでそんな動けないよ!明日絶対筋肉痛だぁ〜」
委員長は受験期間はひたすら勉強で運動はしていなかったのだろう。それはキツいだろう。
「クールダウンのストレッチ、ちゃんとしような」
「安達きゅんが悪魔きゅんになっちゃった……」
委員長は諦めたように人工芝の上に大の字で寝っ転がった。
「ねーねー、インテンシティ?ってどういう意味?」
ひまわり先輩がこちらに近寄って聞いてくる。
「あ、それは私も思ったス!」
続いて、下北先輩も水分補給をしながら尋ねてきた。たしかに、これからコーチをやるなら分かるように一から説明するべきだった。
「あ、すいません……!つい専門用語使っちゃうんですよね」
「たしかに、安達くんはカタカナ多いかも。でも、インテンシティは普通に英単語だから知ってなきゃまずいけどね?」
ひまわり先輩と下北先輩が目を逸らした。あまりお勉強が得意なタイプではないのかもしれない。それに、俺も分かるように説明すべきだった。反省しなきゃ。
「ま、まああまり聴き慣れないですよね!インテンシティは直訳すると強度。だけど、サッカーで使う場合はちょっと違うイメージですね。簡単に言うと、本番の試合並みのプレッシャーの中で練習しようぜ!って感じです。人によって解釈はまちまちですけど」
「難しいことはいいから、もうちょっと休ませてよぉ〜」
胡座をかいて座っていた俺に、ひまわり先輩が甘い声を出しながら背後からあすなろ抱きをするように覆いかぶさってきた。
「ちょ、ちょちょひまわり先輩!?!?」
走り回って汗かいてるのにめっちゃいい匂いする!それに、背中に控えめだけど確かな膨らみが!!!!
「だ、ダメです!休憩を伸ばすのもダメだし、この体勢もダメです!」
「もうちょい休ませてよぉ〜」
「いや、あの!」
「ぐぇ!」
あまりの出来事にどうすることもできなくなっていると、それを見兼ねた左薙先輩がひまわり先輩を引き剥がしてくれた。そして、委員長はほっぺたを膨らませており、何故か下北先輩が顔を赤くしてモジモジしていた。
「安達君!エッチなのはよくないって昔から言ってるよね!」
「海斗さん、ハレンチっす!!!よくないっす!」
「俺のせいじゃないですよ!」
「ひまちゃんも、そーゆーやらしいことしない!」
「え〜。ただのスキンシップだよ〜」
いや、さっきのストレッチのとき、左薙先輩も同じことしてましたけど!と言おう思ったが、そんな勇気なかった。左薙先輩は怒らせてはいけない気がする。それに、今助けてくれたし。
とにかく、俺がしばらく立てそうになかったので、休憩を一分伸ばすことにした。なぜ立てなかったは察して欲しい。
紆余曲折あったが、その後もパラレラとジャグナウの練習をひたすら積んだ。
そうして、俺たちはミニゲームで試合の流れを支配することに成功したのだ。
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