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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生女神はヒトデナシ

作者: 走不 歩

 とても女神様の性格が悪いです。平和な異世界転生・転移が好きな方は避けた方が良いと思います。

 


「あはは、死んだ! 死んだよ! ばっかだよねぇ。分不相応な力なんて手に入れるからだ」

「うるせぇ、くそ女神」


 俺はそう言うと女神に持っていたカステラを投げつける。だが、女神には当たらない。空中で静止するどころか、包装紙が剥がれ食べやすいサイズにカットされる。そして、三分の二は女神に、三分の一は俺の目の前に皿とともに置かれる。


「くそとは失礼だなぁ。ボクが寛大じゃなかったらキミはボクに体を滅茶苦茶にされてたよ。それとも内蔵抉られたい? そう言う趣味?」


 薄氷のような瞳を歪めながら、女神は俺に問う。勿論答えなんて決まっている。


「そんな趣味持ってねぇし、カステラ食って大人しくしてろ。オレの分も食ってくれて構わないから。テメェの笑い声は不愉快だ」

「ええー、せっかく面白いのに! 今のリピート再生したぁい!」

「悪趣味にも程がある。人が発狂死してるの見て楽しむなんてやっぱりお前女神じゃなくて悪魔の類だ」

「悪魔じゃないよぉ。女神だよぉ!」


 おどけて言う姿は長く綺麗な黒髪に薄氷のような猫目、耳はとんがっていて、角まで付いている。人外じみたその要素に加えて、彼女から感じる空気感の異様さは確かに神に等しいであろう。けれど、その感性は俺の思っている女神とは全く違う。こいつは残虐非道の享楽主義のクソ悪魔だ。


「あれれぇ、今失礼なこと考えた? 考えたよね? キミもさっきの彼みたいになりたい?」

「真っ平御免だ。それにテメェはなんだかんだで俺を送らないのを知ってる。その脅しはもう通じねぇぞ」


 そう言ってカステラを口に入れようとするが、先程見た少年の末路を思い出して食べることができなかった。


「あれれぇ? 大丈夫、あんなのいつも通りでしょ、いい加減慣れたら?」

「慣れてたまるかっ! 俺はぜってぇお前みたいなヒトデナシにはならない!」

「ヒトデナシは罵倒のつもりなんだろうけど、ボクは残念なことに元から人じゃないから」

「そういうことじゃねぇんだよ、くそが!」


 中学生くらいのガキだった。多分ファンタジー世界に憧れていたのだろう。異世界に転移、しかも欲しい力は今言えばあげると聞いて、目を輝かせてた。それが地獄への片道切符だとも知らずに。

 少年が願ったのは強い力と魔法。女神は文字通りその二つを彼に与えた。流石に言語が通じないのは可哀想だと俺が散々他の提言とともに言った成果もあって、言語は通じるようにしたが、それでも成熟しきってない彼の転移後は悲惨だった。

 最初の方は嬉々として世界を楽しんでいたが、その内ホームシックになったのか元の世界の家族や友達の名前を口にして泣いてた。まだ若いからそれも当然だろう。慣れてくると現実も見えてくるしな。更に重症化すると、俺たちが見ていることを知らないのに一人で空に向かって叫んでいた。


「元の世界に返して!」

「母さんのこと嫌いだとか思ったけど、喧嘩ばっかだったけど、会いたい!」

「真司との約束破ったのに謝ってない!」


 悲痛な声に何もできない俺は目を逸らした。隣で女神という名の悪魔は薄氷の目で冷徹に見下ろしていた。哀れみも罪悪感も全くない。ただ少年をバカにしきった目だった。


 一言「返すわけないじゃん」と言って優雅にお茶を飲み始めたのだからとんでもない。


 そしてさっきのあれである。少年がなんとか異世界の友達と立ち直ったところで、少年の魔法が暴走して敵を仲間もろとも塵にした。唯一の心の支えをなくした少年は発狂、魔法をまた暴発させて死亡した。それを女神は嗤った。まごうことなくクソ外道だ。


「私はちゃんとあの子が望む通りに力を与えただけだよぉ。強い力と魔法。上手くコントロールできるとか本人言ってなかったし、強大な魔法にリスクがあるのなんて当然じゃん。それどころか圭、キミが泣きそうな目して頼んでくるから言語能力与えてあげたんだよぉ。優しくない?」


 俺の心を読んだのか女神はそんなことをぬかす。


「お前とは正反対な言葉をよく言えたな。そもそもテメェが異世界転移、又は転生させなければ誰も悲惨な目に遭うことはねぇんだ」


 ここは女神の住処。およそ十ある世界の中継点のようなもので、女神が暇つぶしに人を世界から攫っては望む能力を与えて、他の世界に転生、又は転移させる場所。世界から一度取り出したら終わり、二度と元いた世界には戻れない。女神に攫われたら最期、異世界に行く他はない。俺の場合はかなりイレギュラーでこの中継点にずっといるが、女神に強制的に異世界で暮らす人々を見るのは苦痛でしかない。


「だって、暇だからさ。娯楽が欲しいんだよ。娯楽が!」

「テメェの悪趣味で人を巻き込むんじゃねぇ。頭大丈夫か」

「心配してくれてありがとう。でも、ボクは元からキミたちとは価値観が違うんだ。キミらの命の価値はボクの娯楽程度か、それ以下だよぉ」

「心配なんかしてたまるか!」


 俺は何故、このクソ女神が俺をこの世界と世界の中継点に留まらせているのか知らない。だけど、毎回、毎回、人々が悲惨な目に遭うのを何も出来ずに見ていると、気が狂いそうになる。けれど、それすらもこのクソ女神は許してくれないらしい。俺は未だに正気を保っている。いや、もしかして俺はもう狂っているのかもしれねぇ。

 でなきゃ、食えなかったとはいえ、子供が悲惨な死を遂げた後にカステラを食おうとしたのだから。


「はは、俺もヒトデナシかぁ……」

「残念だけど、キミは人だねぇ。じゃなきゃそこまで騒がないでしょ。君ら人間だって虫とか遊びで捕まえて虫かごに入れて弱らせたりしてるってのにねぇ……どこが違うんだか」


 神様って人間にそこまで情けかけてくれるかなって思ってしまうんです。いや、きっといい神様もいるとは思うんですけど、中には人間から見て最悪な奴もいるのではと思ったのです。

 読んでくださった方、ありがとうございます。すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませて頂きました。 こういう女神様は斬新だなと思いました。
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